「2025年には、総観客動員数が1,000万人超えに!」——これはサッカーではなく、近年伸長著しいeスポーツについての予測【グラフ1】。コロナ禍や情報端末の普及で急成長したeスポーツ、2026年にはアジア大会、2027年には、オリンピック委員会の認める世界大会がサウジアラビアで開催される。こうした盛り上がりの中で、eスポーツを大学の正課に取り入れる大学も現れた。

 5年前、《起業する大学》を目指して《ICT×ビジネス×グローバル》をキャッチフレーズに開学、昨年、大学発ベンチャー起業率で一位、増加率1年連続1位となったiUだ。関連市場を含めた国内の市場規模は200億円に迫るとも言われ【グラフ2】、広いすそ野を持つeスポーツ【グラフ3】を起業の一つの柱と位置付ける。同大で、eスポーツプロジェクトを担うのは実業家でありコンサルタントの江端浩人教授。大学とeスポーツ、iUのeスポーツのこれまでと今後の展開についてお聞きした。

 

【グラフ1】

 

【グラフ2】

 

【グラフ3】
※グラフについては全てJeSU発行の『eスポーツ白書2024』による

連携する「INSOMNIA」の優勝で、2025年度が幸先のいいスタートを

 本学と墨田区と公民学連携協定を結ぶeスポーツチーム「INSOMNIA」(株式会社INS、本社:東京都墨田区、代表取締役:本橋壮太)が、2025年3月29、30日に開催された「Pokémon UNITE Asia Champions League 2025 FINALS(PUACL2025FINALS)」で優勝【写真下】、8月に開催されるポケモンワールドチャンピオンシップス2025(以下「ポケモンWCS 2025」)にアジア王者として出場します。ポケモンユナイトは2026年愛知県で行われるアジア大会でも13の種目の一つに入れられていますから、「INSOMNIA」にはアジア大会への出場、そこでの活躍も期待されます。

始まりは2023年秋

 本学のeスポーツの取組は、JeSU※1の特別顧問でもある中村伊知哉学長の肝いりで、2023年秋に発出した以下の6項目からなる「eスポーツ戦略」に始まります。
① eスポーツを学ぶ実践的カリキュラムの構築
② eスポーツ活動の科目の単位認定
③ eスポーツ活動のための学内施設整備
④ eスポーツを軸とした学校コミュニティーの発足
⑤ eスポーツによる地域貢献
⑥ 関連各種イベントの実施
これを受け2024年春にはeスポーツルーム【写真下】が開設されました。

 私は2020年の開学以来、1年の必修科目「スタートアップ基礎」でアントレプレナーシップと、2022年のゼミ開設からは「勝手にコンサル」と名付けたゼミ活動を担当してきました。「勝手にコンサル」では、企業訪問を通じて学生の視座を高めるとともに、起業にZ世代の学生の意見を提供して企画提案を行いますが、2024年度秋学期からは、これを「Zコンサル」と「eスポーツ」に分けました。後者ではゼミ生が、eスポーツの大会運営・チーム運営等に関わるほか、国際教育eスポーツ連盟ネットワーク(NASEF)の日本本部(NASEF JAPAN)との連携で、NASEF の発信するニュースを翻訳、現在550以上のNASEF JAPANに加盟する国内の高等学校に配信しています。また私自身も、日本eスポーツアワードの審査員を務めています。 

※1 日本eスポーツ連合 :2015年設立。ゲーム会社などの企業や団体、学校法人などが正会員、賛助会員として加盟。活動の目的は、
1.eスポーツ振興に関する調査、研究、啓発
2.eスポーツ競技大会の普及
3.eスポーツ競技大会におけるプロライセンスの発行と大会の認定
4.eスポーツ選手育成に関する支援
5.eスポーツに関する関係各所との連携

2025年から本格的なeスポーツの学びが始まる

 今春からは、ゼミだけでなく一年生の基礎科目「eスポーツ」が開設されることになり、その担当として、2クラス、最大80人の学生を教える予定です。内容はeスポーツの構造、配信技術、チーム運営、大会運営、地域活性化、ビジネス、マーケティング、メディア、コミュニティー運営など盛りだくさんです。また実践家として「INSOMNIA」の本橋代表はじめ活躍した選手などをゲストスピーカーとしてお招きする予定です。近い将来、「eスポーツを学んで卒業できるコース」(阿部川久広学部長)創設の布石になればと、大いに期待しています。

 eスポーツはプロのプレイヤーになるには極めてハードルが高いですが、大会運営、チーム運営などの関連業務や、スポンサー集め、グッズ等の物品販売、調査研究、教育提供、カリキュラム策定など、ビジネスのすそ野が広く、しかも全く新しい分野でもあり、起業の種がたくさん眠っています【グラフ3】。有力なベンチャーが生まれることも期待できますから、起業家育成教育にとってはまたとない分野であり、日本の産業競争力の強化にもつながると考えています。

 またチームで戦うeスポーツは、今の若者に課題とされるコミュニケーション能力や他者と協働する力を養うのにも適しています。競技のために高性能のコンピューター相手に日々試行錯誤する経験は、ゲーム以外の分野のプログラマーやコンピュータエンジニアとして活かせます。また遠隔の重機の操縦などでも、eスポーツ経験者は極めて歓迎されているとも聞きます。

生徒急増中の通信制高校の受け皿や、高大連携の積極的な展開も

 通信制高校の中にはeスポーツに力を入れる学校も多いですが、高校時代にeスポーツに親しんだ生徒たちに、競技者になるためだけでなく、ビジネスや起業について学んでもらうことも大学の大きな役割だと思っています。また施設設備の面から高校での活動には限界がありますから、指導者の派遣、eスポーツルームの提供など、高校との連携も深めていきたい。すでにeスポーツルームの提供は昨年より実施していますし、指導者の派遣については、この春までに複数の高校から打診があり、夏には実施する予定です。

地域連携とその活性化

 本学は墨田キャンパスの立地する墨田区と、開設前から包括連携協定を結び、『すみだメディアラボ』の運営(BSよしもとが参画)等を始め、様々な連携を行い地域の活性化に協力してきました※2。加えてINSOMNIAの墨田区への移転に伴う公民学の連携※3をきっかけに、それをさらに強固なものにして大きな成果に結びつけていきたいと考えています。

 その一つが、まだ構想段階ですが、墨田区のeスポーツの聖地化です。墨田区には相撲の聖地ともいえる蔵前国技館がありますが、その国技館ではこれまで、各種興行団体によるオフラインの競技が何度も行われ、たくさんの観客を集めています。そこで墨田区のeスポーツチームと本学が協力して、チームと地元ファンの育成に力を入れていけば、《墨田区をeスポーツの聖地にする》ことも夢ではないと思っています。

※2 学生食堂やグラウンドの一般開放に加え、「すみだものづくりフェア」、小学生のための「墨田夏休みスタートアップゼミ」、「大学のある町の夏休み」での防災キャンプなどにiU生が協力するほか、学園祭も市民に開放している。
※3 INSOMNIAは日本初の公民学連携のeスポーツチームとされる。

「プロeスポーツプレイヤー」が男子中学生が将来なりたい職業の2位に
※ソニー生命による「中高生が思い描く将来についての意識調査2021調査」(2021年6月9日~6月17日)

1位は「YouTuber」で、「ゲーム実況者」が5位と、ゲームやeスポーツと関連性の高い仕事が上位にランクイン。

1位▶YouTuberなどの動画投稿者(23%)
2位▶プロeスポーツプレイヤー(17%)
3位▶社長などの会社経営者・起業家(15%)
4位▶ITエンジニア・プログラマー(13%)
5位▶ゲーム実況者(12%)

 

iU情報経営イノベーション専門職大学教授

江端 浩人 先生

上智大学経済学部卒、米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)。伊藤忠商事で宇宙航空部門で活躍、ITベンチャーを創業後に売却。日本コカ・コーラでデジタルマーケティングを創設、日本マイクロソフトマーケティング責任者、ディー・エヌ・エー(DeNA)事業責任者などを経て独立。江端浩人事務所代表として各種企業のデジタルトランスフォーメーションやCDOシェアリング、次世代デジタル人材の育成に尽力している。メンバー7000名超の次世代マーケティングプラットフォーム研究会主宰。東京都立三田高等学校出身。

 

情報経営イノベーション専門職大学

まだない幸せをつくる。ICTを活用しグローバルにイノベーションを起こす人材を育成

情報経営イノベーション専門職大学、通称『iU』は、ICTテクノロジーやビジネススキルを活用して社会課題を解決するエンジニア、コンサルタント、起業家として、世の中に新しいサービスやビジネスを生み出すイノベーターを育成しています。「社会人に求められるビジネススキル[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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