山口大学大学院医学系研究科の渡邉義文教授らの研究グループは、長寿遺伝子産物である酵素「サーチュイン」(SIRT1)が脳で活性化するとストレスを長期間受けてもうつ病になりにくくなる可能性をマウスで確認。米科学誌「Biological Psychiatry」電子版に掲載されました。

 人間の脳はストレスを受けても適応できるようになっていますが、ストレスを感じる度合いは人により異なり、また適応できない人もいます。なぜこのような差が出るのか、その原因は分かっていませんが、うつ病など精神疾患の病態を解明し、予防するにはストレスを受けた脳内でどのような変化が起こるのかを知ることが重要となります。

 同研究グループは、これまでにうつ病患者でサーチュイン遺伝子(SIRT1)の発現量が減少することを報告していますが、SIRT1の発現・機能異常とストレス誘発性のうつ病との因果関係はいまだ不明です。今回の研究では、遺伝的背景の異なるBALB/c(BALB)マウスとC57BL/6(B6)マウスにストレスを与えて不安行動を測る試験を行い、それぞれの脳内にどのような違いが見られるか観察しました。その結果、不安・うつ様行動の増加が認められたBALBマウスでは脳内の海馬と呼ばれる部分でSIRT1の量が減少。不安行動の増加が認められなかったB6マウスではSIR1の量にも変化は見られませんでした。薬剤を用いてBALBマウスの海馬でSIRT1を活性化させるとストレスに強くなり、逆にSIRT1の働きを弱めると軽度なストレスでも適応できなくなることも分かりました。

 このSIRT1がストレス反応に必須かどうか確かめるため、BALBマウスの海馬に野生型SIRT1、活性を阻害するDN型SIRT1をそれぞれ過剰発現させた結果、DN型を過剰発現させたマウスでは不安行動の増加が観察された一方で、野生型を過剰発現させたマウスでは不安行動が消え、ストレスに適応するようになりました。これらの結果から、SIRT1 はストレス反応に重要な因子であるといえます。

 今後さらに研究を進めることで、ストレスを受けた脳の全容解明、ならびにうつ病や不安障害の原因解明、さらにはSIRT1を標的とした新たな治療薬の開発に向けた取り組みの推進が望まれています。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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