55年ぶりとなる新しい大学が、来春スタートします。専門職大学※1です。
企業との連携により、理論に裏付けられた高度な実践力を持ち、変化に対応する応用力、創造力を発揮できる専門職業人材の養成を目指す新しい種類の大学で、2003年に、《理論と実務の架橋》を目指してスタートした専門職大学院の学部版といえます。
2019年度の開設に向けて、専門学校を運営する9法人から13校の設置認可申請が国に対して行われており、2020年度以降も各地で開設に向けた動きが進むと見込まれます。少子化が進み、大学再編の足音も聞こえる中、新たな学校種が求められる背景や、その狙いについて、文部科学省高等教育局・義本博司局長にお聞きしました。

※1:専門職短期大学(2年制または3年制)も同様に制度化されたが、以下は専門職大学(4年制)を念頭に説明している。

 

大学、専門学校それぞれの良さを取り入れ、それぞれの弱点を補強

 専門職大学は、大学のアカデミックな学びと、専門学校の実践的な学びの双方の良さを兼ね備えたものです。 現在の専門学校の教育は、国家資格などの取得や特定の技術についての即戦力の養成に強みを持っています。カバーする分野は、主に理美容、保育、医療・介護・福祉、サービス産業などですが、たとえば今、介護分野を例にとると、人手不足等から介護ロボットの導入が進むなど働き方が変わりつつあり、介護そのものの知識・技術だけでなく、異なる分野、専門についても視野を広げ、知識を持つことが求められるようになっています。国家試験に合格することは大事ですが、それだけで安心はできない。技術革新のスピードや、産業構造の転換が速まり、学んだ技術や身につけた能力が陳腐化しやすくなるとともに、個々の職業人に求められる能力が高度化してきています。どの業種、分野でも何らかのイノベーションを起こしていかないと生き残れない。自分のよって立つ分野を牽引しようと思えば、専門知識・技術だけでなく例えば経済やビジネス、マーケティングを学んで、その成長戦略を幅広い視点から考える能力も求められるのです。また、人生100年時代とも言われ、社会に出た後も学び続ける・学び直す必要性がますます強まることに備えて、学びに向かう姿勢や態度、幅広い視野の下で自分の頭で考える力なども養っておきたい。

 このように考えると、従来の専門学校よりも修業年限を増やし、周辺領域の学びも含め、幅広い知識、知見を身につけるとともに、産業界と連携して、強みである専門性、実践性を一層磨くことができる新たな高等教育機関を創る必要があると考えたのです。

 一方、大学は、現在700を超える数がありますが、一口に大学といっても世界最先端の研究を行うもの、地域に根ざした人材の育成に取り組むものなど、多種多様な教育が「大学」の中に含まれるようになっています。そこで、多くの学生が大学卒業後に就職することを踏まえれば、アカデミックな学びに加えて、職業能力を高めたり、実践的なスキルを磨いたりして、専門職業人の養成に力をいれる大学がもっと増えた方が良いのではないか。インターンシップやPBL(課題解決学習)がここ10年ほどで広がってきましたが、これまでの大学教員の多くは学問を追求してきた人たちですから、カリキュラムもアカデミック志向になりがちです。しかし、観光系の学部・学科を例にとれば、学問としての“観光学”を極める大学があっても良いのですが、理論だけでなく、ホテルや鉄道会社が求めているマーケティングやアセットマネジメントについて学んだり、航空券の発券システムなど現場の実務についても学ぶようなタイプの学部・学科も求められているのではないでしょうか。あるいは、地方の大学がその存在意義をもっと高めるには、例えば看護師養成を幹としつつ、観光や農業の6次産業化、コ・メディカルや介護福祉など、人口減少が進む地域の将来像を見通して応用力を育てる教育を行うなど、地域の産業界と連携した実践的で特色ある教育課程が作られていくことも必要ではないか。

 このような議論を経て、高度な実践力と豊かな創造力を持つ専門職業人材の育成に特化した、専門職大学という新しいタイプの大学ができることになりました。

 

専門職大学の教育の特徴、その将来は

 専門職大学は、大学の一類型として制度化されていますので、設備などの基準はおおむね大学のそれに準じますが、カリキュラムの内容や教員の基準は、既存の大学とは大きく異なるものとなっています。

 例えば、専任教員のうち4割以上は、専攻分野で概ね5年以上の実務経験があり、高度な実務能力のある実務家教員とし、そのうち半数以上は研究能力も併せ持つ者となっています。カリキュラムのうち40単位(約3分の1)以上は実習で構成され、そのうち20単位(600時間相当)以上が企業等での長期の実習(臨地実務実習)となります。これにより、企業等の現場での生きた最新の知識・技術と、理論の両面をバランスよく学ぶことができます。

 制度創設に至るまでの議論の過程では、あえて新しい学校種を作らなくても、これまでの大学の枠組でもできるのではないかというご意見もありました。ただ、質の高い実践的な職業教育を行う大学の姿を制度として示すことの意味は非常に大きい。そういう意味で、専門職大学はこれまでの大学教育のあり方に対するチャレンジであり、既存の大学へのカンフル剤でもあると考えています。

 新制度の成否を占うポイントは、専門職大学を卒業した方が社会でどれだけ活躍できるかという出口での評価、そしてそれと裏表の関係になりますが、入口で保護者の信任をどれだけ得られるかにかかっていると思います。規模感から言うと、即戦力となる人材育成などで専門学校の教育へのニーズは引き続きあるでしょうし、2800を数える専門学校のうち専門職大学に転換してくるのは一割もないものと思っています。むしろ、専門職大学制度の創設と併せて、既存の大学の一部の学部・学科で職業教育を行う「専門職学部・学科」の制度も設けましたので、既存の大学からの転換にも期待をしています。

 

どうなる?これからの大学、学び方にも変化が

 本年6月に、政府の人生100年時代構想会議が取りまとめた「人づくり革命 基本構想」では、人づくり革命を牽引する重要な主体の一つとして、時代に合ったかたちに大学改革を進めなければならないと提言されました。これと並行して中央教育審議会でも議論が進んでいますが、各大学の機能・役割の明確化、大学教育の質の向上、学生が身に付けた能力・付加価値の見える化、経営力の強化など多岐にわたる論点について、社会のニーズに対応し、大学教育の質の向上を図るため、大学にも変化が求められています。

 今後、時代の変化はますます速くなるでしょう。好むと好まざるとにかかわらず、高校や大学を卒業して就職した後も、技術や環境の変化に対応するため、学び続ける・学び直すことにより、キャリアアップ・キャリアチェンジをしていくことが社会人に求められるようになります。専門職大学は、高度な実践力と豊かな創造力を兼ね備えた専門職業人材を育成する機関であり、社会人の学びの場としても機能していくことが期待されます。

 

2019年度開設の認可申請があった専門職大学13校

平成31年度開設予定大学等認可申請一覧(平成29年12月)文部科学省HPより

 

国際工科専門職大学

【学校法人 日本教育財団】(東京・愛知・大阪)
■東京工科学部
■大阪工科学部
■名古屋工科学部

国際ファッション専門職大学

【学校法人 日本教育財団】(東京・愛知・大阪)
■国際ファッション学部

専門職大学東都学院大学

【学校法人 小関学院】(東京・神奈川)
■保健医療学部

東京医療福祉専門職大学

【学校法人 日本教育財団】(東京)
■医療福祉学部
■看護保健学部

東京専門職大学

【学校法人 敬心学園】(東京)
■医療福祉学部

金沢専門職大学

【学校法人 国際ビジネス学院】(石川)
■職業経営学部

名古屋医療福祉専門職大学

【学校法人 日本教育財団】(愛知)
■医療福祉学部
■看護保健学部

京都専門職大学

【学校法人 大和学園】(京都)
■実践栄養調理学部

大阪医療福祉専門職大学

【学校法人 日本教育財団】(大阪)
■医療福祉学部
■看護保健学部

島根保健福祉専門職大学

【学校法人 仁多学園】(島根)
■保健科学部

岡山医療専門職大学

【学校法人 本山学園】(岡山)
■健康科学部

高知リハビリテーション専門職大学

【学校法人 高知学園】(高知)
■リハビリテーション学部

福岡専門職大学

【学校法人 福岡医療学院】(福岡)
■保健医療学部

※上記は申請時のものであり、変更や不認可となる場合があります。

 

文部科学省高等教育局長
義本 博司氏
1984年文部省入省、2008年高等教育局大学振興課長、2009年同高等教育企画課長、2013年大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、2014年大臣官房審議官(高等教育局担当)、2016年大臣官房総括審議官、2017年高等教育局長(兼)内閣官房人生100年時代構想推進室長代行補。

 
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大学ジャーナルオンライン編集部

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