名城大学薬学部の武永尚子准教授(有機合成化学)は、有機化学の学習において記述式課題と個別フィードバックを組み合わせた教育介入を行い、学習者の本質的な理解が深まるプロセスと教育効果を明らかにした。
薬学部をはじめとする理系学部では、有機化学は専門基盤となる学問である。有機化学では、反応メカニズムを論理的に捉えることが重要であるが、その概念の複雑さから、表面的な丸暗記に頼りがちになり、本質的な理解に至りにくいことが問題視されている。
記述式課題やフィードバックは、学習者の本質的な理解の深まりに有用であることがこれまで定性的に語られてきた。そこで今回の研究では、これらを組み合わせた教育介入が学生の理解をどのように変化させるのか、縦断的データ解析で客観的に検証することを目的とした。
既習範囲を重ねて復習する「累積型」の記述式課題(Writing-to-Learn)を用いて、知識を書き写すのではなく、自身の言葉や描画によって概念理解を深める学習法を取り入れた。さらに、個別のフィードバックを継続的に提供する教育介入を実施した。
学習の成果は、単なるテストの点数ではなく、学習履歴データを評価基準(ルーブリック)に基づきデータ化し、学習者の本質的理解の変化を定量的に捉えた。そして、個人差(初期能力や学習傾向)を補正した縦断的データ解析(線形混合モデル)により理解度の成長軌跡を評価した。
その結果、学生個人の初期能力の違いにかかわらず、回数を重ねるごとに根本的な誤解(Major Error)が減少し、論理的な理解(Mastery)を示す割合が統計的に有意に増加することが示された。
本研究に関する論文は、教育現場における指導の実践と高度な統計解析を結びつけ、学習者の論理的理解の成長プロセスを客観的に可視化した点が評価され、アメリカ化学会(ACS:American Chemical Society)により選出率1%未満の「ACS Editors’ Choice」に選定された。この成果は、有機化学や薬学教育にとどまらず、他の理工系・医療系科目にも応用可能な教育改善のモデルケースとなることが期待される。
