筑波大学、東京大学の共同研究チームは、大人の脳内で再生するわずかな神経細胞(新生ニューロン)が、レム睡眠中に記憶を定着させる働きをすることを明らかにした。
大人の脳では、失われた神経細胞は二度と再生しないと考えられてきたが、近年、記憶に深く関わる脳部位である海馬では、大人でもごく少数の新生ニューロンが生じることが明らかとなってきた。また、記憶の定着には睡眠が重要な役割を果たすことが知られているため、本研究では、起きている間に恐怖体験を学習させたマウスの、その後の睡眠中の新生ニューロンの活動を観察することで、記憶の定着と睡眠中の新生ニューロンの活動の関係を調べた。
その結果、睡眠中には新生ニューロンの活動が全体的に低下したにも関わらず、怖い体験をしたときに活動していた新生ニューロンだけは、夢を見る期間であるレム睡眠中に再活動していることが判明した。さらに、新生ニューロンの活動を光刺激によりさまざまに操作してみたところ、発生から1か月程度の成長中の新生ニューロンの活動をレム睡眠中に抑制した時に限って、マウスが恐怖記憶を忘れてしまうことが分かった。新生ニューロンは神経幹細胞から生じてから2か月程度で完全な神経細胞に成長するが、生まれた直後や成長しきった新生ニューロンでは同様の現象は起こらず、またノンレム睡眠中に新生ニューロンの活動を抑制した場合にも同様の現象は見られなかった。
以上から、レム睡眠中の成長途上の新生ニューロンの活動が、記憶の定着に重要であることが示唆された。今後は、新生ニューロンが睡眠中に記憶を定着させる仕組みの解明を進めることで、アルツハイマー病などのニューロンが失われる病気や、PTSDなどの記憶処理に異常を来す疾患に対する新しい治療法の開発に応用できる可能性がある。