実践女子大学・実践女子大学短期大学部は、「女性が社会を変える、世界を変える」という建学の精神の下、1899年に設立した実践女学校、女子工芸学校を前身として120年以上の歴史をかぞえます。社会に求められる知性と徳性を備えた品格と、学んだ知識や教養を社会に役立て、自立自営できる『実践力』をあわせもつ女性を、時代の要求にしなやかに対応しながら育成してきました。社会が急激な構造的変化を遂げる現在、学園の名称にも掲げる真の『実践力』を育むために学園全体で積極的に取り組んでいるのが「学生と社会との接続」です。その理念と具体的な実績・効果について、実践女子大学・実践女子大学短期大学部難波雅紀学長にお話いただきました。

 

 

「社会」と「学内」での重層的な学びが、課題解決型の『実践力』を育む

 多様化が急激に進み、流動性を増す複雑な社会の中では、地球規模で解決を迫られている課題を自分ごととしてとらえて身近なことから取り組み、課題解決へとつながる思考・行動ができる人材が求められます。具体的には、物事を多角的に判断できる幅広い教養・高い専門性に加えて、課題を発見し解決する能力、外国語運用能力、異文化に対する理解、文理横断的な論理的思考力や判断力を備えた人材です。

 本学では学生がそれらを育み実践できるよう、正課における教育の充実・質の向上とともに、『グローバル化』と『社会連携』という2つの視座に重点を置いた独自の教育施策を進めています。『グローバル化』と『社会連携』はいわばコインの裏表の様なもので、切り離すことはできません。この2つを一体化して推進することが、学生たちの成長に大きく寄与すると考えています。

 社会連携活動に参加すると、学生は自分の勉強が世の中でどう役に立つのか、自分が社会のどこで何ができるのかを具体的にイメージできます。また実社会の中で幅広く他世代と交流することにより、自分たちとは異なる価値観、ものの考え方にふれ、新たな視野や気づきを得られます。それらを大学に持ち帰り学びに活かすという往復運動を重ねることで、多様な背景を持つ人々と協働して社会を作り、未来を維持していくための『実践力』を養うことを目指しています。

 

全学的な一大プロジェクトへと発展した「日本相撲協会」との連携活動

 

 当初、社会連携活動は個々の授業で教員が始めた取り組みが多かったのですが、これらをひとつの大きなうねりに集結させようと、2021年4月に学園全体としての社会連携推進室を立ち上げました。初期の個別取り組みスタート時以来、2021年度後期時点までに203にのぼる実績を数えています。

 シンボリックなものとして、複数の学部・学科がつながり取り組むプロジェクトへと発展しつつある、公益財団法人日本相撲協会との連携活動が挙げられます。2017年12月、本学と日本相撲協会は包括的連携協定を締結しました。連携の大きなテーマは「相撲という日本の伝統文化継承と発展に、学生である自分たちがどう寄与していくか」を考え、実践することです。

 実際に生活環境学科、美学美術史学科の学生が教員と一緒にデザイン・開発したリップクリーム、手ぬぐい、めがね拭きなどの大相撲公式グッズを両国国技館や通販サイトで販売し、各方面で好評を得ています。グッズのマーケティングや流通サービス面では、現代社会学科の知見も活かされています。また、大相撲にはお子さん同伴の観客が来られることを受け、「小さな子どもたちが楽しく過ごせるような場所があれば」と、生活文化学科幼児保育専攻の学生が中心となってキッズルームの設置を協会側に提案、承認されました。

 現在は相撲グッズの開発、販売が主な連携実績ですが、将来的には各学科の学びと連動する連携活動ができればと考えています。伝統文化の理解や解釈という意味では文学部国文学科の学びが役立ちますし、外国人の観客に対して相撲の歴史や文化を伝えるには、文学部英文学科での学びが大きな助けになります。力士の食生活管理には、食生活科学科が得意とする栄養学の学びが欠かせません。このように各学部・学科が専門性を活かしたアプローチで「相撲」という文化に対して有機的に連携し、課題解決に取り組む未来像を描いています。

 参加者の中には1年生から4年生まで長期にわたり連携活動に携わっている学生もおり、経験値が上がるごとに人間力や社会的なスキルの向上がみられ、教員も驚くほどの成長を遂げています。取り組みの面的な広がりと時間の積み重ねが学生の自発的な積極性を育み、『実践力』として結実している手応えを感じます。

 

「創作かるたで交流」「まちあるき」…地域とつながり、互いに学び、支え合う

 

 地域に開かれた教育機関であるために、地元自治体や住民の方々との地域連携にも力を入れています。東京都日野市と連携した『多世代交流カルタプロジェクト』では、学生と地域の高齢者の方々が「かるたによって互いの気持ちや考えを交わし合い、日々大切にしたい生き方、暮らし方の交流を行う」というコンセプトのもと「相詠みかるた」を制作し、2021年7月に初の交流会を行いました。

 読札は日野キャンパスの生活科学部現代生活学科で地域コミュニティについて学ぶ学生が創作し、絵札は渋谷キャンパスで開講されたオープン講座履修生の学生が担当してパッケージ化したものです。たとえば「たいせつな おもいは手紙にしたためて」という読札を通して、手紙とSNSメッセージというコミュニケーション手段の世代間ギャップを、お互いが対話しながら理解できる仕掛けです。高齢者と打ち解け、話を聞くことで、学生には自分が誰かの役に立つという自己肯定感や、異なる背景をもつ他者とのコミュニケーションの方法など、数々の気づきが生まれます。他にも日野市とは、地域コミュニティ活性化をめざすアクションプラン実行委員会の皆さんと共に、地域の魅力を再発見・活用する「まちあるき」を実施するなど、数々の地域連携に取り組み、着実に成果をあげています。

 このような社会連携の取り組みをベースとして支えているのが、個々の学生の状況に応じた個別支援体制を実現する『Jissen Total Advanced Support (略称:J-TAS/ジェイタス)』です。J-TASとは実践女子大学独自の「自己成長支援」制度の総称で、各種アドバイザー制度や半期ごとの振り返りなどを通じて、中小規模の大学だからこそできるきめ細やかな学生支援体制を提供しています。J-TASシステムには学生同士の交流が可能なコミュニティ機能があり、学生たち自身が他の学部の学生たちと同じ興味やテーマを共有し、自主的・自発的に活動するサークル的な集まりのプラットフォームとなっています。それが社会連携を草の根的にサポートし、学生主導型の活動が生まれる土壌にもなっています。

 

中・高含めた「オール実践女子学園」で、長期的な社会連携教育をめざす

 社会連携への参加は学生にとって楽しい経験だけではなく、時には他者との摩擦や誤解などにより、ショックを受けることもあります。しかし学生には自分と異なる価値観を受容し、その中で正しく自分の意志を伝え、他者と共存・協働していく力を身につけてほしいのです。女性の社会参画が当たり前となり、ジェンダーフリーが広く認知されるようになった現代でも、女性を取り巻く環境がすべて変わったわけではありません。しなやかで力強い『実践力』を持つ女子学生を多く輩出することで、真の意味でのジェンダーフリー、ジェンダーレス社会の実現に貢献する。女子大における社会連携の大きな意義はそこにある、と私たちは考えています。

 実際に、本学は10年前と比較し、「就職偏差値が上がった大学2021(主要企業就職者30人以上、100人未満)」のランキングで1位を獲得しました。数々の社会連携の取り組みに加え、キャリア形成の授業に企業のトップ層を講師として招き、社会での自分のミッションを考えさせる機会を多く設けていることなどがこの成果につながったと思います。

 今後の課題は、これらの社会連携の取り組みが、学生の将来的な仕事や人生への満足度にどうつながっていくかの検証です。社会連携は卒業後も彼女たちの人生に少なからぬ影響を与える、重要で責任ある取り組みだからです。また、社会連携を大学・短期大学部だけのものとせず、実践女子学園中学校高等学校を含めた学園全体として展開していく予定です。学生にとっては中学から大学まで実践女子学園で過ごす10年間のスパンの中で何を学び、どんな『実践力』を身につけ社会に出て目標を実現していくかをシームレスに考える機会となり、学園としては、社会とのつながりを心身の発達段階に応じて長期的に支援し、教育的効果をより充実させて真の『実践力』を育むことがねらいです。

 私たちは「女性が社会を変える、世界を変える」という建学の精神に基づき、女性たちがさらに活躍する社会を創るために、社会とつながる力を確実に育んでいきます。

 

実践女子大学・実践女子大学短期大学部

難波 雅紀 学長

1959年神奈川県厚木市生まれ。1983年学習院大学文学部英米文学科卒業後、1988年上智大学大学院文学研究科英米文学専攻博士前期課程を修了。1997年に実践女子大学文学部英文学科助教授に着任し、2003年同教授。以降、学科主任、教務部長、文学部長、学園理事、副学長を歴任し、2021年4月より実践女子大学・実践女子大学短期大学部学長。専門分野はアメリカ文学・文化。

 

実践女子大学

優しさと強さを育む実践教育。人と社会を支える力へ

実践女子大学は、教育理念「品格高雅にして自立自営しうる女性の育成」を掲げ、社会で活躍するための能力を身に付けた自立した女性を育成。「都心の渋谷」「自然豊かな日野」の2つのキャンパスで、時代に合わせた実践的な学びを提供しています。演習(ゼミ)や実験・実習など、少[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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