若者の力を生かして地域課題を解決し、大学・学生・地域・自治体の四者すべてに価値をもたらす——。そんな「四方よし」の考え方を掲げた総務省の施策「ふるさとミライカレッジ」が2025年に始まった。初年度に15のモデル自治体が採択され、新潟県十日町市と実践女子大学のプロジェクトもその一つに選ばれた。実践女子大学の須賀由紀子教授に、採択前から積み重ねてきた地域活動の歩みと、採択によって生まれた新たな展開、そして地域と大学のあるべき関係について聞いた。
新潟県十日町市で地域の課題に取り組む、実践女子大学「須賀ゼミ」の学生たち
「四方よし」を掲げる総務省の施策——ふるさとミライカレッジとは
新潟県十日町市に位置する「松之山」。棚田が広がるこの美しい集落に、毎年、都市圏から女子学生たちがやってくる。田植え、夏祭り、道普請、稲刈り、収穫祭など、小さな山里の季節の営みを住民とともに行う。集落の中に入り、お年寄りや地域のお父さん・お母さん方とお茶を飲み、農家のお手伝いをし、お話を聞く。10年にわたって続いてきた交流が、2025年、総務省「ふるさとミライカレッジ」に採択され、新たなステージへと歩みを進めた。
棚田が広がる、新潟県十日町市の「松之山」の山里
ふるさとミライカレッジは、2025年に総務省が立ち上げた「地域課題解決プロジェクト」を支援する事業だ。地方では、進学や就職を機に若者が都市部へ流出し、担い手不足が深刻化している。そこで、自治体は地域課題の解決のために大学との連携を検討するが、ノウハウやマンパワーが圧倒的に不足し、なかなか実現に至らない。一方、大学側にも事務負担が大きいなどの障壁がある。こうした課題を受けて立ち上げられたプロジェクトが、ふるさとミライカレッジである。
「ふるさとミライカレッジ」の最大の特徴は、「四方よし」の考えにある。採択された「地域」「大学」「地方自治体」「学生」の四者すべてにメリットをもたらすことを目指しているからだ。
大学等と地域が連携した地域課題解決プロジェクトの効果~地域・学生・地方自治体・大学の「四方よし」の取り組み~
例えば「地域」には、学生という「ヨソモノ・ワカモノ」の斬新な視点と行動力がもたらされ、学生の熱意と行動力が地域に大きな刺激を与える。「学生」は自身の能力を活かして地域活性化にチャレンジし、理想の暮らしやライフスタイルを発見する機会を得る。「地方自治体」は若者にとって魅力的な地域づくりに取り組み、関係人口の創出につなげられる。そして「大学」は、学生の問題発見・解決能力の育成を図りながら地域活性化に貢献できる。
2025年のモデル事業では全国15の自治体が採択され、大学・大学院・高等専門学校等と連携して「目指す成果」に向けた取り組みを開始した。その一つが、新潟県十日町市と実践女子大学によるプロジェクト「若者の視点を取り入れた『学びを軸とした地域構築の実践』」である。十日町市内にある「松之山地域」と「松代地域」の2拠点を舞台に、「ふるさと」をテーマにした農的くらしの学びと地域づくりに取り掛かった。
十日町市は美しい棚田が広がる中山間地域だ。人口減少と高齢化が進み、農業の担い手の減少や相次ぐ商店の閉鎖など、多くの課題を抱えている。同市は実践女子大学と連携し、地域課題の解決に向けた取り組みを推進。ふるさとミライカレッジのモデル事業に採択されたことで、地域連携の取り組みを加速させた。
ふるさとミライカレッジ採択以前——地域連携のベースを築いた10年
十日町市と実践女子大学の連携が始まったのは今から10年以上前、2015年のことである。その前年にあたる2014年、実践女子大学生活科学部に創設された現代生活学科に着任した須賀由紀子教授は「地域について考え、地域を未来につないでいく学生を育てたい」と、学生が実際に地域の中に出て、様々な課題に向き合いながら実践的に学ぶ域学連携の取り組みをスタートさせた。
「キャンパスが東京都日野市にあるので、もちろん、日野市域のコミュニティ活動も実践の場の一つでしたが、それに加えて、どこか地方にも活動拠点もあれば、と探しました。課題の異なる地域をフィールドに持つことで、活動に幅が出ると考えたからです」と須賀教授。
実践女子大学 日野キャンパス
2014年は、国が地方創生の取り組みを本格的に始動させた年で、社会的な話題になっていた。過疎地域をフィールドに、地域の活性化について考えていきたい。このような考えの中で出会ったのが、「大地の芸術祭」を実施していた十日町市であった。
「たまたま縁あって、2015年、三年に一度の大地の芸術祭が開かれた年に学生を連れて十日町市を訪れ、芸術祭の手伝いを行いました。その後、松之山布川地区の集落の皆さんとの交流が始まりました。そして、専用の田圃を提供していただき、田植えや稲刈りに通うようになりました」
さらに、夏祭りにも参加するようになり、「田植え」「稲刈り」「夏祭り」が活動のベースとなった。
コロナ禍で現地に行けなくなった時も、ゼミ生が「現地から季節のお野菜やお米を運んできていただき、都内で紹介したらどうだろう」と発案し、学生が企画運営する形で「布川ファーマーズマーケット」を東京都日野市内で開催し、交流を継続した。

コロナが明けてからは、再び十日町市を訪れるようになった。活動の幅が広がり、「お茶飲みの会」にお邪魔して交流を深めたりするなど、集落の暮らしのなかに入っていくことが増えた。そして、交流の中から布川の暮らしを紹介する「山里くらしカルタ」を創作・製品化して、地域の交流に役立てるなど、須賀ゼミの学生たちが主体となって様々な活動につなげていった。
「布川ファーマーズマーケット」も継続し、年4回の定例開催になった。ゼミ生が地域の人々の協力を得ながら育てたオリジナルのお米は、「まつむすめ」と名付け、大学の学園祭や布川ファーマーズマーケットで販売した。
こうした一連の活動が認められ、2023年度には、農林水産省「つなぐ棚田遺産感謝状」贈呈団体に選定された。このことをきっかけにして、十日町市と実践女子大学の包括連携協定も結ばれた。
このような状況の中、ふるさとミライカレッジに採択されたことで、活動は新たなステージを迎えることになった。
ふるさとミライカレッジ採択以降——地域の商店街で、空き店舗を地域の交流拠点へ
新潟県十日町市と実践女子大学によるプロジェクトは、十日町市内にある「松之山地域」と「松代地域」の2拠点を対象地域としている。松之山地域での活動を須賀教授が率いる「地域・生活文化研究室(須賀ゼミ)」が、松代地域での活動を一色ヒロタカ准教授が率いる「コミュニティデザイン研究室(一色ゼミ)」が担い、須賀ゼミは「空き店舗を活用したふるさとマルシェを核とした交流拠点づくり」を、一色ゼミは「田野倉集落での農的くらしの学びと継承の拠点づくり」を進めた。
「ふるさとミライカレッジに採択されたことによる一番の変化は、活動の範囲が広がったことです。これまでは布川地区のみが活動フィールドでしたが、採択されたプロジェクトでは、松之山地域全体の拠点づくりを目指すことになりました」
松之山地域の中心部の商店街は閉店が相次ぎ、地域の方の居場所となる場も失われていた。そこで、「松之山地域の人々が交流する拠点づくり」を計画。商店街にある空き店舗を改修して、「松之山ふるさとマルシェ」を開催し、地域の交流拠点とすることを構想した。
実践女子大学の学生が松之山の空き店舗を活用してマルシェを開催
モデル事業に採択された2025年は、プロジェクトのスタートの年にあたるため、同じくふるさとミライカレッジに採択された一色ゼミの学生たちに力を借りて改修を進め、9月にプレイベントを、11月に本イベントを開催した。
松之山をテーマに「地域をミライにつなぐ」オリジナルのPRキャラクターを考案したり、イベントに地域の子どもたちを呼んでワークショップを開催したり――。空き店舗を改修した拠点が、早くも地域の人々の「交流の場」として賑わった。
「ふるさとミライカレッジに採択され、十日町市の様々な部署の方や地域の方とのつながりが広がったこともよかったと思います」と須賀教授。
今年は須賀ゼミで十日町市のPRポスターをつくり、JR立川駅で十日町市のプロモーションを展開するなど、新たな取り組みにつなげている。
地域が学生を育て、学生が地域を動かす——「四方よし」の実像
ふるさとミライカレッジの採択年である2025年、活動に参加したのは、当時、3年生だったゼミ生だ。学生たちは4年生になった今も、精力的に十日町市との関わりを続けている。
ある学生は現地に住み込み、農家の仕事を手伝いながらその様子を映像に記録している。「集落の皆さんが、『学生が来てくれて本当に嬉しい、ありがたい』と言ってくれて、東京に戻るたびに『次はいつ来るの?』と聞いてくれるそうです」と須賀教授は目を細める。
地域に入り込み、人々と交流を深め、その中で気づきを得る。そして自分に何ができるかを考え、様々な人を巻き込みながら行動につなげていく――このような関わり方を、須賀ゼミの学生たちは十日町市での活動を通じて学び取った。この学生だけでなく、須賀ゼミの学生の何人かは、松之山でのプロジェクトを計画し、その成果は、卒業論文にあたる「ファイナルプロジェクト」にまとめる予定だ。
その一人、改修した空き店舗を活用し、地域の方が集まるサロンの定期運営をスタートさせた学生は、「『サロン開催のポスターを貼っただけでは誰にも来てもらえない、開催していることを知ってもらうための方法を考えないと』と、地域交流の場を築く難しさを感じているようです」と須賀教授。そして、ここを訪れた誰もが、自身の「ふるさと」を大切にしたいと思えるようになる場にしたい、と考えて、活動に参加する学生がそれぞれのふるさとのお菓子をサロンに持ち寄って話題にしたり、移動販売車に来てもらえるよう交渉したり、学生の若い力で試行錯誤しながら「地域の人々が集まる拠点づくり」を実証的に探り続けている。
実践女子大学の学生が新潟県十日町市の観光PRポスターやキャラクターを制作
須賀ゼミではリーダーをあえて決めず、得意なことを得意な人が担う形で活動を進めている。学生自身が自分の役割や立ち位置を自然に見出して、チームワークを作っていく。そして、一人ひとりが活動の当事者となり、自分ができることを担いながら、地域の活動を作っていく。――このような経験を、社会に出てからも生かしてほしいと須賀教授は願っている。
こうした学生の成長だけでなく、10年にわたって地域と関わり続けてきたからこそ見えてきた変化もある。
「地域連携の取り組みは、一朝一夕で効果が現れるものではありません。即効薬は期待しない方がいい。それでも、地域の方々が私たちの取り組みを見て、『一度きりで終わらせず、継続している』と感じ、地域の未来に期待を持ってくださっていると嬉しい」
そして何よりも、ふるさとミライカレッジへの採択は学生の意識そのものを大きく変えた。「国のプロジェクトに採択されたなんて、すごいね!」と活動へのモチベーションにつながっている。
「『先輩たちが10年近く培ってきたことを、ただ継承するのではなく、今度は自分たちがこのプロジェクトで新しい取り組みを作っていく』、という意志や責任感が生まれ、チームワークも育ち、国に採択されたプロジェクトに関わることの意義や価値をあらためて感じました」
「最近は、『地域のために活動したい』という思いを抱いてゼミに入る学生が増えてきました」と須賀教授。特に都会育ちで、自分自身のふるさとは特にない、という学生にとって、十日町は、いつでも帰ることができて、自分を取り戻せる「ふるさと」になっている。
丁寧に関わり、活動を継続する——地域と大学のあるべき関係
これまでの取り組みを振り返って、須賀教授は地域と大学が連携する意義についてこう語る。
「地域が大学と関わることの価値は、学生の学びと関わることにあります。学生は何か新しいことをやってみたいという姿勢を自然に持っている。10人いれば10の関わり方ができますし、学生の挑戦が地域に新鮮さをもたらします」
同時に、大学側が持つべき姿勢についても語ってくれた。「私たちはあくまでよそ者です。だから常に、受け入れていただけることに感謝し、丁寧に関わるよう心がけてきました。途中で諦めるくらいなら、やらない方が良いでしょう。それくらい責任を持って関わることが大事です」
須賀教授自身も、今回の取り組みを通じて、「新しい時代の大学教育のあり方」を考えるきっかけを得た。キャンパスを飛び出し、それまで縁のなかった土地に入り、その土地で暮らす人々のために活動する。学生たちは十日町市での経験を通じて知識やスキルを習得するだけでなく、新しい価値観を育んでいる。
最後に、ふるさとミライカレッジへの参画を検討している大学や自治体へのメッセージを求めると、須賀教授はこう答えてくれた。
「足繁く地域に通い、一つひとつの活動に丁寧に取り組む。そして、小さくてもいいから、前年とは違う新しさを作っていく。それを、地域の方と楽しんでいく。こうした積み重ねが地域との信頼関係を育てます。『地域を大切にしたい』という思いを持ち続け、実践することが、地域活動を成功させる一番の鍵となるでしょう」
実践女子大学 生活科学部 現代生活学科 教授
須賀 由紀子(すが ゆきこ)
専門は生活文化論・地域文化形成論。「地域の暮らしの良さを発掘して、ライフスタイルの豊かさへとつなげる」をテーマに地域連携活動を展開。2015年より新潟県十日町市松之山の布川地区と関わりを持ち、棚田での米づくりや布川ファーマーズマーケットの開催など多彩な活動を積み重ねてきた。

