お茶の水女子大学の奥村剛教授は磯部翠大学院生と共に、「切り紙」の構造が持つ高い伸長性の鍵が、平面内変形から平面外変形への転移現象にあることを見いだし、その物理原理をシンプルな数式で表すことに成功したと発表した。
切り紙は、紙にさまざまなパターンで切り込みを入れることで、さまざまな形を実現する伝統工芸技術。切り紙の構造を応用して、電極や太陽電池など、近年世界でさまざまな工学的応用研究が急速に進んでいる。しかし、物理原理を明らかにする研究はほとんど手つかずの状況だった。
奥村らは、複雑な現象の本質をシンプルに捉える印象派物理学という新技術を用いて、リチウムイオン電池などに用いられる多孔性ポリマーシートの強靭化に関連する基盤技術などの研究を行っており、切り紙構造の研究にも取り組んできた。
今回、ワインのボトルを保護する紙製緩衝材の切り紙パターンに注目。「切り紙」の柔らかさを表す量(弾性率)と「切り紙」が平面内変形(二次元的な平らな状態を維持したままの変形)から平面外変形(三次元的な立体的な構造を取る変形)に転移(突然に変化)する条件を、シンプルで美しい数式で表すことに成功した。シンプルでありながら実験データとの整合性も良く、特に平面内変形の場合の弾性率の式と転移の条件式は極めて高精度に成立していた。これらの数式は、切り紙構造を応用展開する際の明確な指導原理となるという。
今回の成果は、大きな伸長性を持つ電極や太陽電池、グラフェンシート(炭素原子1個分の厚みのシート)や再生医療分野で注目される細胞シートへの応用、医療・スポーツ用のサポーターなど幅広い分野への応用が期待されるとしている。