開学以来、医学、スポーツ、看護をコアとして発展してきた順天堂大学。「教育」「研究」「診療・実践」を基軸として、国際レベルでの社会貢献と人材育成を掲げてきた。こうした基盤を礎に、2015年以降、国際教養学部、保健医療学部、医療科学部、健康データサイエンス学部を相次いで開設。さらに2024年4月には薬学部と国際教養学研究科を新設予定で、9学部・5研究科(大学院)を擁する「健康総合大学」としてさらなる飛躍を遂げようとしている。新井一学長にその狙いを伺った。

 

語学と国際教養を身につけ、
世界の医療・健康に資する人材を育成

「本学はまず医学部にはじまり、スポーツ健康科学部(体育学部より名称変更)、医療看護学部などの看護系学部を設立。医学と健康、スポーツをコアとして発展してきました。その後、理学療法士や診療放射線技師を育成する保健医療学部、臨床検査技師や臨床工学技士を育成する医療科学部を開設。来年、2024年4月には薬学部を新設しますが、その意図は「健康総合大学」として、時代の変化にあわせた医療支援の充実を図るためです」と新井一学長は力をこめる。

日本社会の高齢化、医療の高度化、チーム医療の重要性といった背景をふまえ、時代に先駆けた改革を進めてきたことが伺える。また一見すると医療支援とは分野の異なる「国際教養学部」や「健康データサイエンス学部」を設置したのも、時代の要請に応えるためだと言う。

国際教養学部は、2015年に第5の学部として開設された。順天堂大学では、従来より外国語教育の充実化を図り、学生の留学・短期の海外研修を後押ししてきた。また大学院では海外からの留学生を多数受け入れるなど、学内の国際化を進めてきた経緯がある。国際教養学部の開設には、グローバルな視点でヘルスケアに関わる専門性を磨き、国内外で活躍する人材を育成したいという想いが込められているのだ。

「本学では、全学部の学生にTOEFLの受験を義務化しています。一定の点数を取らないと進級できません。語学を国際交流のツールとして使えることは極めて重要です。本学では海外からの留学生を多く受け入れていますが、彼らと交流することで視野を広げてほしいと考えています。たとえば、医療格差の大きい北米などの医療制度について議論することで社会的視点も養われるでしょう。こうした経験が卒業後の多様な進路に深くつながっていくのです」

国際教養学部には「グローバルヘルス」「異文化コミュニケーション」「グローバル社会」の3つの領域があり、国際性や教養、リベラルアーツを学びながら、医療・健康・看護の知見を得ていく。近年の新型コロナウィルスの世界的流行や気候変動といった自然環境の変化、SDGsなどの観点からも、この分野の素養を持つ人材への期待は大きい。

「いずれはWHO(世界保健機関)のような国際機関で活躍する人材を育成したい。また、学内に国際教養学部があることで国際性や国際教育の旗印として、他学部の学生にも働きかけ、学内の国際化をけん引する存在になってもらいたいと考えています」

データサイエンスを駆使し、
医療・健康・スポーツの発展に寄与する

データサイエンスが大学教育のトレンドとなるなか、2023年4月に開設された健康データサイエンス学部は、まさに人生100年時代に対応する学部だ。データサイエンスとは、膨大な量の情報(ビッグデータ)を科学的に解析し、課題解決や新たな価値の創造を図る学問で、近年ではAIの活用も注目されている。

「医療の世界では膨大な患者のデータを解析することで、既存の薬の新たな効能を見出すことや、ある疾患が悪化するときの兆候を知るといったことに役立ちます。ビッグデータをAIで解析することで、新たな知見が得られるのです」

さらにICT(情報通信技術)の活用という点で、欧米ではクラウド上にあるPHR(Personal Health Record:個人医療データ)に患者自身がアクセスし、医師と共に病気の治療や健康管理を行うという考えが浸透している。日本でもウェアラブルデバイスで血圧や脈拍を測定してデータを送り、遠隔でも医師と患者で診療情報を共有できるシステムが整いつつある。
「これを実現し広めていくには医療従事者だけでは不可能で、医療の知見を有しながら、データサイエンスを駆使できる人材が必要です。そこで、健康をキーワードに掲げた健康データサイエンス学部を設立したのです」

人生100年時代を迎え、健康寿命の延伸に注目されている。健康増進・維持するには何に気をつければいいのか、データ解析からトレーニング方法や未病の状態がわかる時代が訪れている。

健康総合大学として社会貢献を果たし、
人材を育成して社会へ送り出すことが使命

2024年4月には薬学部が新設される予定だ。目指すのは臨床実践能力の高い薬剤師と、臨床に根差した創薬を考えることができる薬学研究者の育成だ。順天堂大学には6つの附属病院があり、健康総合大学ならではの臨床・研究環境が整う。医学部、医療看護学部などと連携しチーム医療が学べるほか、薬物治療も系統的に学べるのが特色。また学部開設とともに大学院の設置も予定しており、高度な研究体制が整うのも強みだ。

近年では、附属病院による地域への高度な医療の提供を行うことはもちろん、大学の機能を有効に使った研究組織であるARO(Academic Research Organization)の整備を進めている。AROでは、医薬品の開発支援や知財業務、治験のほか、大学発ベンチャー企業の育成、再生医療、看護やスポーツなどさまざまな分野の支援を行う。

「ここで強調しておきたいのは、教員と学生の距離が近いということ。面倒見がいいんですね。これは創立以来の伝統で、留年する学生が少なく、医師や看護師、理学療法士などの国家試験の合格者が軒並み100%、もしくはそれに近い数字であることにも表れています。教員が緊張感をもって指導にあたり、学生もそれに応え勉学に励む学風があります」

▼順天堂大学特設ページ -学部の特徴がすぐにわかる!-
https://juntendo-ac.xyz/lp/

 

順天堂大学 学長

新井 一

1979年順天堂大学医学部を卒業、順天堂大学脳神経外科に入局。米国NIH(米国立衛生研究所)、米国フロリダ大学脳神経外科などを経て、2002年順天堂大学医学部脳神経外科学教授、2008年同附属順天堂医院院長、2011年同大学院医学研究科長・医学部長、2016年から現職。

 

順天堂大学

「スポーツ」と「健康」をキーワードに、新しい時代を共創

創立185年の伝統校。医学部、スポーツ健康科学部、医療看護学部、保健看護学部、国際教養学部、保健医療学部、医療科学部、健康データサイエンス学部の8学部4大学院研究科6附属病院からなる健康総合大学です。さらに、2024年4月には、薬学部(仮称)の開設を準備してお[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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