通信制大学は、大学卒業資格を目指せる正規の大学教育
通信制大学は、「通信」という言葉から、資格講座や通信教育サービスのようにイメージされることがあります。しかし、通信制大学は、大学通信教育設置基準などに基づいて設置された正規の大学教育です。所定の単位を修得し、卒業要件を満たせば、通学制の大学と同じく「学士」の学位を取得することができます。
社会人にとって通信制大学の大きな魅力は、仕事や家庭の生活を続けながら、大学卒業を目指せることです。高校卒業後に就職した人、大学を中退した人、短期大学や専門学校を卒業した人、すでに大学を卒業しているものの別分野を学び直したい人など、入学する人の背景はさまざまです。
誤認してほしくないのは、「通信制大学は、通学しなくても簡単に卒業できる大学」ではない、ということです。自宅学習を中心に進められる一方で、レポート提出、試験、スクーリング、卒業論文や卒業研究など、大学ごとに定められた学修を積み重ねる必要があります。学士取得は、時間をかけて学びを形にしていくプロセスなのです。一方で、通信制大学には、通学制の大学とは異なる魅力もたくさんあります。
1年次入学と編入学では、卒業までの道のりが異なる
通信制大学で学位取得を目指す場合、まず確認したいのが、自分が何年次に入学できるかです。高校卒業後に大学へ進学していない人は、原則として1年次入学からスタートします。一方、短期大学や専門学校、大学などで一定の単位を修得している人は、2年次や3年次に編入学できる場合があります。
編入学では、過去に修得した単位の一部が卒業に必要な単位として認定されるため、1年次から入学するよりも短い期間で卒業を目指せる可能性があります。ただし、どの単位がどれだけ認定されるかは、大学の判断によって異なります。以前の大学で学んだ科目名が似ていても、すべてがそのまま認定されるとは限りません。
また、3年次編入ができたとしても、必ず2年間で卒業できるわけではありません。仕事の忙しさ、履修できる科目数、スクーリングの日程、卒業論文の有無などによって、実際の卒業までの期間は変わります。
入学前には、募集要項だけでなく、編入学時の単位認定の考え方、卒業までに必要な残り単位数、標準的な履修モデルを確認しましょう。可能であれば、成績証明書などを用意して、大学の個別相談で確認することをおすすめします。

学べる分野は、文学・心理・福祉・経済・芸術まで幅広い
通信制大学で学べる分野は、教育、福祉、文学、歴史、心理学、社会学、法学、経済学、経営学、情報、芸術、デザイン、建築など、多様な分野が開かれています。
例えば、仕事に生かすために経営学や心理学を学ぶ人もいれば、長年関心のあった歴史や文学を学び直す人もいます。芸術系の通信制大学では、美術、デザイン、写真、映像、建築、文芸などを学べる場合もあります。作品制作や講評を通じて学ぶ科目があるなど、一般的な座学とは異なる学び方が用意されていることもあります。
ここで大切なのは、「学びたい分野」と「卒業まで続けられる学び方」の両方を見ることです。興味のある分野であっても、課題の量、スクーリングの回数、制作物の提出、卒業研究の負担などが自分の生活に合わなければ、継続は難しくなります。
大学案内を見るときは、学部名や学科名だけで判断せず、実際にどのような科目を履修するのか、レポートや試験はどのように行われるのか、卒業時に何が求められるのかを確認しましょう。通信制大学での学位取得は、「入れるか」以上に、「続けられるか」が大切です。入口よりも、むしろ「続け方」の設計が重要なのです。
卒業に必要なのは、単位を積み上げる力
通信制大学で卒業を目指すには、必要な単位を計画的に積み上げていく必要があります。科目を履修し、教材を読み、レポートを提出し、試験やスクーリングを通じて単位を修得します。大学によっては、卒業論文、卒業研究、卒業制作などが必要になる場合もあります。
通学制の大学と違い、毎週決まった時間に教室へ行くわけではないため、自分で学修のペースをつくる力が求められます。これは自由に学修時間を設定できるメリットである一方、学修が継続できなくなってしまう難しさでもあります。例えば、仕事が忙しい時期にレポート提出が重なったり、家族の予定とスクーリングが重なったりすることもあります。
最初から多くの科目を履修しすぎると、提出期限に追われ、学ぶこと自体が負担になってしまう場合があります。逆に、履修科目が少なすぎると、卒業までの期間が長くなります。自分の生活リズムに合わせて、無理なく続けられる科目数を見極めることが大切です。
大学を比較するときは、卒業率や最短卒業年数だけでなく、レポートの提出方法、試験の受け方、スクーリングの頻度、オンライン学習の充実度、履修相談の体制も確認しましょう。学位取得を支える仕組みが整っているかどうかは、通信制大学選びの大切なポイントです。

「大卒資格」だけでなく、学び直す意味を考える
通信制大学で学位取得を目指す理由は、人によって異なります。就職や転職のために大卒資格が必要な人もいれば、昇進や資格取得の条件として学士が必要な人もいます。若い頃に大学で学べなかったことを心残りに感じ、あらためて学び直したいという人もいます。
もちろん、学士の取得は大きな目標です。しかし、通信制大学で得られるものは、卒業証書だけではありません。文章を読み、考え、レポートにまとめる。自分とは異なる世代や背景の学生と学ぶ。スクーリングで教員や仲間と対話する。そうした経験そのものが、自分の世界の見え方を変えていきます。
また、通信制大学では、必ずしも卒業までの期間を短くすることが、すべての人にとっての正解とは限りません。できるだけ早く卒業したい人もいれば、仕事や家庭生活を大切にしながら、少しずつ単位を積み上げていくほうが合っている人もいます。
社会人の学びには、仕事が忙しい時期、家庭の事情を優先しなければならない時期、思うようにレポートが進まない時期もあります。そうした時期があったとしても、それだけで卒業をあきらめる必要はありません。大学によっては、単位制や長期的に学べる制度が用意されている場合もあります。また、通学制の大学に比べて、年間の学費負担を抑えながら在籍できる大学も多くあります。
大切なのは、最短で卒業することだけを目標にしすぎないことです。自分の生活の変化に合わせて、履修する科目数を調整したり、一時的に学修のペースを落としたりしながら、学びを続けていく。通信制大学には、そうした柔軟さがあります。
社会人になってから学ぶと、若い頃には分からなかったことが腑に落ちることがあります。仕事や人生経験があるからこそ、教科書の一文が自分の経験と結びつくこともあります。
通信制大学での学位取得は、単に「大卒になる」ためだけの道ではありません。これまでの経験を学問の言葉で捉え直し、これからの働き方や生き方を広げるための選択肢でもあります。入学前には、「何年で卒業できるか」だけでなく、「どのようなペースなら学びを続けられるか」「何を学び、卒業後の自分をどう変えたいのか」を考えてみましょう。
文:たねとしお
社会人大学院や通信制大学など、社会人向け学習情報誌・WEBサイトの編集に長く携わる。「仕事力」をテーマにした新聞連載をはじめ、これまでに累計5,000人以上にインタビューを行う。会社経営の傍ら社会人大学院に通学し、2024年にMBAを取得。「学びで人生を豊かに生きる」をテーマに、社会人の学びに関する発信活動を行っている。インターネットラジオ「ゆめのたね放送局」『社会人大学院へ行こう』番組パーソナリティ。株式会社案 代表取締役社長。学校経営ディレクター(京都大学私学経営アカデミー)。
