近年注目が高まっているのが、理系分野だけでなく文系分野も取り入れた、文理融合の理工系学部だ。
教育政策を審議する中央教育審議会内に設置された大学振興部会でも、2022年の第一回会議から「文理横断・文理融合教育」が議題に挙がった。人文・社会科学、自然科学など、複数の分野を文理の枠組みにとらわれず横断的に教えていく。文系人材に数学をはじめとする理系科目を身につけさせたい、といった意図も感じさせる内容だ。
文理融合教育にいち早く着手した事例のひとつが、2021年度に開設された金沢大学融合学域。学部に相当する学域の名称に「融合」という言葉を用いた先駆者だ。
国立大学の単一キャンパスとして全国屈指の広さを持つ金沢大学の「角間(かくま)キャンパス」。融合学域、人間社会学域、理工学域、医薬保健学域(一部)の学生が学んでいる
融合学域では「文理医」を横断し、データサイエンスも取り入れ、課題発見と解決ができる人材を育成
「融合には、さまざまな専門領域が溶け合って新しいものを作る、という意味が込められています。学際ではなく、分野の殻を破って一体になるイメージです。特定の専門分野を細かく分け、積み上げ型で学んでいくのではなく、広い分野を見渡し自分自身で設定した課題に見合った履修を組み立てる『バックキャスティング学修』を行っています」(融合学域スマート創成科学類長・山本茂教授)
開設当時は、アントレプレナーシップを学び社会変革を促す人材を育成する「先導学類」のみだった。翌年に観光産業の諸課題を解決し新しい観光を生み出す「観光デザイン学類」が誕生。そして2023年度には最先端のスマート技術を活用する力を養う「スマート創成科学類」が加わった。どの学類でも、文系、理系に加えて、医療系を取り入れた「文理医」教育を実践している。医師免許を取得するための課程とは異なり、他分野に医療の視点を混ぜ合わせた融合教育が持ち味だ。
「産業の変化、医療福祉などの現代社会のさまざまな課題には、単一の学問では十分に対応できません。技術だけでなく、制度、経済、文化、人の行動理解まで含めて考えていく必要があります。本学域では文理医を横断し、データサイエンスも取り入れながら、課題発見と解決ができる人材を育成します」(山本学類長)
金沢大学は融合学域のほかに、人間社会学域、理工学域、医薬保健学域を持つ総合大学。すでに医療系の基盤があったことも、文理医融合教育を可能にした。
各学類には医療を専門とする教員が所属。先導学類では医療で世の中を変えていく取り組みを、観光デザイン学類では人に感動を与える仕組みを医療的な観点から考えるなどの学びが行われているそうだ。そしてスマート創成科学類では、スマート技術を医療や健康などに活用するための力を育てている。
情報技術を「使いこなす力」をつける学類
スマート創成科学類は情報系学科と思われがちだが、実際は大きな違いがあるという。いわゆる情報系学科として、金沢大学はすでに理工学域電子情報通信学類を有している。情報技術の作り方などを学ぶ学類だ。一方でスマート創成科学類が重点を置いているのは、技術を使いこなす力だという。
「たとえば新しい人工知能を作ろう、と思っているならば電子情報通信学類のほうが適しているでしょう。スマート創成科学類の場合は、人工知能を使って課題をいかに解決するか、といった方向性です。ただし授業担当教員の許可があればほかの学域の科目も履修できるので、理工学域の科目を学んで専門性を深めている学生もいます」(山本学類長)
スマート創成科学類には医療系の「スマートライフ」、新たな産業を興すための技術を扱う「スマート産業」、スマート社会を作るために必要な内容を学ぶ「スマート社会」といった3つのコアエリアがある。学生は1つのコアエリアに主軸を置きつつ、ほかの2つのコアエリアに関しても選択科目を履修し、幅広く学んでいくのが特徴だ。3つのコアエリアの希望者はほぼ同数で、偏りはあまり見られないという。
各学類の学生 高校時代の文理のバランスは?
高校時代の文理のバランスも、それほど偏りはない。2025年度入試結果を見ると、先導学類は文理が1:1、観光デザイン学類は文系2に対して理系が1、スマート創成科学類は文系と理系が1:2の比率になっている。
「文系だけ、もしくは理系だけの学類にならないよう意識しています。高校で理系クラスだった人も、文系はまったく関心がない、というわけではないでしょう。その逆も同じです。実際にひとつの専門だけでなく、自分の関心に合わせて幅広く授業を選択し、学びや課題探究をしていく学生が多いと感じています。本学域は選択科目が豊富なので、自分で学びを組み立てられる、という点に魅力を感じて入学する学生も多いです」(山本学類長)

文理の枠にとらわれず関心をもつ学生を育てる
学部内に文理双方の教員や学生がいることの重要性も高まってきた。実際に文系入試を実施する文理融合系の学部も増え、理工農系学部はもはや理系学生だけの進学先ではなくなってきたといえるだろう。文理の枠にとらわれず関心を持ち、多角的な知見や思考力を持つ学生を育てようと、金沢大学をはじめ、多くの大学が試みている。
高校時代に文系科目を多く履修していた人は、大学の授業についていけるか不安を感じているかもしれない。しかし大学から理系を学ぶ学生に向けて、高校での履修科目の差を埋める数学や科学などを設けている学部もある。入試で課される数学に関しても、数学ⅠAやⅡBなどに限定されている場合があるため、無謀な挑戦ではないはずだ。
