来年度から始まる専門職大学にトップバッターとして手を挙げた一つが、都内で保健・医療・福祉分野の専門学校5校を運営する学校法人敬心学園。来春、東京都江東区に理学療法士、作業療法士を養成するリハビリテーション学科と、介護福祉士を養成する福祉介護イノベーション学科の2学科からなる「東京専門職大学」(仮称)を開設予定です。同大学開設準備室の宮田雅之事務局長に、その意気込みや新しい大学の特長についてお聞きしました。

 

リハビリテーションと介護福祉からスタート

 学校法人敬心学園は、1984年の創設以来、30年以上にわたり職業人養成にかかわり、専門学校教育に対しては強い思い入れを持ってきました。今回の高等教育における新たな制度発足に当たり、これまで蓄積してきた職業人養成の経験とノウハウが新しい器の中で活かせると、真っ先に手を挙げさせてもらいました。新制度の第一号ということで、現在、産みの苦しみはあるものの、パイオニアとしてのやりがいを感じています。

 リハビリテーション学科は昼間、夜間の2コースで、それぞれ定員が80名と40名、福祉介護イノベーション学科は昼間コースのみで40名を募集します。健常者・障がい者、若年者・高齢者など「多様な人々が共生できる、ダイバーシティ社会の実現を目指す」という建学の精神の下、日本の国家的課題に貢献することをミッションとします。具体的には実務リーダーの育成に重きを置くとともに、医療福祉の専門機関だけでなく、生活の場を支えるサービス業をはじめとする民間企業への就職など、新たなキャリア形成も後押ししたいと考えています。

 ちなみに2学科の属する医療福祉分野は、わが国における数少ない成長分野です。高齢化が進む中、介護人材は、厚労省の推計では2025年に38万人弱不足するとされています。また、理学療法士、作業療法士については、地域によって需給バランスにばらつきがありますが、首都圏は単位人口当たりの資格保有者数が極めて低いため、介護人材ともども、その不足をどう補うかはまさに国家的課題と言えます。

 

実務リーダーを育成する独自のカリキュラム

 2学科とも、国家資格の取得を目指すことに加え、《職業人基礎力》(基礎科目)、《職種連携》、《国際的な意識の醸成》、《専門性の深化》(以上職業専門科目)、《専門性の拡大・展開》(隣接他分野),《事業化力(経営分野)》(展開科目)の6つのテーマからカリキュラムを系統付け、専門学校との差別化を図ります。

 中でも特徴的と思われるのが、《専門性の深化》に組み込まれた「卒業研究」。①スポーツ・レクリエーション、②地域活性化・ツーリズム、③福祉機器・ロボット・ICT、④障がい者・難病者の支援、⑤生活支援・自立支援の5つのテーマから1つを選び、その分野の専門家からゼミ形式で指導を受けます。

 たとえば、スポーツ・レクリエーションのテーマでは、障がい者のスポーツ力を高めることを目的にするのではなく、スポーツやレクリエーション活動が障がい者の社会参加のプラットホームとなり、ダイバーシティ社会の実現に寄与するものと捉え、障がい者や高齢者のスポーツ大会の運営などに関わる団体等との連携を図ります。

 《専門性の拡大・展開》では、隣接する他分野にも視野を広げることを目的に、たとえば「高齢者は化粧をすると元気になる」というテーマについて、アカデミックな立場から、実践を通じてそれを実証していきます。企業の関心も高く、専門職大学ならではの取組の一つだと思います。

 《事業化力》は、新しい事業を開拓したり、起業したりする力を身につけることを目的に、「実務リーダーのための経営戦略」「実務リーダーのための財務会計」などの経営実務に関する科目から、「医療福祉イノベーション経営」などの医療福祉に関する経営実践に係わる科目を揃えます。もちろん医療福祉分野に限らず、「事業計画策定実践」などの科目を通して一般企業で専門性を活かしたり、新しい事業開発を担ったりする力も育てます。4年次には全員参加で、企業や地域のための事業をプレゼンする「ビジネスプランコンテスト」も実施します。他の専門職大学、一般の大学、専門学校にも参加を呼びかけ、優秀な取組については表彰するだけでなく、企業や自治体を巻き込んで事業化することも計画しています。

 もう一つユニークなのが、1年次で行う《職業人基礎力》。大手小売業と連携し、その社員研修用のマナー・接客プログラムを取り入れるなど、職業人としての基礎力を養います。この科目には、将来、医療福祉施設で活躍するのはもちろんのこと、民間企業など医療福祉施設以外の場で、「医療福祉の知識・スキルを持ったビジネスパーソン」として活躍するイメージをつかんでもらうという狙いもあります。

 

教員、施設、グローバル化と生活支援

 教員には、大学教員経験者や本学園の専門学校の教員に加え、企業や施設で実務経験のある者を積極的に配置。また、企業の一線で活躍中の専門家を非常勤講師やゲストスピーカーとして招き、施設や企業内での実習の効果を一層高めます。

 教員の業績を、研究論文だけでなく、企業との連携や、社会への発信などでも評価するのは、これまでの大学にはなかった点。また教員と職員が対等な立場で真剣な議論を重ねるのも、これまでの大学文化とは異なると思います。
また、敬心学園では学びの場を広げ、充実させるためにグループ内に福祉施設や保育施設を設置してきましたが、将来的には医療施設を加えることも視野に入れています。実習の場の確保だけでなく、施設としてもアカデミックな要素を取り入れることで、新しい価値を提供できると考えるからです。

 大学であることの強みを活かして海外の高等教育機関や医療福祉機関との提携や、留学生の積極的な受け入れなど、グローバル化の推進にも力を入れます。日本は、アジアにおける医療や福祉の先進国であり、高齢化の進むアジア諸国との交流、提携には大きな期待が寄せられています。

 学生の経済的支援については、独自の奨学金制度に加えて、「働きながら学ぶ」ことができる仕組を検討しています。介護施設では夜勤の人手不足が深刻ですから、昼間部の学生に夜勤のバイトの機会を紹介するのもその一つ。また実習期間中はアルバイトがしにくいため、年間収入を12等分するなどして、毎月の収入を安定させ、あわせて社会保険の適用が受けられないか企業等に提案中です。

 

高校生へのメッセージ

 本学園の医療福祉の専門学校では、入学者の約7割は大卒や社会人で高校新卒者は約3割です。しかし大学というフレームになると高校生の関心が高いのか、これまでのところ、初年度の入学者の割合は高校新卒者の割合が本学園の平均を上回る可能性を感じています。ただ、18歳人口の減少傾向はあいかわらずですから、長期的には、大卒・社会人の割合をやはり高めていかなければならないと考えています。

 本学の受験生への最大のアピールポイントは、産業界等との連携です。やはり多くの受験生にとっては、どんな職業に就くか、どんな企業に就職するかが最大の関心事で、それが大学の価値を決める大きな要因だと思っています。そのためにも企業との連携を一層強固にし、学びの場を確保するとともに、就職先の拡大に注力していきたいと考えています。

 受験生には、「医療福祉を学びたい」という漠然としたイメージではなく、具体的に医療福祉の学びを活かして何をしたいのか、ある程度職業について調べ、少しでも具体的なイメージを持ってほしいと思います。本学では専門分野の勉強に加えて、施設・企業での長時間の実習がありますから、「とりあえず大学へ進学」という動機だけでは学ぶモチベーションの維持に苦労すると思います。反対に、目的意識が明確で、やる気のある人には十分に応えられるだけのメニューを、ふんだんに提供したいと考えています。

 学園の将来構想としては、まず2学科で実績を作り、それを基に、大学院の設置も含め、これまで取り組んできた保健・医療・福祉分野とともに、新たな分野も取り入れた専門職業人材養成の総合大学を目指したいと考えています。東京専門職大学(仮称)というシンプルなネーミングは、その可能性にかける私たちの意気込みを表すものでもあるのです。

 

学校法人敬心学園
大学開設準備室 事務局長
宮田 雅之 氏
慶応義塾大学商学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA)。三菱総合研究所、日本総合研究所等を経て、学校法人敬心学園に入職。現在、大学開設準備室 事務局長として、東京専門職大学(仮称)の開学準備に従事。栃木県立栃木高校出身。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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