佐賀大学では、佐賀県からの受託事業「未来へ向けた胃がん対策推進事業センター運営事業」を実施している。2016年度から2025年度までの10年間、県内すべての中学3年生を対象に実施してきた「若年者ピロリ検診」では、延べ約8万人が検診を受け、1470人のピロリ菌感染者を確認した。
胃がんは現在も日本人の主要ながんの一つであり、その多くにHelicobacter pylori(ピロリ菌)感染が関与している。ヒトでは主として幼少期に感染し、持続感染によって長期間にわたり胃粘膜にダメージを与える。感染から胃がん発症までには数十年を要するため、若年期に感染を診断し除菌することは、胃粘膜へのダメージを早期に抑え、将来の胃がん予防につながる可能性がある。
こうした考え方に基づき、佐賀大学からの発案で、佐賀県では2016年度から県内すべての中学3年生を対象としたピロリ検診を開始。佐賀県・佐賀大学・学校・地域医療機関が連携し、学校での検査に加え、精密検査、除菌治療、治療効果判定までを一貫して実施し、佐賀大学が医学的支援と事業評価を担ってきた。
検診を受けたのは2025年度までに延べ約8万人。検査同意率は78.5%から近年は93%以上となり、高い参加率を維持している。10年間で1470人のピロリ菌感染者を確認し、このうち1343人(91.4%)が除菌治療を受けている。一次除菌成功率は84.1%、二次除菌成功率は96.1%だった。除菌担当医による聞き取り調査では、1343人中66人に副反応が報告されたが、重篤な有害事象は認めなかった。
中学3年生におけるピロリ菌感染率は、2016年度の3.6%から2025年度には0.9%となり、10年間で約4分の1の水準になった。これは毎年度異なる中学3年生を対象とした検診結果の推移であり、本事業によって感染率が低下したことを示すものではない。しかし本事業の継続により出生年代や生活環境の変化などを背景とする若年世代の感染状況の変化を把握できた。
本事業は若年者胃がん予防を地域システムとして運用する上での一つのモデルとなり、若年者を対象としたピロリ検診は全国の自治体にも広がっている。中学生・高校生を対象とする検診実施自治体が2015年の18自治体から2023年には105自治体へ増加した。また、本事業から得られた成果は、Journal of Gastroenterologyをはじめとする国際学術誌に報告され、日本の「Helicobacter pylori感染診療ガイドライン2024年改訂版」にも反映された。
佐賀大学は、今後も若年者に対するピロリ検診を継続的に実施できる体制を目指すとともに、これまでの10年間の取り組みを基盤として、「長期追跡による胃がん予防効果の検証」「若年者ピロリ菌対策に関する新たなエビデンスの創出」「他自治体との連携による全国への普及」「次世代の胃がん予防戦略への貢献」を進め、「未来の胃がんを防ぐ」という理念のもと、佐賀県から全国へ向けて若年者胃がん予防のモデルを発信していく。
参考:【佐賀大学】「中学3年生ピロリ検診」10年間の成果 ~延べ約8万人を検診、1,470人の感染を発見した若年者胃がん予防モデル~
