公務員志望の学生を後押ししている大学は数多く見られるが、東京経済大学経済学部では、とくにユニークなプログラムを展開している。「公共選抜プログラム」と名付けられた、少人数制の科目だ。プログラムを終えた学生たちは、毎年全国各地の自治体から内定をもらい、公務労働に携わっている。今回はプログラム委員長の尾崎寛直教授と、授業を担当している奈良浩二特命講師に、公共選抜プログラムの特色や成果を伺った。

 

経済学部だからこそ育成できる公務員像

 東京経済大学では、現代法学部の「公務員志望者支援プログラム」、学内において提携専門学校の指導による公務員試験対策に取り組める「キャリア・サポートコース(CSC)」など、公務員志望者をサポートする仕組みをいくつも用意している。さらに支援を充実させるため、2023年度からは経済学部で「公共選抜プログラム」がスタート。学部の授業カリキュラムのひとつとして、公務労働で活躍する人材の育成を位置づけた。公共選抜プログラムには、要件を満たした15名が、2年次から4年次まで所属する。

 本プログラムは、単なる公務員試験対策ではない。経済学の知見も交えて公務労働について深く学び、インターンシップなどで現場を体験する。ほかにもCSC講座・SPI対策オンラインサービス・公務員模試の受講料を大学が負担するなど、金銭面での支援も大きい。プログラム委員長の尾崎教授は、経済学部だからこそ育成できる人材が、多くの公務労働の現場で求められていると語った。

「これからの公務員は、ただただ法律に従って淡々と仕事をすればいいわけではありません。福祉や医療、生活の援助など、さまざまなことを地方自治体が自ら計画して実施しなければいけない時代になりました。しかも少子高齢化が進み、財政難に陥る地域も少なくありません。だからこそ経済の動きや社会課題を理解したうえで、住民の福祉や幸福を最大化できるよう、限られた資源を効率的・効果的に各分野に配分する力が必要です。こうした力を身に着けるうえで、経済学は非常に役に立ちます」(尾崎教授)

 社会課題を正面から捉え、その解決のために尽力できる公務員。そんな人になりたい、という想いは、学生の間でも高まっている。

「とくに2011年の東日本大震災以降、「社会に貢献したい」という学生が増えています。課題が山積している時代に生まれた世代でもあるからか、自分も社会に働きかけなければいけない、貢献したい、という意識を持っている学生が多くなっていると感じます。入学したばかりの1年生に『今の時点で将来の進路を選ぶなら?』とアンケートをとると、金融業界に並んで公務員という回答が毎年一番多い割合になっています」(尾崎教授)

試験合格はゴールではない。「その先」を具体化するプログラム

 公共選抜プログラムには、プログラム生限定の特別講義がある。2年次のワークショップ科目、3年次のインターンシップ科目、そして4年次の面接対策科目などだ。

 各科目を担当しているのが奈良特命講師。特別区である東京都中野区で、政策づくりや職員採用などに長年携わってきた。公務労働の現場を知っているからこそ、学生に教えられることがあるという。

「面接官をしていた頃に気づいたのが、公務員になることをゴールにしている学生が意外と多いことです。志望動機も抽象的で、公務員になったあとにどうしたらいいかわかっていない。しかし面接官が望んでいるのは、公務員として仕事に取り組む学生の意欲や熱意、そして志です。公務員の重要な仕事である『社会課題を解決する』という点に興味を持ってもらえるよう、授業を行なっています」(奈良特命講師)

 2年前期のワークショップ科目では、地方自治の仕組み、公務員の働き方、住民との関係など、さまざまなテーマでディスカッションを実施。現職公務員を招き、自分の仕事についてリアルに語ってもらう回もある。授業が進むにつれ、学生は漠然としていた公務労働のイメージをだんだんと具体化しているそうだ。

 2年後期になると、社会課題解決に向けた具体的な政策づくりを体験する。ここでも現職公務員による講義とグループワークをする機会があり、机上での議論に留まらないリアルな現場の様子を学べるそうだ。

「社会の役に立ちたい気持ちを形にすること、公務員としてやってみたい仕事、その仕事の難しさをきちんと認識してもらえるような授業です。みなさん熱意があるので、授業を経るごとに意識がどんどん変わっていきます。また、現職公務員のみなさんにもプログラム生の良さを知ってもらえるので、3年次のインターンシップも快く受け入れてもらえました。とくに、素直で前向きに取り組む姿勢が高く評価されています」(奈良特命講師)

 3年次のインターンシップは、都市部と地方の両方を経験することが推奨されている。地方でなければわからない、社会課題解決の最前線もあるからだ。とくに人気が高いのが、島根県美郷町での1週間のインターンシップだという。

「美郷町は人口1万人ほどの町で、少子高齢化や人口過疎といった課題の先進地でもあります。ここで起きている問題は、10~20年後にはかならず都市部でも深刻化するでしょう。そうした課題に最前線で取り組んでいる現場を体験してもらいます」(尾崎教授)

「住民の方が何を考えているか、公務員は意見をどうまとめていくか、仕事の難しさは何かなどを学生たちは感じて帰ってきます。公務員の仕事はいい面ばかりではない、というギャップを感じてもらいたいです」(奈良特命講師)

 さらに4年次の面接対策では、奈良特命講師だけでなく、学生も面接官役を担当。本番の面接場面を想定して、面接官役と志望者役、そして全体を俯瞰する評価者役を順に体験し、表現力やコミュニケーション力などを身につけていく。

「学生は良い経験をたくさん持っているのですが、面接の場面で表現し切れていないときがあります。それができるよう、何度も練習することが大切です。また、学生が面接官役を担当すると、採用側が知りたい内容や、面接官からどのように見られているのかなど、多くの気づきを得ることができます。私はキャリアセンターでも全学部対象の面接対策講座をしていますが、そちらは学生と1対1の面接練習です。面接官役として採用する側の視点も体験できるのは、公共選抜プログラムならではの特徴だと思います」(奈良特命講師)

 公務員試験合格後も、授業の中で将来につながる経験を積む機会がある。4年生はスチューデントアシスタントとしてプログラム生の議論をサポートしたり、公務員志望者の合格報告会で後輩に体験を伝えたりしているそうだ。

「輪の中に入って議論を盛り上げていく手法は、地方自治体で市民参加の計画づくりなどを進める際にも大いに役立ちます。意見を喚起する場作りの力は、公務員に必要なリーダーシップのひとつです」(尾崎教授)

東京で学び、地元で活躍する公務員を増やしたい

 公共選抜プログラムを受講した学生たちは、毎年数カ所から内定をもらっている。埼玉県、山梨県、福島県など、地元に戻って公務労働に携わる学生も多い。

「地方からお預かりし、本学で育てた学生を地方にお返しする、ということに本気で取り組んでいます。地方で就職活動をする人には大学から交通費の補助も出していますし、地方から入学するときの奨学金も豊富です。課題意識を持って地方でも活躍できる公務員を、これからも育てていきます」(尾崎教授)

 全国で公務労働に携わっている卒業生とのつながりも、今後ますます強まっていくだろうと尾崎教授と奈良特命講師は期待している。2026年1月に、公的機関に勤めるOB・OG組織である「葵公務会」が設立されたからだ。

「葵公務会ができたことで、インターンシップの受け入れ先もどんどん広がるのではないかと考えています。卒業生が全国にいるのは心強いですし、本学にとって大切な財産です」(尾崎教授)

 最後に、公共選抜プログラムを勧めたい学生像を伺うと、尾崎教授は「高校の探究学習をがんばった人」だと述べた。

「高校時代にも社会への不安や危機感を抱き、それを探求のテーマに選んだ人も多いでしょう。公共選抜プログラムではより高度なレベルで、現場の実践と接続しながら、本当の意味で課題を解決していくためのツールや理論などを学べます。だからこそ、自分はどんな課題にチャレンジしたいか、という視点を、高校時代に持ってもらえるとありがたいです。公務員試験合格がゴールではないように、大学入学もゴールではありません。入学後に挑戦したい課題を明確に持って、本学の門戸をたたいてほしいです」(尾崎教授)

東京経済大学 経済学部

尾崎 寛直 教授

 

東京経済大学 経済学部

奈良 浩二 特命講師

 

東京経済大学

「考え抜く実学。」考え抜き、実践し、未来を切り拓く力を育む

東京経済大学は、明治・大正期に活躍した実業家の大倉喜八郎が、1900年に創立した大倉商業学校が前身です。困難な時でもひるまずに前へ進む「進一層」の気概と「責任と信用」を学風とし、「アカデミズムに裏打ちされた実学教育」を実践する大学として、高い倫理性を持つ有為な[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。