清泉女子大学のPBL(課題解決型学習)が学外から注目を集めている。2025年度大学認証評価では、「特に優れた取り組み」に選出された。PBLを必修にしている学部もあり、プロジェクトを通して学生たちは大きく成長している。清泉女子大学がPBLで工夫している点や、今後の展望などを社会共創センター長の兼清慎一教授に伺った。

清泉女子大学のPBLが評価されたポイントは?
清泉女子大学は社会と関わる学びとして、PBLに取り組んできた。なかでも地球市民学部ではPBLを全員必修にしており、1年次から4年次まで長い時間をかけてプロジェクトを進めていく。また、誰でも参加できる正課外のPBLにも取り組んできた。地域や企業と連携して社会課題の解決に取り組む機会が、多くの学生に用意されている。こうした「PBLを核とした社会連携と学生一人ひとりの成長」は、大学基準協会が実施した2025年度大学認証評価で「特に優れた取り組み」として選出された。
「評価されたポイントの一つは、PBLを正課の学びにつなげていくため正課外のPBLも本学のディプロマ・ポリシー(学位授与方針)にあわせて運用した点です。
もう一つ高く評価されたのは、2021年度から始まった地球市民学部の必修PBLです。こちらは4年間かけて取り組むPBLで、単位も認定されます。テーマも進め方も学生が一人ひとり自分自身で決めて行動する点が特徴です。ただ、自力で連携先を見つけ、協働を進めるのはハードルが高いという学生もいます。そのため教員やPBLの専門アドバイザー(SEO=Student Experience Officer)が丁寧にサポートしてきました。本学が掲げている『一人ひとりに向き合う教育』を体現していると評価していただけました」
伴走者と共に時間をかけて取り組むPBL
兼清教授は「成長につながるPBLに欠かせないのはSEOのような伴走者と、長い時間かけて取り組むこと」だと考えている。なぜならPBLは順風満帆な学びではないからだ。テーマを決めたとしても、他者と協働して取り組むことである以上、それを計画通りに実現できるとは限らない。ときには協力を断られてしまうこともある。そうした失敗を何度もくり返し、だんだんと気づきを得ていくことが学生の成長につながっていく。
「協働先の人に喜んで協力してもらえると信じていた提案が、さまざまな事情で断られることがあります。そのことにショックを受けてしまう学生もいます。しかし学生は、教員やSEOと話すうちに、『相手にも事情がある』『自分の想像以上に実現が難しい提案だった』『自分がやりたいことを相手に押しつけていたかもしれない』という点に気づきます。こうした気づきを得た学生は、次のアクションで、協働相手の思いや悩みに寄り添うことを心がけるようになります。失敗を糧にし、他者と信頼関係を築くには時間が必要です。だからこそ地球市民学部のPBLでは、何度もやり直せるよう、4年間をかけて取り組むことにしているのです」
SEOのサポートを頼もしく感じているという兼清教授。現在、3名のSEOが在籍し、国際関係のNGOやJICA、広告会社など、多様な現場での実務経験を持つ専門人材が揃っている。SEOはこれまで培った人脈や、今も広げ続けているネットワークを活かし、学生たちの関心に応じて連携先候補を紹介する。しかも、年に数回、学生全員と面談することにしており、その挑戦と変化を見守り続けている。
「失敗したときはすぐに手を差し伸べるのではなく、なぜうまくいかなかったのかを学生自身が考えることが重要です。しかし、教員には素直に悩みを相談しにくい側面があると思います。教員は成績の評価者だからです。一方、SEOは成績評価に直接関与しません。純粋に伴走してくれる人として、悩みを相談しやすいのです。また、自分の個人的な関心が社会とつながるものなのか、自信を持てない学生もいます。SEOは豊富な社会経験をもとに、学生の関心に応じた協働相手を助言してくれます」

PBLをもっと地元・品川のまちで
清泉女子大学は、人文知を通じて公共を学ぶ「公共創造学環」の新設を計画していたが、学環で目指す教育を早期に実現するには、地球市民学部の新たな教育領域として位置付けることが最善だと判断した。そこで、地域共生領域、ソーシャルデザイン領域に続く第3の領域として、「公共創造領域」を展開することとした。公共創造領域でも、学生はPBLを通して、公共の現場で学びを積み重ねていくという。また、学部を問わずに参加できるPBLもアップデートをするという。まずは正課外だったPBLを、インターンシップ科目の一環として単位認定できるよう制度を整えた。
「地球市民学部公共創造領域が目指すのは、住民や自治体、企業、NPOなど多様なステークホルダーと協働してこれからの公共を創造できる人材の育成です。そのために必須となるのが、公共をつくる現場を具体的に体験できるPBLです。そのため公共と関連付けたPBLをさらに進めていきます。また、全学の学生を対象としたPBLも刷新します。これまでの全学向けのPBLは、企業が用意したプロジェクトへの参加が主な内容でした。しかし企業とのプロジェクトは企業側の事情で終わってしまうことも多く、なにより企業が学生に失敗しないように環境を整えてくれます。でも、PBLで重要なのは、失敗したあとも修正して続けることや、そのコミュニティに関わり続けることです。そのため本学は『社会共創センター』という地域連携の部署を新設し、全学向けのPBLを刷新することにしました」
公共創造領域と全学向けPBLは、大学の所在地である東京・品川で展開していくという。地元・品川でのPBLであれば、学生がコミュニティに長期的に関わることができ、大学の地域貢献にもつながるからだ。
「コミュニティに時間をかけて関わるには地元が最適です。幸いなことに大学のある東京・品川はPBLに絶好のフィールドです。宿場町の再生、日本有数の商店街の活性化、起業家コミュニティ、アートと運河の観光まちづくりなど、品川区とまちづくり団体が地域の特性にあわせた多彩なまちづくりを展開しているからです。そこで、包括連携協定を結んでいる品川区に加え、まちづくり団体とも連携して、PBLを展開することにしました。このような文化を大切にするまちづくりには、本学が蓄積してきた人文知を活かすことができます。PBLは人文学を社会で実践する場であり、教育や研究を学外に表現するものでもあるのです」

PBLが学生のキャリアを拓く
社会の現場で他者と協働して課題解決に取り組むPBL。社会で他者と協働しながら学ぶ機会は、学生が将来のキャリアを想像したり発見したりするきっかけになるという。
「地球市民学部での経験から、PBLは学生のキャリア形成に役立つと確信しています。学生は、社会の現場で他者と協働することを通じて、自分が社会であるいは職場でどう役立つことができるのか、イメージできるようになるからです。まわりの大人から「ありがとう」と言われる経験は自信にもなります。また、PBLの連携先は信頼の置ける方々ばかりなので、学生は『こんな大人になりたい』と思える素敵なロールモデルに出会うこともできます。PBLは自分に向いていることを発見し、将来こうなりたいという自分を想像する機会になっているのです」
清泉女子大学のPBLには長年取り組んできたからこその長所がある。ぜひ多くの学生にPBLに挑戦してほしいと、兼清教授は語った。
「他者と協働する。失敗に直面する。振り返る。立て直す。またチャレンジする。このPBLの試行錯誤のプロセスで得られる経験は、予測不可能な社会を生き抜くうえで支えになる実践知です。これは生成AIも教えてくれない、その学生だけの知識です。計画通りにいかないことをネガティブに考えるのではなく、偶然性を前向きに捉えられる能力を身につけてほしいです。他者との協働で生じる予想外の出来事に対応するうちに、自分らしいキャリアがきっと見つかります。失敗しても応援します。だからPBLでの経験を支えにして、自信を持って自分らしく社会に出ていってほしいです」


清泉女子大学 地球市民学部
兼清慎一教授
清泉女子大学地球市民学部教授、学長補佐、社会共創センター長。専門はメディア論、知識科学。NHKでの記者・海外特派員・編集責任者などを経て研究の道へ進んだ。山梨県立大学で勤務後、2024年度より清泉女子大学教授。
