広島県の大久野島は、数百匹のアナウサギが生息する「うさぎの島」として知られ、多くの観光客が訪れる観光地となっている。アナウサギはヨーロッパ原産の外来種で、島内では観光客の与えるエサによって個体数が維持されているという。
この島で、イノシシが生きたウサギを捕食する様子が目撃された。これまで、イノシシがウサギを食べるとしても、それは主に死体の利用と考えられてきた。しかし、大久野島では、過去にもイノシシが健康なウサギを捕食する目撃情報があり、こうした捕食が繰り返されている可能性が示された。
従来の見解を覆す事例が、なぜ大久野島で発生しているのか。福島大学の兼子伸吾教授の研究チームは、現地の状況に詳しい呉工業高等専門学校の小倉亜紗美准教授、絵本作家の近藤えり氏らとともに、その背景にある要因を検討した。
イノシシの行動の背景には、観光客が与えるエサに依存して島内に多数のウサギが生息していることに加え、ウサギが食べ残したエサをイノシシが利用していること、多数のウサギの死体もイノシシのエサ資源になっていることなどが影響しているとする。
そしてこの事例は、単なる珍しい動物行動の記録にとどまらないと指摘する。大久野島で起きていることは、観光客によるエサやりが、生態系に間接的な影響を与えていることを示唆している。実際に、観光客の数に依存した大量かつ十分に管理されていないエサやりによって、大久野島には植生の許容量を超える数のウサギが生息し、ウサギの届く範囲(ラビットライン)の枝や葉が失われている。観光客が少ない時には島内の餌資源が不足し、ウサギが有毒植物をかじる痕跡も観察されている。
大久野島は国立公園であり、毒ガス製造施設跡や砲台跡などの戦争遺跡を有する歴史的な島でもある。大久野島におけるイノシシのウサギ捕食は、持続可能な観光や生物多様性の保全に向けて、野生生物への給餌管理のあり方を見直すための重要な示唆を与えるものだとしている。
