近年、夫婦やパートナーが別々の寝室で寝る「睡眠離婚」が増えているという。「一緒に寝る安心感」と「一人で寝る快適さ」は、どちらが睡眠の質を向上させるのだろうか。
東京大学の研究グループは、この問いをマウス実験により科学的に検証した。特に本研究では、マウスの集団内で生じる物理的な妨害(身体的な喧嘩や接触)による影響を排除し、「社会的なつながり」が睡眠に与える影響に着目した。
そのために、マウスを同じケージ内で透明なアクリル板により仕切り、物理的接触を防ぎつつ視覚や嗅覚による社会的なつながりを保つ「隣人飼育」という新しい環境を導入した。その後、単独飼育へ移行し、集団内の立場が強い(優位)マウスと立場が弱い(劣位)マウスの睡眠を比較した。
その結果、隣人飼育下では、優位・劣位マウス間で睡眠時間やレム睡眠(夢をよく見る睡眠)の量に大きな差は見られなかった。一方、単独飼育に移行すると、優位マウスでは睡眠の質(深いノンレム睡眠やレム睡眠の脳波)が改善したのに対し、劣位マウスでは逆に睡眠の質が低下した。これは、優位マウスでは共寝による警戒や妨害から解放され、最適な睡眠環境を得られた可能性がある一方、劣位マウスでは「誰かと一緒にいる安心感」を失ったことによる社会的隔離ストレスが睡眠の質を悪化させた可能性が示されたとしている。
さらに、遺伝的背景の異なるマウス系統を比較したところ、睡眠への影響が異なることも明らかになった。代表的な実験用マウスであるB6系統では、劣位マウスのみで単独飼育移行後にレム睡眠量が増加したが、社会的階層が強固なF1系統では変化が見られなかった。このことは、同じ社会的ストレスを受けても、遺伝的な体質によってレム睡眠への影響が異なることを示唆している。
本研究により、睡眠の質は共寝か単独かで変化することに加え、レム睡眠は社会的な階層(集団内で優位か劣位か)や生まれつきの体質(遺伝的背景)が複雑に絡み合って調節されることが示された。本成果は、最適な睡眠環境の理解や、ストレスや孤独が引き起こす睡眠障害の病態解明に貢献すると期待される。
論文情報:【Scientific Reports】Social rank and social environment combinedly affect REM sleep in mice
