「目の前のやりたいこと」ではなく、「人生の目的」を問え—。うつ病、全身麻痺、そして友人の死。壮絶な原体験から「世界中の人々を笑顔にする」という人生の目的を見出し、その手段として最先端の「AIモデル技術開発」に挑む若き起業家、ゼファー氏。高校1年での起業から現在に至るまで、彼を突き動かしてきた“熱”の正体と、次世代へのメッセージをお聞きした。

「目の前のやりたいこと」より「人生の目的」を問え
「やりたいことがあったらやった方がいい、とは僕は言いません」。開口一番、現代のキャリア教育の定説に異を唱えるのは、株式会社ニューロジカを率いるゼファー氏だ。AIモデル開発、特に「SLM(Small Language Model)」や「マルチモーダル」「時系列予測」という最先端領域で注目を集める彼は、自身の経験から、高校生や大学生に向けて「人生の目的」については徹底的に内省せよと説く。こう語る原点には何があるのか、 そしてなぜAIだったのか。そこには一人の若者が直面した深い葛藤と、そこから生まれた明確な哲学があった。
リーダーシップの原点と、高校1年での起業
ゼファー氏の起業家としてのキャリアは、高校1年でスタートした。きっかけは、「深夜まで課題に追われ、質問したくても塾や家庭教師は対応してくれない」という当時の学習環境の改善。それを変えるべく、自ら24時間質問可能なオンライン家庭教師サービスを立ち上げたのだ。
特筆すべきは、彼自身が教えるのではなく、優秀な講師(大学生)と生徒をマッチングさせる仕組みを構築し、自身は運営(Biz側)に徹した点である。リソースが限られた環境下でシステムをゼロから設計し、人を巻き込んで動かす。この「目的のために最適なリソースを配置する」という経営者としての資質は、中学時代に生徒会や学年委員長として組織をまとめる経験を積んできた延長線上にあった。「人生の目的を達成するためには、自ら事業を立ち上げ、人を導くリーダーシップが不可欠だと確信していた」と彼は語る。この原体験が、現在の組織運営の礎となっている。
「30人」ではなく「100億人」を救うために
現在の彼の活動の中心にあるのは「笑顔を100億個作る」という壮大なミッションだ。この想いの裏には、彼自身が経験した10年間に及ぶうつ病と、同じ病で自ら命を絶った親友の存在がある。「自分が苦しむだけでなく、親友を失ってしまったことが、自分の中ではとても大きかった」。当初は医師を目指すことも考えたが、医師一人が生涯で救える患者の数には物理的な限界があることに気づく。「医者が1日に診られるのが30人程だとすれば、1日に30人診られるシステムを1万個作るほうが、遥かに多くの人を救うきっかけになる。医者には、人でなければ出来ないことに専念してもらう方がいい」。
この「仕組みで解決する」という思想が、AI開発への道を開いた。その想いを、たまたま出会った長嶋氏(後のCTO)に打ち明けたところ意気投合。さらに二人の熱量に共感して、新たに二人のメンバーも加わり、株式会社ニューロジカを共同創業。医療を中心としたAIモデルの研究開発事業を本格始動させた。

「痛み」を可視化する技術と、SLMの可能性
現在、ニューロジカは医療分野において「時系列予測」や「マルチモーダル」技術を駆使して開発を進めている。代表例が、東北大学と共同で推進している「痛みの可視化」プロジェクトだ。
これは、ゼファー氏自身が過去に原因不明の全身麻痺を経験し、意識はあるのに痛みを伝えられない苦しみを味わった実体験に基づいている。従来の集中治療室(ICU)では、看護師が患者の表情や動きを観察して痛みを評価する「CPOT」という客観的指標が用いられているが、これには常に監視することが困難だという課題があった。そこでゼファー氏らは、生体データ(バイタルデータ)の時系列変化から科学的に痛みの度合いを推論するAIモデルを開発。予測精度を飛躍的に高め、常時モニタリングを可能にすることを目指すという。
同社が注力しているもう一つの柱が「SLM(Small Language Model)」。ChatGPT のような巨大なLLMとは異なり、特定のタスクに特化させた小型で高セキュリティなモデルだ。「PC単体やデバイスのエッジ環境で動作するため、情報漏洩のリスクが低く、特定の専門分野において非常に性能の高いモデルが作れる」とゼファー氏。具体的には、医療における痛みの可視化、降水量・洪水予測、アパレルの在庫予測、さらには動画と言語でロボットを制御するVLA(Vision Language Action)モデルの研究支援といった具合だ。
これらは一見バラバラに見える事業だが、いずれも「マルチモーダル・時系列予測・SLM」というコア技術を活用すること、目的が「社会実装することでより多くの笑顔を作る」という点で共通する。「技術はあくまで手段であり、重要なのはそれが社会にどのようなインパクトを与えるかだ」とゼファー氏は言う。この一貫した姿勢が、多くの企業の技術顧問に招かれ、(株)ニューロジカがAIモデル開発会社として信頼を集める理由だろう。
目的を問い続け、「熱」のある仲間と出会う
「一番大事なのは、自分の人生の目標、自分がこの人生で何をしたいのかを常に問い続けること」と、 ゼファー氏は安易な「やりたいこと探し」に警鐘を鳴らす。行動することは重要だが、それは「自分の目的を知るための行動」であるべきだと言う。「行動した結果、自分がどう感じたか。それを深く内省して初めて、本当にやりたいことが削り出されてくる」。 そして、「その目的を達成するためには「チーム」が不可欠。そのためには自分とは全く異なる能力を持った仲間を見つけ、グリップすることだ」とも。
彼とCTOの長嶋氏との出会いは、ビジネスの場ではなく、偶然の飲み会だったという。そこで「AIと脳科学の研究をしている」と聞かされ、英語の論文を見せてもらい意気投合した。こんな『奇跡を手繰り寄せる』とも言えそうな行動の背景には、祖父から受け継いだ「誰とでも分け隔てなく話す」というコミュニケーション能力がある。「一人でやると進まない、しかし自分と真逆の能力を持っている人とチームを組むと、成長スピードは急激に加速する。AIは強力な道具だが、あくまでも道具。人間だからこそ生み出せる「熱」に突き動かされ、「人生の目的」を掲げて仲間と共に社会課題に挑む。ゼファー氏の姿勢は、これからの時代を生きる高校生・大学生にとって、一つの確かな羅針盤となるだろう。

明治大学理工学部2年・株式会社ニューロジカ代表取締役
ピーク・エイダン・ゼファー(Zephyr)さん
高校1年生の時に24時間対応のオンライン家庭教師サービスで起業。その後、生体信号から鬱病診断技術・疼痛可視化等の医療におけるAIモデル開発事業を展開するため、株式会社ニューロジカを設立。現在はマルチモーダルや時系列予測、SLM(小規模言語モデル)の開発を専門とし、医療、防災、ロボティクスなど多岐にわたる分野で社会実装を進めている。明治大学発のビジネスコンテスト「明治ビジネスチャレンジ」第3回最優秀賞。札幌第一高校出身。
