文理融合を掲げた2005年の学部開設以降、データサイエンスで文化をひも解くユニークな研究を展開する同志社大学文化情報学部。そのなかで、人間とロボットの相互作用のあり方を追究しているのが飯尾尊優先生である。飯尾先生は、ロボットによる「褒め」が人間の技能向上に寄与することや、ロボットとの英会話練習によってスピーキング能力が向上することを実証してきた。人間の根本的な行動原理を実験室で明らかにしたうえで、実社会にロボットを送り出し、そこで生まれる人と人、人とロボットの関係性をデザインする——飯尾先生の研究は、工学と心理学、そして「文化」の交差点に立っている。

 


「人はロボットにも合わせる」――研究の原点となった発見

 飯尾先生がロボット研究の道に入ったのは、大学院修士課程時代、たまたま縁があってロボット研究所でインターンをしたことがきっかけだった。インターンでは、ロボットの動作を指示する地道なプログラミングの連続で、正確さよりもまず「動いてなんぼ」と言われた。「実証実験に携わると、その言葉の意味が分かりました。ロボットから働きかけていけば、たいていの人はロボットに好意的に接していました」。ショッピングモールや科学館、小学校などに導入されたロボットが話しかけると、多くの人が単に驚くだけでなく、その説明に真剣に耳を傾けたのだ。

 さらに興味深い発見もあった。物を取ってくるロボットの研究をしていたとき、「その茶色い名刺入れですか」とロボットが確認しながら動作すると、次第にユーザー自身も色や大きさを使って指示するようになる、つまり、人間も相手を学習して、共通言語を意識的に運用しているという現象が見られたのである。「人間って、自分で考えて自立しているようでいて、実は他者の影響をかなり受けているんです。それは人間同士でなくても、人らしく振る舞うものであれば起こる。この発見が、僕の研究の出発点になりました」。

ロボットとの対話が、人の成長と本音を引き出す

 この「人はロボットに引っ張られる」という気づきは、その後の研究の核となっていく。ロボットが人を「褒める」ことで技能向上につながることを示した研究や、ロボットとの英会話練習によってスピーキング能力が向上することを示した実験は、その代表例だ。

 英会話の実験では、被験者を7日間、毎日30分ずつ、ロボット相手に練習する群と、人間講師とオンライン英会話をする群に分けて比較した。結果、単語や文法の誤り率、発話の流暢さともに、ロボットと練習した群のほうがより向上したという。「ロボットとの練習は、決まったことを何度も愚直に繰り返すんです。それが基礎トレーニングとして効いて、記憶に定着する。一方、人間の先生はサービス精神が旺盛で、雑談や応用練習を挟んでくれる。どちらが優れているというより、役割が違うんです」。

 高齢者との対話実験でも、興味深い出来事があった。音声認識の精度が低い状況でも会話を続けられるよう設計されたロボットに向かって、ある高齢の被験者が、戦争体験という重い記憶を涙ながらに語り出した。それを見守っていた施設のスタッフは「そんな話、初めて聞いた」と驚いたという。「普段は話せないようなことを、ロボットが引き出してしまうことがある。ジャッジされない、という安心感が働いているのかもしれません」。

ロボットに求められる「新しい役割」

 これらの実験を通して、飯尾先生が見据えるのは、ロボットが人間に取って代わる社会ではなく、ロボットがその「ちょうどいい」役割を発揮し、人と人とをつなぐ社会だ。

「人間関係が希薄になっている現代だからこそ、自動販売機の横やラウンジなど、日常の環境にロボットがいて、そこに居合わせた人同士をロボットが仲介すれば面白いんじゃないかと思うんです」。スマホ一台あれば、誰とでも簡単につながれる現代だが、物理環境での偶然の出会いに意味があると先生は考える。「現代、特に若い人たちは見知らぬ人と関わることへのハードルが上がっていると思います。そこで、学生が集まるラウンジにロボットを派遣する。ロボットが学生たちとの会話の中で情報収集をして、『あそこにいる学生が実験データの分析方法で悩んでいるよ。君、分析が専門だよね?』とコーディネーター役をする。スマホの通知と違い、物体として目の前にあるロボットを無視するには少し気が引けますよね。人間が遠慮してしまう物事を、空気を読まないロボットが先陣を切っていく、そんな活用を目指しています」。SNSでのマッチングと違い、たまたま同じ場に居合わせた者同士が、その場限りでつながって、イノベーションを起こすことが、人間社会の面白さだ。

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同志社大学

「一国の良心」を受け継ぐ。志を一つにして次代へ向けて邁進

1875年、新島襄によって同志社大学の前身である同志社英学校が創立。「キリスト教主義」「自由主義」「国際主義」を教育理念とする良心教育を実践してきました。真理を愛し人情を篤くする徳、個性を尊重し一人一人を大切にする精神、広い視野をもって世界を捉える力、これらを[…]

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