畿央大学大学院健康科学研究科の仲村渠亮客員研究員、健康科学研究科の高取克彦教授・松本大輔准教授らは、大阪市西成区における高齢者の健康行動と地域資源の活用実態に着目。地域コミュニティの場としての銭湯利用が、高齢者の健康維持・増進に関係するソーシャル・キャピタル(社会関係資本)となりうるか調べた。
ソーシャル・キャピタルは「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることができる『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」と定義され、地域高齢者の社会参加活動においても重要視されている。
そこで研究チームは地域に古くから存在し、浴室の家庭化が進む現代までは情報共有の場として社会的機能を担っていたとされる「銭湯」に着目。高齢化率・要介護認定率が大阪市内でも最も高い西成区を対象に、日常的に利用する銭湯が個人レベルのソーシャル・キャピタル強度と関連するか調べた。
対面式インタビューと定量的調査(体組成測定等)により銭湯利用者の健康状態、生活行動、社会的交流の特徴を分析した結果、日常的に銭湯を多く利用することが、ソーシャル・キャピタルの構成要素である「地域への信頼の高さ」「近隣住民との交流の多さ」と関連していることが明らかになった。このことから、高齢者サロンなどへの社会参加活動が難しい高齢者に対しては、銭湯が介護予防に資する通いの場となる可能性があることが示唆される。
本研究は、銭湯銭湯という地域固有の生活資源が、単なる入浴施設としてだけでなく、社会的交流や地域コミュニティ形成の場として機能している実態を確認。高齢者のソーシャル・キャピタルの維持に寄与しうる可能性を示した。
地域在住高齢者の健康支援においては、個別の医療的介入だけでなく、日常生活に根差した地域資源の活用が重要な戦略となる。今後は、他地域への適用や銭湯をはじめとする地域資源を介した介護予防プログラムの開発、地域包括ケアシステムとの連携強化を視野に入れた実装研究が必要と考えられる。