芝浦工業大学の田嶋稔樹教授（有機電気化学研究室）ら研究チームは、安全・安価なフッ化カリウムからBu₄NF (HFIP)₃錯体を簡便・高効率で合成する手法の開発に成功した。吸湿性が低く長期保存可能な新規フッ素化剤として期待される。
有機フッ素化合物は多様な分野で利用されているが、天然にはほとんど存在せず、必要に応じて合成する必要がある。合成にはフッ素化剤を必要とするが、多くのフッ素化剤は毒性、腐食性、爆発性などを有し、非常に高価だ。そのため、安全・安価で反応性の高いフッ素化剤の開発が強く望まれていた。
フッ化カリウム（KF）は最も安全・安価なフッ素化剤の一つ。しかし、ほとんどの有機溶媒に難溶で、フッ素化反応への利用は限られていた。これに対し、研究チームは、KFがフッ素化アルコールの1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール（HFIP）に特異的に溶解することに着目し、HFIP中でテトラブチルアンモニウムブロミド（B₄NBr）とのイオン交換反応により、新規フッ素化剤のテトラブチルアンモニウムフルオリド誘導体（Bu₄NF (HFIP₃錯体）を簡便・高効率に合成することに成功した。
また、Bu₄NF (HFIP)₃錯体は極めて吸湿性が低く（吸湿性が高いと反応性が著しく低下する）、合成から3か月後もほとんど吸水しなかった。さらに、Bu₄NF (HFIP)₃錯体を支持塩兼フッ素化剤として有機化合物の電解フッ素化に用いたところ、十分な反応性を示した。
研究で得られたBu₄NF (HFIP)₃錯体は、医薬品、農薬、機能性材料、PET検査用分子プローブの合成などへの応用が想定される。また、F⁻とHFIP間の水素結合の制御により、その反応性と吸湿性をスイッチングできると見込まれている。さらに、イオン液体としての応用展開も期待されるとしている。
