東京大学の栗栖美菜子大学院生(博士課程2年)と高橋嘉夫教授らの研究グループは、製鉄所付近で採取された大気中微粒子(エアロゾル)の分析から、燃焼起源の鉄が特異的に低い鉄安定同位体比を持ち、海洋表層に輸送される燃焼起源鉄の寄与を知る手がかりとなることを示した。

 外洋域では海水中の溶存態の鉄の濃度が低いために、植物プランクトンによる生物生産性が制限されている海域がある。鉄の供給は生物生産に伴う光合成の増加により、大気中の二酸化炭素を吸収して炭素循環に影響し、気候変動とも関連する。鉄の供給源として、黄砂等に含まれる自然起源鉄や、石炭燃焼等の人為的活動で生じるエアロゾル(PM2.5などの微小粒子)中の鉄の重要性が示唆されているが、その寄与に関して不明点が多かった。

 「鉄安定同位体比」は質量数の異なる鉄同位体の存在比で、鉄の供給源ごとに値が異なる。鉄の起源を示すトレーサーとして期待されるが、燃焼起源鉄のデータはほぼなかった。今回、製鉄所付近で粒径を細かく分けてエアロゾルを採取・分析すると、その燃焼起源鉄は自然起源鉄に対し鉄安定同位体比が非常に低いことが分かった。燃焼過程で質量数の小さい(軽い)鉄が優先的に気化して同位体分別が生じたためという。低い同位体比を持つ燃焼起源鉄は、他の排出源付近や日本の一般的な環境に普遍的に存在することから、トレーサーとして利用できることが判明した。沿岸域でも低い同位体比が観察され、燃焼起源鉄が海洋にまで到達していることが明らかになった。

 今回の結果は、燃焼起源鉄の海洋の鉄循環における定量的な寄与の評価、炭素循環や気候変動との関連性の解明にも重要であるとしている。

論文情報:【ACS Earth and Space Chemistry】Stable isotope ratios of combustion iron produced by evaporation in a steel plant

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