東京工業大学の村上陽一准教授の研究グループは、強制対流冷却と熱電気化学発電という、これまで別々に発展してきた技術を統合することにより、「物体を冷やしながら発電する」新技術を創出し、実証することに成功した。
現代文明は冷却に支えられており、データセンターのCPU群の正常動作や発電所のタービンの効率向上には積極的な冷却が必須である。冷却とは多量の熱エネルギーを高温側(排熱源)から低温側(作動流体)に移す作業だが、このとき熱エネルギーの電気(仕事)への可換分の多くが失われる。これまでの「強制対流冷却」(流体を高温の固体面に接触させて流し除熱する方法)では、冷却の必要上このロスは仕方ないとし対処がされてこなかった。
今回研究グループは、既存の固体熱電変換技術とは対照的に、液体側での熱から電気への変換を行い、その液体を冷却の作動流体に用いた。さらに、これまで強制対流冷却とは無関係に追究されてきた、静的な排熱利用技術の一種である「熱電気化学発電」に注目。これは、冷却義務のない廃熱に適用し、電力を回収するという技術であり、酸化還元対(酸化体と還元体のペア)という化学種を溶かした液中に、異なる温度の2本の電極を挿入し、温度差から電極間に起電力を生じさせるもの。この技術を強制対流冷却に統合した新技術による試験セルを設計し、物体を冷やしながら発電することに成功した。
今回重要な点は、実証セル部分に冷媒を流して通過させるのに要するポンプ仕事より多い発電量を得たことだ。本成果はこれまで未対処だった強制対流冷却に伴うロスを回収できる新世代冷却技術への転換マイルストーンになるとしている。