私たちが普段使っているスマートフォンやパソコン。そもそもこうしたコンピュータの性能を支えてきたのは「トランジスタ」という小さな部品で、これをできるだけ小さくし、たくさん詰め込むことで、コンピュータは進化してきた。しかし、原子1個の大きさが約0.1ナノメートルであることを考えると、無限に小さくすることは不可能だ。こうして半導体の微細化に限界が見え始めた昨今、コンピュータにこれまでのような性能向上を望むのは難しくなりつつある。
そこで注目されているのが「量子コンピュータ」だ。量子とは、物質やエネルギーを形作る最小の単位のことであり、私たちの体も世界もすべて量子でできている。この極めて小さな世界では、量子力学という不思議な法則が働く。例えば「コイン投げ」をしたら、出るのは「表か裏かのどちらか」だが、量子の世界では「表でもあり裏でもある」重ね合わせの状態というものが存在する。さらに、2つの量子が遠く離れていても、まるで双子のように同時に振る舞う「量子もつれ」という現象も知られている。2022年のノーベル物理学賞は、この現象の存在を実験的に確かめた研究に対して贈られ、大きな話題となった。
この量子の性質を使って計算する新しいタイプのコンピュータが量子コンピュータである。このアイデアは1981年、物理学者リチャード・ファインマンが「自然を正しくシミュレーションするには量子力学に従う計算機が必要だ」と語ったことから着想された。ただ量子は、外からの熱やノイズに非常に弱く、情報を保つのが難しいというのが課題だった。
そんな風潮の中でGoogleは2019年、「量子超越性」と呼ばれる成果を発表した。ある特定の計算において、既存のスーパーコンピュータをはるかに上回る速さを示したのだ。これを契機に世界中で開発競争が加速。日本でも2023年に理化学研究所と富士通が国産量子コンピュータを公開、大阪大学も独自の量子コンピュータを稼働させた。そして2025年の大阪・関西万博で、写真のように大阪大学が中心となり、主要部品をすべて国産で作った量子コンピュータが一般公開された。

こうして量子は私たちの生活に少しずつ浸透してきているが、では量子コンピュータは一体何に役立つのだろうか。
代表的なのが新薬の開発。薬の候補となる分子が体内のタンパク質とどう結びつくのかをシミュレーションするには非常に複雑な計算を要するが、量子コンピュータならそれを効率よく行えると期待されている。もう一つは渋滞の予測。様々な候補の中から最適なものを同時並行で探索するのが得意な量子コンピュータは、渋滞を考慮しつつ最適なルートを高速で導けるようになると期待される。
もちろん、量子コンピュータにはまだ大きな課題がある。「エラー訂正」の難しさだ。量子の情報は壊れやすく、それを守りながら計算を安定して進める技術は、まだ発展途上だ。これが実用化までには数十年かかるとも言われている原因だが、研究は着実に進んでいて、期待は徐々に高まっている。
高校生へのメッセージ
私は高校時代に、「グローバルサイエンスキャンパス」という科学技術振興機構のプログラムに参加し、研究発表や海外研修を経験したことがきっかけで研究の道に進みました。やはり好きなことに挑戦し続ける姿勢こそが、未来を切り拓く原動力になると私は考えています。みなさんと一緒に、日本の量子技術を発展させ、より豊かな社会を実現したいと考えています。
大阪大学 基礎工学研究科 博士後期課程1年
森 雄生さん(岡山大安寺中等教育学校出身)
2000年生まれ、岡山県出身。2019年に岡山大安寺中等教育学校を卒業後、大阪大学基礎工学部電子物理科学科に入学、2023年に同大学の基礎工学研究科に進学し現在に至る。専門は量子情報科学・量子計算。
