現在、高校生の探究活動の成果発表の場として、学会が開催しているジュニア部門をはじめとして様々なコンテストが開催されています。今回は、高校生の研究成果発表に関して高校・大学双方に提言させてもらいます。

 

(1)研究の実施主体について

 「総合的な探究の時間」「理数探究」など高校の授業や「科学部」などの部活動での研究は、基本的には高校の先生が指導して、高校の設備で実施しています。では、「高校の組織や先生は関与せず、高校生が大学に通い、大学の研究者の指導の下、100%大学の設備で研究活動を行う」ケースはどうでしょうか。本校生物部には東北大学「科学者の卵養成講座」から指導を受けているグループがあります。「大学の最先端の機器を使えば簡単に解決できる状況でも、安易に使わせない」というのがこの講座の方針であり、院生からの助言の下、高校の設備で創意工夫を凝らして日々、研究を進めています(本紙2024年10月)。しかし、学会のジュニアセッションでは、数千万~億単位の金額の大学の装置を駆使した発表を見かけることもあります。囲碁の世界で言えば、日本棋院の院生がアマチュアの大会に出てくるようなもので、ジュニア部門ではなく、院生や学生、研究者と同じ一般のセッションで発表した方が良いのではと疑問に感じることもあります。ちなみに日本農芸化学会では、高校生以下の「ジュニア会員」という制度を設けており、会費が格安であるだけでなく、入会すると「一般講演(大人の部のセッション)」で発表できます。

(2)オーサーシップについて

 大学生や大学院生、大学等のプロの研究者が学会発表や論文発表を行う際には、オーサーシップと言って、研究への貢献度順に著者名(発表者名)を記し、最終著者には、指導教員が責任著者(Corresponding Author)として名前を連ねることが多くの分野での一般的なルールとなっています。しかし、高校生の学会発表の要旨の著者(発表者)欄は貢献度とは関係なく、「学年順に、同学年は氏名の五十音順」で記載してしまっている場合があります。これは、多くの高校生や高校教員はオーサーシップのルールを理解していないということと、教育現場が年功序列と平等を重視し、個々の生徒の貢献度をオープンにしにくい雰囲気があることが原因です。昨今、大学の学校推薦型選抜や総合型選抜の中には、研究業績を評価の対象とするものがあります。この場合、大学教員側が「著者名は貢献度順である」ことを前提に審査を行うことも考えられますから、高校側がオーサーシップのルールを正しく理解していないと、貢献度の高い生徒が不当に低い評価を受ける可能性がありますので注意が必要です。

 オーサーシップのルールとして広く認識されているものとしては、「科学研究における健全性の向上について(日本学術会議,2015年)」での以下のような記述があります。

1 研究の企画・構想、若しくは調査・実験の遂行に本質的な貢献、又は実験・観測データの取得や解析、又は理論的解釈やモデル構築など、当該研究に対する実質的な寄与をなしていること。
2 論文の草稿を執筆したり、論文の重要な箇所に関する意見を表明して論文の完成に寄与していること。
3 論文の最終版を承認し、論文の内容について説明できること、の全ての要件を満たす者について著者としてのオーサーシップを付与することが考えられる。

 

 大学などの研究の現場で働く「実験(技術)補助員」は、研究者の指示の下、実験の準備や操作、データ収集、実験器具の洗浄や管理を行います。実験の計画立案やデータの考察、ディスカッションに参加していない実験補助員は、一般的には共著者には含みません。高校生のグループ研究の場合はどうでしょうか。メンバー間で温度差があり、「言われた通りの実験操作は行ったが考察には参加していない」、「実験にすらも参加していない」生徒などは、オーサーシップのルールとしては共著者には入らないわけですが、教育的な配慮からするとなかなかそうもいかないのが実情です。高校教員側の対策としては、「貢献度が何もないという状況を作らないように全員に何らかの役割は負わせること」「参加状況やディスカッションの内容を記録しておくこと」「発表資料作成時に著者名の順序について共著者全員に確認を取ること」、が考えられます。

 共同研究先の大学の研究者は、装置を提供しただけなら、共著者欄ではなく、謝辞欄への記載が妥当であるというのが一般的な理解です。高校生の研究成果を業績として欲しがる研究者はあまりいないと思いますが、少なからずコストを負担している以上、記載が何もないのも良い気分ではないでしょう。

 高大双方のためにも、高校側ではオーサーシップに対する理解を深めるとともに、学会側でも、高校側への教育の機会と捉え、ジュニアセッションの要旨作成に関する指示の中に、オーサーシップに関連する「記述のルール」を記しておくといいと思います。

(3)重複発表について

 論文や学会発表においては、本質的に同一の内容を発表する「多重投稿(発表)」が一般的に禁止されています。これは、「研究業績の水増し」「査読者の時間を無駄にする」「特定の考えの発表が多くなりミスリードをもたらす」ことを防ぐためです( 日本学術会議,2015年)。各学術誌や学会には多重投稿の禁止規定がありますが、各研究者は、そもそも研究倫理として身に付けるべき作法であるとわきまえています。

 しかし、高校生の場合、重複発表を禁じる規定の有無は学会、コンテストによりまちまちです。限られた時間で第三者が細かく内容を判断できないので断言はできませんが、「この内容は他の場でも見たことがあるような…?」と思う発表は正直あります。高校では大学よりも「教育的配慮」「平等」を重んじるために「、場数を踏ませたい「」前回の発表者以外のメンバーにも発表を経験させたい」という意識が働くことも影響しているかもしれません。しかし美術分野で、「全く同じ画を複数のコンテストに出品し、賞を総なめにする」ことを想像したら、倫理的に好ましくないとイメージできるのではないでしょうか。経験を積むだけならば校内でのセミナーでもできます(一般的に、校内や特定の学校間で行う身内同士の発表会は重複発表の対象とはカウントされません)。高校側はこのことをよく理解し、禁止規定が示されていなかったとしても、せめて「全く同じデータ」での発表は自重し、何らかの追加データくらいは用意しましょう。そして大学や学会側は、高校教員や高校生が「どこからが重複発表なのか」がわかるような教育的な禁止規定を整備してはどうでしょうか。

(4)発表成果の公開について

 学会やコンテストによっては、要旨をweb上で公開している場合があります。高校側も、学校によってはHP上で、宣伝の一環として校内発表の要旨や論文を公開している場合があります。近年重視される情報公開という点で風通しが良い学校に見えますし、情報共有を行うことで人類全体の知は加速するというのがScienceの世界では常識です。

 しかしながら、高校生の研究は実験の手技も未熟で、信用しきれない内容が多いのではないかと私は考えています。生命科学系の大学教員の方は思い起こしてみてください。出来合いのキットの溶液を混ぜるだけのPCRでも、学部3、4年生ではなぜか上手くいかないことが多いという現実を。また、授業時間外の限られた時間で研究を進めていく高校生は、実験の試行回数が限られているため、信頼性の低いデータで結論を導き出している可能性もあります。統計的な処理も適切とは限りません。また、プロの研究者が書いた学術論文は査読を経て掲載されているため一定の水準は担保されていますが、高校で公開している生徒の論文は査読を受けていません。

 このような研究成果は未来永劫webで公開され続け、以後の文献検索のたびにヒットし続けます。プロの研究者は情報を取捨選択できますが、高校生や一般人は基本的にその情報を信じて新たな知識として吸収し、時には新しい探究活動を行うための参考とします。また、AIはweb上のデータから学習していますので、その点でも好ましくない影響があるかもしれません。つまり、厳しい言葉で表現するなら、不確かな研究成果を公開することは、未来の人々の知的活動の妨げになる可能性があるということです。よって、確証のない情報は公開せず、演題や発表者の所属および氏名を公開する程度に留めると良いのではないでしょうか。

終わりに

 高校生の成果発表に関して、今回は4点に絞って提案しました。大学教員の方は学会やコンテストの運営や審査の際に、高校の先生方は生徒への指導の際に、参考にしていただければと思います。

秋田県立秋田高校 教諭

遠藤金吾博士(生命科学)

埼玉県立川越高等学校卒。東北大学農学部卒。東北大学大学院生命科学研究科博士課程前期・後期修了 博士(生命科学)取得。東北大学加齢医学研究所科学技術振興研究員。2008年より、秋田県の博士号教員。2016年より、現任校(秋田県立秋田高等学校)に勤務。専門は「DNA修復と突然変異生成機構」。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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