大学を象徴的に表すのによく使われるのは門だ。赤門、白門会や稲門会、狭き門しかりだ。神社仏閣同様、門をくぐると中は聖域で外は俗世間というように、大学はこれまで世間とは少し違うところで学問をしてきた。しかし、今の若者を鍛えるには門の中だけでは難しい。高校まで受験勉強に浸かり、大学でもキャンパスに籠って座学ばかりでは、世間を知ることもなく、社会へ出てから苦労する。
そこで門に代わって窓、開かれていることで風通しが良く、外の世界へ視野を広げることのできる窓を、地域に、世界に開かれた大学の一つの象徴と考えてみた。キャンパスは至るところにあると考え、学生も教員も大学から自由に出て行き、反対に社会の人にも大学の中へ入って来てもらう。それに何よりも、窓は未来への希望を象徴するものでもある。

WINDOWの6文字一つひとつにもキーワードを盛り込んだ。
WはWild and Wise。育てたいのはタフで賢い学生だ。私はフィールドワーカーとして、自らの目で見て体で感じたことを書き留め、それを基に新しい分野や理論を追求してきたが、こうした手法をもっと他分野の多くの学生にも取り入れてもらいたいと思っている。また当然のことだが、世界へ積極的に出て行くためには身心ともに鍛えておく必要がある。

IはInternational and Innovative。国際性豊かな環境の中で、常に世界の動きに目を配り、世界の人々と自由に会話をしながら、時代を画するイノベーションを生み出そうとする試みである。海外の大学や研究機関、産学官民を通じた多様な交流を通じて、この動きを作り出そうと考えている。

NはNatural and Noble。京都は三方を山に囲まれるなど自然が身近にあって、それが独創的な学問・研究を生む源泉とも考えられている。大学にほど近い哲学の道は、まさにその象徴だ。そこでは西田幾多郎や田辺元などの哲学者をはじめ、京都学派と呼ばれる先輩たちが疏水に沿って散策し、吉田山や大文字山を見ながら思索に耽り、自らを、世界を見つめ直してきた。

わが師、今西先生も、最初は京都の北山で鍛えた。霊長類学というオリジナルな学問を創始するに至った原点も、そこでの散策と思索の中にあると思っている。自然の中で心身を鍛えることは自然への畏敬の念を抱かせ、自分が磨かれ、品格を身につけることにもつながると思う。

DはDiverse and Dynamic。多様性は、様々な分野が集まり、しかも同じ分野の中にも多様な学生の集う総合大学の一つの特徴だ。そこにはイノベーションを起こす芽も潜む。ダイナミクスは、変化の激しい世の中にあっても自らを見失うことなくその流れを捉えていくことのできる個性、能力を表す。

OはOriginal and Optimistic。オリジナリティを求めることは、ともすると人から離れていったり、人から批判されたりすることにつながりかねない。自らの殻に閉じこもりすぎないこと、そのためには楽観的に考えることも必要だ。少々の失敗は気にとめない。もちろん、先輩や友人、先生の存在が欠かせないことは言うまでもない。

最後のWはWomen and Wish。これまで以上に女性が輝くキャンパスを目指したい。女性の考え方を学問の中にきちんと花開かせること。私の研究分野である霊長類学はかつて男社会だったが、女性研究者が入ってきてくれたことで、繁殖や子育てといった視点が加わり、そこから新たな展開が始まった。女性が意見をはっきり言えて、男性と肩を並べて働くことのできる環境を大学自らが整えねばならない。

京都大学は今年度から特色入試を始める。10年近く前期試験だけで入試を行ってきたが、受験機会が一度増える。今やどの大学も、尖った、個性ある学生を求めて入試改革を行っているが、京都大学としては特色入試を通じて、関東、とりわけ首都圏の高校生にも目を向けてもらいたいと考えている。

京都大学には個人的に世界と多様なネットワークを持っている先生方がたくさんいるから、大学全体として※2だけでなく、たくさんの窓が世界に直接開かれている。一回生から世界を知り、学部時代から世界へ出て行くこともできる。34の研究所・センターは全国最多だが、それぞれが世界的な研究拠点だ。一回生の少人数制のポケゼミでは、学部・研究科のみならず、研究所・センターに所属している研究者も多く参加する。研究大学を初めから意識して入ってくる学生も多いから、彼らには尖った成果を最初から見てもらいたい※3。時間があれば研究室を訪れ、世界最先端の研究に触れることもできる。

京都市は人口147万の街だが、その約一割が学生だ。市民はみな学生にはやさしく、大学を支えてもくれている。職人や芸術家、企業の人々は、学生に様々な勉強をさせてくれる。首都圏をはじめ、全国の高校生が京都を目指し、その中で学問以外の世界も知り、心と体を鍛えてほしいと思っている。

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森上展安:ありがとうございました。特色入試について、副学長から一言おありですか。

有賀哲也副学長:理系は少し人数が少ないものの、初年度から全学部で実施する。従来の筆記試験では測れなかった学問に対する意欲や、志等も評価の対象とするから、われと思わん高校生にチャレンジしてもらいたい。サンプル問題はすでに公開してある。文系は、長文をしっかり読んで考え、自ら書く、つまり学問の基本が身についているかを見るという一点に絞っている。基礎学力はセンター試験で評価する。本をしっかり読んでいれば合格のチャンスは十分あると思う。

私も関東出身で、東京大学に16年いて京都には馴染みがなかったが、来てみるととても過ごしやすい。学生にとっても同じだと思う。

有賀哲也 京都大学副学長

有賀哲也 京都大学副学長

 

※1:1902年1月6日~1992年6月15日。京都大学名誉教授。日本の生態学者、文化人類学者であり登山家としても著名。日本の霊長類研究の創始者として知られる。第二次大戦後に京都大学理学部と人文科学研究所でニホンザルや類人猿、遊牧民などの研究を進め、日本の霊長類社会学の礎を築いた。
※2:スーパーグローバル大学創成事業(SGU)トップ型「京都大学ジャパンゲートウェイ構想」。
※3:2015年の前期には、研究の最先端を見せるべく、山極総長、山中伸弥iPS細胞研究所長など、世界の第一線で活躍する25名の研究者がリレーで講義する『生物学のフロンティア』が行われた。
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京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

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