東京都立大学、京都産業大学、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究グループは、近年、増加の一途をたどる耕作放棄された農地に、水害発生を抑制する防災効果があることを解明した。農地が放棄されても土地転換などをせず維持することで、防災インフラとしての機能が期待できるとしている。

 気候変動の影響で自然災害が増加・激甚化する中、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)が注目されている。農地や都市緑地などのグリーンインフラに防災インフラとしての役割を期待するもので、Eco-DRRは防災・減災だけでなく生物多様性の保全など多様な社会的利益ももたらす。

 近年、農地の持つ防災・減災効果について広域的な評価が進み、その社会実装への期待が高まっている。一方、人口減少や高齢化により全国で耕作放棄地が拡大しており、食料生産などの機能が失われる中、防災・減災機能への影響はこれまで明らかでなかった。

 水田は雨水などを蓄え、畑地は雨水などを浸透させることにより、水害発生を抑制すると考えられている。そこで、研究グループは水田は放棄によって水路が機能せず防災機能が低下する、畑地は放棄されても防災機能は低下しないと予測し、耕作放棄地が水害発生を抑える防災効果を持つかどうか統計情報等を用いた広域的な検証を行った。

 対象としたのは海に隣接しておらず、一定面積の農地を有する埼玉、群馬、栃木3県で、2011年から2019年の水害発生回数と水田、畑地、市街地の面積、さらに水田と畑地の耕作放棄率の関係を調べた。対象地の耕作放棄率は水田が平均6%、畑地が18%だった。

 調査の結果、いずれも水害発生を抑制し、市街地は水害発生を助長していた。さらに、水田・畑ともに耕作放棄率が水害発生に与える影響はほとんど見られず、耕作放棄後も防災効果が維持される可能性が高いことが示された。研究グループは最近の水田が畔や水路のコンクリート化で耕作放棄後も貯水機能を維持する一方、耕作放棄された畑地が野生の植物が繁茂しても土壌を維持し、雨水の浸透能力を大きく低下させないためでないかとみている。

 最近は台風の大型化や集中豪雨の頻発化から水害が増えている。今回の研究成果は、耕作放棄地でも防災効果が持続することを示しており、宅地開発など他の土地利用への転換は防災機能の喪失につながる可能性がある。農地の主な目的は食料生産であるが、今後は防災機能など多面的な価値にも注目し、たとえ耕作放棄されていても農地をグリーンインフラとして保全する仕組みの検討が求められる。

論文情報:【Scientific Reports】Evaluating the impact of agricultural abandonment on flood mitigation functions

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