現在の高校1年生が大学入試を受験する2025(令和7)年度入試。その入試科目は今年度中に公表されることになっています。すでに国立大学協会が「情報Ⅰ」を原則として課すことを1月に公表しています。東京大学も3月に大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の利用教科・科目を公表していますが、配点、選択パターンや個別試験科目などはまだ公表されていません。ただ、大阪大学など有力な大学が詳細な情報を公開するなど動きも見られます。現段階でのポイントについて見ていきます。

 

 

早稲田大学人間科学部は共通テスト「情報」が選択可能

共通テストの出題教科・科目や試験時間、現行の教育課程履修者(2025年度入試では旧課程履修者)の経過措置はすでに発表されています。また、国立大学協会からも「情報」を加えた6教科8科目受験を原則とすることが公表されています。各大学がこれらを受けて、どのような入試科目となるか注目されていますが、共通テストでは、国公立各大学の「情報」の配点が気になるところです。理科や地歴・公民と同じ配点などの扱いとなるのか、必須受験としながらも、配点を低くするか、あるいは必須受験でも、高校現場に配慮して、点数を合否判定に用いない方法もあり得ます。

 この「情報」が、私立大学の共通テスト利用方式でどのように課されるのかは注目です。すでに公表されている早稲田大学人間科学部の国英型では数学、理科、地歴・公民と並んで「情報」が選択科目とされています。数英型では国語、理科、地歴・公民と並んで選択科目とされています。どちらも、共通テストの科目に加えて、個別試験が課されており、配点も個別試験の方が大きいため、影響は限定的だと言えますが、私立大学の一般的な共通テスト利用方式の場合は事情が異なります。

 多くの私立大学は共通テストの点数のみで合否判定を行う入試方式のため、学習指導要領で標準2単位とされている「情報Ⅰ」を国語や数学と同等の選択科目とすることは難しいと思われます。多くの私立大学は、理工系学部の場合は地歴・公民(場合によっては国語)もしくは情報、人文社会科学系学部の場合は理科もしくは情報の選択パターンになるものと予想されますが、それでも標準単位数からみたバランスは良くはありません。

 この他、共通テストでは、国公立大学で理科の「物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎」ですが、すでに公表されている東京大、大阪大は選択科目としています(現行でも東京大学の文類など難関大学で選択が可能)。また、地歴・公民の新しい科目「地理総合、歴史総合、公共」は選択科目とされるのか、なども注目点です。なお、東京大、大阪大は「公共、倫理」、「公共、政治・経済」を選択科目としていますが、「地理総合、歴史総合、公共」は選択科目ではありません。

 

大阪大学は、旧教育課程履修者を考慮するも特別な経過措置はない

大阪大学は個別試験についても詳しい情報を公表しています。国語の出題科目は、「現代の国語」と「言語文化」です。「文学国語」や「論理国語」は出題科目とはされていません。共通テストと同じ出題科目となっています。

 また、理系数学は、数Ⅰ、数Ⅱ、数Ⅲ、数A(「図形の性質」、「場合の数と確率」)、数B(「数列」)、数C(「ベクトル」、「平面上の曲線と複素数平面」)となっており、数学B(「統計的な推測」)は含まれていません。文系数学は、数Ⅰ、数Ⅱ、数A(「図形の性質」、「場合の数と確率」)、数B(「数列」)、数C(「ベクトル」)で現行とほぼ同じです。旧課程生として受験することになる生徒にとっては少しですが安心できる設定です。また、地歴は、「地理総合、地理探究」、「歴史総合、日本史探究」、「歴史総合、世界史探究」と共通テストと同じ科目設定です。また、旧教育課程履修者に対する経過措置については、「各教科・科目とも、旧教育課程履修者を考慮するものの、特別な経過措置はとらない」とされていますので、どの程度の“考慮”がされるのかが気になります。この辺りは「共通する範囲から出題する」など明確に示してもらいたいところです。

今後、入試科目を公表する大学は、既発表の有力大学の科目設定を参考にすると思われますが、数学の出題科目などはできる限り、現行の入試科目に合わせた設定になると考えられます。その点では大阪大学の科目設定は入試の標準とも言えるかも知れません。なお、私立大学も含めた個別試験では<表>のような内容が明確に示されることが受験生にとっては必要です。各大学のご配慮を望みたいところです。

 

 

共通テストは試験時間が増えて難化する

これらに加えて、共通テストには大きな変更点があります。試験時間の変更です。共通テストは開始当初から、数学①(主に数学Ⅰ・数学A)の試験時間が60分から70分になっています。ただ、それでも今年の数学Ⅰ・数学Aは、問題を解く時間が足りなかった受験生が非常に多かったと言われています。

 これに加えて、2025年度入試からは、数学②(数学Ⅱ・数学B・数学C)も60分から70分に試験時間が増えます。一般的に考えて、試験時間が長くなることは出題される問題量の増加を意味しています。当然、難化すると予想されます。

 さらに、国語も80分から90分に試験時間が増えることが公表されています。共通テストのプレテスト(試行調査)の時も話題になりましたが、記述式問題として出題される予定だった契約書などの実用的文書等の問題が1題増えるのではないかとも言われています。記述式問題が出題されないことは決定していますので、マーク式による解答形式になりますがこちらも難問になりそうです。

 配点の大きい数学と国語で難化すれば平均点は下がります。ただ、一方で、入試制度の変わり目は共通テストの平均点が高くなるというのも過去に繰り返されてきたことです。今からそこまでの予想はできませんが、まずは今年度中に各大学から発表される入試科目を注意して見ておこくことが必要です。

 

 

<参考サイト>

・大学入試センター 令和7年度以降の試験に向けた検討について
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html

・2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度 -国立大学協会の基本方針-
https://www.janu.jp/news/9466/

・早稲田大学 入試の変更点
https://www.waseda.jp/inst/admission/undergraduate/change/

・平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学者選抜大学入学共通テストの東京大学における利用教科・科目の予告について
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/20220326.html

・大阪大学 平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した、令和7年度大学入学者選抜における利用教科・科目について(予告)[2022.5.20]
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/admissions/faculty/general/2025

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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