筑波大学の研究グループは、モスクワで行われた閉鎖実験に参加し、実験参加者間の人間関係を調査した結果、実験期間後半では、仕事時間とプライベート時間の人間関係の境界が曖昧になることを観察。一方、これに伴うパフォーマンスレベルの低下は見られなかった。
月や火星を目指す有人宇宙ミッションでは、限られたクルーメンバーによる狭い宇宙船内での長期生活が予想され、ミッション遂行には人間関係の影響が大きいとの指摘がある。アメリカ航空宇宙局とロシア科学アカデミーロシア生物医学問題研究所は共同で、2017年より長期閉鎖実験「SIRIUS」をモスクワで実施していた。
研究グループは、人間関係の変容のプロセスを定量化することを目的に、2021年からモスクワで開始された240日間の閉鎖実験「SIRIUS-21」に参加。実験参加者5名の人間関係の調査を行った。
その結果、実験初期には参加者間での対立や分離が生じたが、精神心理の専門家が介入して人間関係は安定化した。また、実験の進行に伴い、仕事時間とプライベート時間の人間関係の境界が曖昧になる傾向が見られた。ある2名の間では不和の傾向が持続的に見られたが、チームの結束力を示す指標は維持され、パフォーマンスレベルは一貫して高かった。
今回の研究結果は、閉鎖空間での長期間ミッションでは、専門家の適時介入が人間関係の安定化に有効であり、対立や、仕事/プライベート時間の境界が曖昧になることが、チームに悪影響を与えるとは限らないことを示唆している。将来の有人宇宙ミッションでは、クルー間の人間関係をモニタリングすることで、問題の早期発見と適切な介入が可能になるとしている。