戦後の混乱期、教員不足が深刻だった時代に、日本で初めて小学校教諭の養成を目的とした通信教育部(現在の通信教育課程)を設立した玉川大学。創立者・小原國芳が掲げた「全人教育」の理念のもと、知識や技能だけでなく人間としての資質を育てる教員養成を続けており、玉川大学出身の教員は現場での評判も高い。教育実習指導を担う教師教育リサーチセンター三好浩一客員教授と、通信教育課程で学ぶ牧野知子さんに、玉川大学通信教育課程だからこそ育まれる「教育者としての姿」について聞いた。

「全人教育」の理念が、通信教育にも息づいている
玉川大学通信教育課程は、1950年に日本で初めて小学校教員免許状を取得できる通信教育部として設立された。これまでに26万人以上の入学生を受け入れ、約1万人の卒業生を輩出してきた実績を持つ。通学制と同一水準のカリキュラムで学べることが特徴で、修業年限は4年。テキスト履修(自宅学修)と、対面・オンライン・オンデマンドなど多彩な形式を組み合わせて学び、卒業と同時に教員免許や資格を取得できる。大学や短期大学の卒業者は3年次への編入学も可能だ。
同学の教員養成の根幹にあるのが、創立者・小原國芳が掲げた「全人教育」の理念だ。「真・善・美・聖・健・富」という6つの価値観を調和的に発達させ、知識や技能だけでなく、人間としての資質を育てることをめざす。この理念は通学制にとどまらず、通信教育課程にも脈々と受け継がれている。
三好客員教授も玉川大学の卒業生だ。同学を卒業後、38年間にわたって教鞭をとり、現在は玉川大学で教育実習指導や特別講義を担当している。
キャンパスのあちこちには創立者・小原國芳の言葉が刻まれており、「神なき知育は知恵ある悪魔をつくることなり」といった哲学的な言葉が学生たちの日常に溶け込んでいる。「私たち教員は、自分の専門教科に加えて、全人教育の理念や哲学を裏付けとしながら、教育者に求められるスキルや資質を授けています」と三好客員教授は言う。
2021年、中央教育審議会は新しい時代の初等中等教育の在り方について議論し、取りまとめた答申で、「個別最適な学び」や「協働的な学び」について言及した。子ども一人ひとりの興味・関心や特性、学習進度などに応じて学習や指導のあり方を「個別化・個性化」するというもので、これは、玉川大学が創立当初から展開してきた全人教育の考えに通ずる。
「玉川大学の学生は、一人ひとりが全人教育を受けることで『人としてのあるべき姿』を自然と育み、その考えを教育者としても発揮していきます。これこそが、玉川大学教育学部の最大の強みであり、本学が『教員養成の玉川』と呼ばれる所以でもあります」と三好客員教授は語る。
学生生活を通して全人教育の考えを育んだ玉川大学出身の教員は、学校現場からの評判も高く、「教員養成の玉川」の名は全国に広く知られている。
教師教育リサーチセンター 三好浩一客員教授
「一期一会」の指導が、社会人の学びを支える
玉川大学には「教師教育リサーチセンター」という組織がある。幼稚園・保育園長、小・中・高の校長経験者、教育行政の経験者など、錚々たる顔ぶれの客員教授が在籍し、教育実習のフォローや教員採用試験に向けた面接・論作文の個別指導、模擬授業対策など、学生を手厚くサポートしている。
教育実習のフォローでは、事前指導や実習校との折衝・連携、学習指導案の検討、教育実習中に行う「研究授業」への訪問指導、事後指導に至るまで、丁寧に学生に寄り添い続ける。
「通学制に通う学生が日々、キャンパスに通って対面の授業を受けるのに対し、通信制の学生は、自宅での学修が中心となります。そのため、学生と教員が対面する機会は、スクーリングや特別講座などに限られています。だからこそ、その貴重な機会を大切にしていかなければなりません」と三好客員教授。
短い時間であっても、三好客員教授は学生との「一期一会」に感謝しながら、一人ひとりを深く理解するよう心がけている。そして、教育において何が大切で何が必要であるのかを、全人教育の考えを交えながら授けていく。
通信教育課程では、社会人経験を持つ学生が多く学んでおり、三好客員教授は「学びへの意欲」を高く評価する。「仕事と学びの両立は決して簡単なことではありません。それでも、『教員になりたい』と願い、高いモチベーションを持って学び続けている。このような特徴が通信教育課程で学ぶ社会人学生に共通して見られます」と三好客員教授。
「さまざまな業界で経験を積んできた社会人学生は、教員になったとき、それまで培ってきた経験やスキルを発揮することができます。例えばIT業界で活躍してきた方が学校内のDX化に取り組んだり、子育て経験がある方が『子どもを見る目線』を役立てたりすることもできるでしょう。特に今の教育現場は若い先生が多く、中間層が不足しています。社会人経験を持つ教員が教育現場に入ってくれることへの期待は非常に大きいと感じています」
今、挑戦しなかったら後悔する――牧野さんが小学校免許状取得を目指す理由
通信教育課程に在学中の牧野さんは、大手教育企業で約22年間働いてきた。主に小学生や中学生向け教育教材・サービスの開発に携わり、地域の小学校で子どもたちの学習を支援する「地域未来塾」の活動も続けてきた。
牧野さんが小学校免許状取得を目指した背景には、いくつかの理由があるという。
「ひとつは、これまで仕事で長く携わり実践してきた『教育』について体系的に学び、仕事に還元したいと思ったこと。また、同時期、息子が小学生になり担任の先生がとても魅力的な方で、先生って素晴らしいなと感じたこと。人生の節目を前に『生涯、やらずに後悔することはないか』と自分に問いかけたとき、『挑戦するなら今しかない』と考え、教員養成に定評のある玉川大学に入学を決めました」
仕事・育児・学びの三つを両立するため、スキマ時間を活用した。「平日は可能な限り、通勤電車の中でテキストを読んだり授業動画を視聴したりしていました。土日は夫に子どもたちのことをお願いし、シェアオフィスにこもって勉強することもありました」
2人の子どもを育てながらの学修はハードだったが、それ以上に多くの「学び」があった。例えば、スクーリングで出逢った先生や仲間。
「同じ想いを持った学生たちが集まっているからか、自然と会話が弾み、仲が深まっていきました。履修の仕組みや学びの内容など、わからないことを教え合うこともよくありました」
先生からは、玉川大学が大切にしている全人教育の考え――特に「人と向き合う姿勢」を授けられたという。「人として私たち学生と向き合ってくださり、先生の姿から『子どもたち一人ひとりを尊重して教壇に立つ姿勢』を学び取りました」
4週間の教育実習も濃密だった。最初の1週間は悩むことが多かったが、教育実習日誌を開くと気持ちがスッと落ち着いた。「全人教育の考えや玉川教師訓が書いてあって、その言葉に何度も勇気づけられました」と牧野さん。「それに、準備の段階から指導教員の先生がサポートしてくださいました。実習中、何度も私を励まし、支えてくださった先生に本当に感謝しています。教育現場に行かなければ気づけなかったこと、学べなかったことがたくさんありました」
そしてもうひとつ。特別支援学校での介護体験も牧野さんに多くの学びをもたらした。「朝、保護者の方からお子さんを預かり、夕方、子どもたちの手を取って保護者の方に受け渡す。その間、特別支援学校の先生方は子どもたち一人ひとりを見守っています。その重責を垣間見ることができましたし、現場の先生方との会話を通して『理想の教育とは何か』について考えることができました」
牧野知子さん(教育学部教育学科 通信教育課程 小学校コース)
「フルオンラインでも、こんなにうまくいくんだ」——新しい学びのかたちへ
2026年、玉川大学通信教育課程は、教育実習・介護等の体験を除いて、メディア授業のみで教員免許状の取得が可能な体制を整えた。これにより、居住地にとらわれず学べる環境が一層整ったことになる。
牧野さんは取材直前、初めてフルオンラインのスクーリング授業「生活科指導法」を受講した。4日間、毎日9時から17時まで、全国各地の学生30名がオンラインでつながり、グループワークや模擬授業に取り組んだ。
「当初は、模擬授業がうまくいくだろうかと不安な気持ちもありました。でも実際に取り組んでみて、フルオンラインでも対面と同じように自然な学びができることに気づきました」
最終日に実施した模擬授業では、一人8分ずつ模擬授業を行い、残りの学生が児童役を務めた。自宅の壁を黒板に見立てて紙を貼りながら授業をする学生や、台風で休校になった設定でオンライン授業を展開する学生もいて、全員が模擬授業を終えると「本当の学級のような一体感」が生まれていた。
「遠方に住んでいる学生や、家庭の事情などで自宅を長時間離れるのが難しい学生にとって、フルオンラインで授業に参加できるのは本当にありがたいと思います」
玉川大学が大切にしてきた「人との関わり」は、オンラインという形態の中でも失われない。それを牧野さんは自身の体験を通して証明してみせた。
「私にとって、玉川大学は人生の新たな一歩を踏み出させてくれた場所です」と牧野さん。「玉川大学で学んだことすべてを、未来の子どもたちの成長に還元したい。そのためにも、残りの学生生活に全力で取り組み、日々の学びを大切にしていきたいと思っています」

玉川大学 教師教育リサーチセンター 教職サポートルーム
三好 浩一(みよし こういち)客員教授
玉川大学文学部教育学科卒業。専門は小学校教育(社会科教育)。東京都の新島・世田谷区・府中市・町田市の小学校で教諭・主幹教諭・副校長・校長を歴任し、38年間にわたって教師の道を歩む。退職後、母校・玉川大学に戻り、現在は教師教育リサーチセンター教職サポートルーム客員教授として、通信教育課程の学生の教育実習指導や採用試験対策に携わる。

玉川大学 教育学部教育学科 通信教育課程 小学校コース
牧野 知子(まきの ともこ)さん
他大学卒業後、出版社勤務を経て、大手教育企業へ入社。小・中学生向け通信教材・サービスの開発に長年携わる。「教育の知見をさらに深めたい」という思いを胸に、2024年、玉川大学教育学部教育学科通信教育課程に3年次編入した。
