自分を動かし、チームを動かし、社会を動かす力を身に付ける。
コロナ禍をきっかけに学び方や働き方は多様化し、高校生、大学生の学びに対する価値観や将来像も変わりつつある。こうした中、大学教育のあり方そのものを問い直そうという試みが始まっている。今回、総合大学にあって大胆な改革に乗り出すのが、京都産業大学経営学部。2027年度からは将来を見据えた主体的な学びを前面に打ち出し、デジタルを積極的に活用して、学びの形だけでなくキャンパスライフや通学のあり方にまで切り込む。加えて地元企業や経済団体との連携を深め、経営学の中核とも言うべき実践的な教育の比重も高める。「まずは自分たちが変わることで、日本の社会科学系学部の新しいスタンダードを作りたい」と語る学部長の篠原健一教授に、改革の3つの柱を中心に話を聞いた。
【改革の柱 その1】将来の選択肢を拡げる自由な学び
専門領域に設けられている枠組みを廃し、学部全体の科目の中から学生が自身の将来を見据えて、自由に時間割が組めるようにした。自分の興味関心に基づいて、様々な科目を主体的に受講できるようにすることで、領域を越えた学びが可能になる。一見、系統が異なるような科目を履修することも大歓迎だ。4年間で学生の興味は変化するし、多様な科目に触れることで新たな可能性が開かれるからだ。
加えて本学の強みである「日本最大規模の文理融合型ワンキャンパス」を活かし、他学部や他分野の科目を積極的に履修し、学びの幅をさらに広げることができる。文理融合、分野横断、異分野融合といった時代に合わせた学びに、経営学からのアプローチが可能になる。またこうした自分なりの時間割を組んでいくプロセス自体が、目まぐるしく変わる社会でこれまで以上に求められる「自分の人生をマネジメントする力」の育成にもつながる。
とはいえ、一学年700名近くの学生のプロフィールは様々で、中には決められた枠組みがないことに不安を感じる学生もいるかもしれない。そこで、自分なりの時間割を組む際の道みちしるべ標として18の「コースモデル」【下イラスト】を準備し、あわせて、自分に合うコースモデルを診断できるツールとして、「コースモデル選択支援アプリ(仮)」も用意する。ちなみに「コースモデル」とは、従来のコース制のように履修科目を制限するものではなく、あくまで参考となるモデルである。またコースモデル自体も時代の変化に合わせてアップグレードしていく予定である。なお、今回の改革でも基礎的な専門領域の履修は卒業要件として残るため、従来の学びの質は保証される。

【改革の柱 その2】デジタルで学びや通学が変わる
コロナ禍をきっかけに、大規模講義を中心にオンデマンド授業を導入してきたが、これまでの調査から対面授業に比べ、反復視聴などにより、学修成果が高いケースがあるとの裏付けが得られている。そこで講義科目の多くを対面とオンデマンドの2種類用意し、学生の選択に委ねる。各自が自身のキャリアの目標や身に付けたい力を基に、例えば「知識習得はデジタルで効率的に、実践的な学びやグループワークは徹底して対面で」といった選択をしてもいい。あるいは「タイパ(タイムパフォーマンス)」を基準に選んでもらってもいい。地域ボランティアなどの学外活動や資格取得、あるいは早期化する就職活動への対応など、授業との両立を睨んでの選択も可能だ。適切に組み合わせることで、学びにメリハリがつく。
要するに、大事なのは、時間や場所にとらわれないデジタルでの学びを組み込むことで生まれた「自由な時間」を、一人ひとりが、なりたい自分のためにどう配分するか、それを自ら考え、実行すること。これこそ経営学の実践そのものであり、今回のカリキュラム改革の隠れた狙いでもある。また科目の選択に加え、タイムマネジメントに意識的に取り組むことは、本学部がディプロマ・ポリシーに掲げる《統合的なマネジメント能力》の涵養にもつながる。
デジタルを有効活用し、キャンパスライフを劇的に変え、学生生活を意義あるものにしてほしい。
【改革の柱 その3】リアルな現場を学ぶ実践的な教育
生きた経営学を学ぶ機会として、企業や外部機関との連携を一層深め、実践力を育成するための取組をさらに強化する。昨年度、本学は京都商工会議所と包括連携協定を締結した。経営学部では、すでに全国に先駆けて日商簿記検定の団体受験を定期試験として行っているが、あらたに商工会議所をはじめとした外部機関と連携した授業を複数開講する予定である。例えば早い段階から視野を広げるために、多様なゲストを招く授業を1年次生を対象に開講したり、企業のリアルな課題に触れる機会を設けたりする。その上で、関心を持てば、事後にその企業でインターンシップが行えるなど、学びと実践をシームレスにつなげていく。大学内に留まらずに外部との距離をさらに縮め、教室と社会を直結させる環境を整えていきたい。
【改革を支える学部教育のリソース】
2年から3年間継続するゼミ活動。所属率は90%
自主性の尊重やオンデマンド授業の拡充を図る過程では、「学生を一人にさせない」ことにも注意を払わなければならない。この点、本学部では伝統のゼミナール体制がこれを支えてくれる。現在30以上あるゼミは2年次の春学期からスタートし、自身の興味関心に合ったゼミナールを選択できる。所属率は90%に迫っている。平均20名のゼミ編成で、教員が学生一人ひとりの学修状況や適性を把握し、それぞれの目標達成をサポートすることを可能にしている。また、一般的に3年次から始めるゼミナールに2年次の春から3年間継続して取り組むことで、1年次の初年次教育から「ゼミナール開始までの空白期間」を作らず、大規模学部では珍しく、4年間を通じた少人数教育を実現している。
また専門科目の集大成科目となる「ケース分析科目」※も、ゼミナールと同様に少人数で実施しており、自由な履修の後押しと、選択肢を広げることに寄与すると考えている。
※海外のビジネススクールやMBA(経営学修士)課程が導入している、様々な企業の具体的な事例を元に学生同士が議論を深める授業。
「オープンバッジ」でモチベーションを高める
学位とは別に専門性や実践経験を表すデジタル証明書「オープンバッジ」をあらたに導入する。スキルや学びを具体的に可視化できるものとして、近年、社会的に評価が高まっており、就職活動や生涯学習などで活用されている。本学部では、コースモデルの修了者に加え、1年次からも学修到達度に応じて段階的に発行し、学生の主体的な学びの促進と教育の質向上に寄与する仕組みになっている。就職活動では強力なアピール材料になるとともに、学生のモチベーション向上につなげる。

京都産業大学経営学部 学部長
篠原 健一先生
2007年より京都産業大学経営学部教授に着任し、2023年に経営学部長に就任。研究テーマは、雇用関係論、人材マネジメント論。ゼミナールの活性化、外部機関との連携、遠隔授業の推進等、学部改革を牽引している。
