「人間とはどのような存在なのだろう」「人にしかできないこととは何だろう」と考えた経験はあるだろうか。こうした疑問に向き合う分野が、人間を多角的に捉える「人間学」だ。武蔵野大学通信教育部に設置された大学院人間社会研究科人間学専攻でも、多くの社会人たちが考えを深めている。人間学を学ぶ意義や、武蔵野大学通信教育部で得られた気づきなどを、人間社会研究科長の鈴木健太先生と人間学専攻修了生の鈴木正人さんに伺った。

 

鈴木正人さん(左) 鈴木健太先生(右)

変化の激しい社会だからこそ、人間学が求められている

哲学や心理学、仏教思想、福祉など、さまざまな学問を組み合わせ、総合的に人間を捉える人間学。鈴木健太先生は、変化の激しい現代だからこそ、人間学を学ぶ意義が高まっていると語る。

「今の社会ではひとつの見方ではうまくいかないケースが増えています。また、AIなどの技術が発展し、『人間だからできることや、人間らしさとは何か』が改めて問われる時代になってきました。この問いを深掘りするためには、人間について見つめ直さなければなりません。また、今後も長寿社会になると予想されるので、生死の意味を考える時間も増えていくでしょう。人間を多角的に捉え、考えを深めていくことの重要性がますます高まっています。」(鈴木健太先生)

修了生の鈴木正人さんは、定年後に人間学専攻に入学した。社会福祉関係の仕事をしていた鈴木さんは、定年が近づくにつれ「人間についてわからない部分がたくさんある」と気づいたそうだ。また、仕事の意味を問い直すことや、この先の人生をどう生きるかを考える必要性も感じたという。

「私が生きてきたのは、社会が安定していれば定年まで同じ場所で働き続けられた時代です。しかし先が見えない時代では、『人間とは何か』などの根源的な問いに向き合うことが求められていると思います。ひとつの分野だけに収まらない、学際的な視点で人間を捉えられそうだと期待を抱き、本学に入学しました」(鈴木正人さん)

社会人でも学びやすい。時間と場所の柔軟性

鈴木さんはほかにも入学の決め手として、社会人でも安心して学修できる環境を挙げた。同大学院は通信教育部内に設置されていることもあり、課題に対するレポートの提出やスクーリングによって履修や単位取得が可能だ。各科目は対面とオンラインのハイブリッド形式で開講しており、好きな方法で参加できる。東京都近郊だけでなく、遠方からオンラインで参加する学生も多い。どの科目も平日夜や土日に行われるため、昼間に仕事がある社会人も参加しやすい環境だ。履修科目の学修やレポート・特定課題研究論文については、メール等で教員に質問する機会もある。

「通信教育部ではありますが、一方通行の学修ではありませんでした。授業やスクーリングをきっかけに、院生仲間もできます。孤立してあきらめてしまいそう、という心配はありません。」(鈴木正人さん)

人間学専攻の学生は年齢も職業もさまざま。働き盛りの40~50代もいれば、定年後に入学する人もいる。

「仕事の意味を捉え直したい、キャリアアップに役立てたい、など、学生の皆さんはさまざまな理由で入学されています。とくに福祉職や看護職など、人との関わりが重要な仕事をしている方が多い印象です。」(鈴木健太先生)

人間学を通して得られた「自分なりの気づき」

武蔵野大学は創設当初から仏教を基盤にした教育・研究に力を入れている。人間学専攻でも世界に広まっている仏教思想を扱う授業があり、人間を考える視点のひとつにしてきた。鈴木先生が担当する「インド思想特講」もそのひとつだ。この授業では仏教のみならずさまざまなインド思想にも目を向けていく。そして質疑応答や意見交換の時間を多く設け、学生と問いを探求している。

「仏教思想では『人間には苦しみが伴う』を出発点にして、その苦しみを解消しようと思想を積み上げてきました。そのため実践につなげやすい内容が多いです。学んだことを社会や生活に活かしたい、という方々にも合致している領域だと思います。」(鈴木健太先生)

鈴木正人さんは修士論文の代わりとなる特定課題研究論文で、古代インドの死生観をテーマにした。特定課題研究論文ではあらかじめ3つのテーマ(①人間性の危機に関する考察、②生と死をめぐる諸問題、③ライフサイクルとアイデンティティをめぐる諸問題)が挙げられており、学生の関心に合わせて選択する。テーマをもとに論文で扱う内容を絞り込んでいくうちに、鈴木さんは入学当初はまったく知らなかった古代インド思想に興味を持った。

「科目履修をきっかけに視野が広がり、新たな研究テーマに出会えました。インドでは人生を4つの時期に分けて、それぞれの役割を考えています。日本ではあまり触れてこなかった考え方におもしろさを感じました。土壌が広い人間学だからこそ、意外な発見があったと思います。」(鈴木正人さん)

論文執筆中に鈴木健太先生からいただいた「批判的な思考が大切」というコメントも印象に残っているそうだ。

「文献の内容を鵜呑みにするのではなく、自分なりに考えることの重要性や楽しさを知りました。」(鈴木正人さん)

「過去の研究や論文を読む際、内容が本当に正確なのか、ほかの論文と比較したときなぜ違いがあるのかなどを考えていくことで、自分なりの方法や思考に到達します。この力はこれからの時代を生きていく助けになるでしょう。」(鈴木健太先生)

大学院修了後、鈴木正人さんは研究生として学修を続けながら、非常勤の放課後児童支援員として学童保育所で働いている。人間学専攻での発見は、生き方に大きな影響を与えたそうだ。

「大学院に来て、学びには終わりがないのだと気づきました。先生方がレポートや論文に対して成長につながるコメントをたくさんくださったおかげで、次のステージに進む力がさらに身についたと思います。
また、仕事でも子どもたちへの向き合い方が変わりました。これまでは子どもたちの能力を伸ばすことに注力しがちでしたが、今はどんな人でも認めて大切にしよう、と心がけるようになって。私は大学院で自分の存在意義は他人から贈られるものなのだと気づきました。他者から大切にされた経験は自分自身を大切に思う気持ちや自信に結びつくと思い、実践しています。」(鈴木正人さん)

修了生は学びを続けたり職場で活躍したりと、それぞれの場所で人間学を実践している。

「人間をさまざまな視点から総合的に捉えている人間学だからこそ、悩みや課題に対しても多角的にアプローチする力が身につきます。この視点を用いれば道が開けるかもしれない、といった、自分なりの気づきを得られる学問です。」(鈴木健太先生)

社会の肩書きにとらわれず、素の自分としていられる場

人間学への興味があっても、大学院で学ぶのはハードルが高いと感じている方もいるだろう。しかし鈴木正人さんは「安心して足を踏み入れてほしい」と語った。

「私も学部生時代は、大学院は敷居が高いと思っていました。研究者になりたいわけでもない人が行ってもいいのだろうか、と迷った時期もあります。しかし実際に来てみると、仕事や家庭などでの肩書きにとらわれず、『素の私』や『未熟な私』でいられる場所だとわかりました。年齢や職業が異なる院生たちがそれぞれ問いへの道筋を見つけようと、対等に議論を交わしています。」(鈴木正人さん)

「大学院は普段の職場を離れて、純粋に知的な意見交換ができる第三の居場所。『人間ってなんだろう』と疑問を抱いている方や、人間に関する知識や考える力を身につけたい方、そして向上心のある方は誰でも大歓迎です。教員が伴走して学修を支えます。」(鈴木健太先生)

武蔵野大学大学院 人間社会研究科 人間学専攻

人間社会研究科長 鈴木 健太先生

2007年9月、東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻インド文学・インド哲学・仏教学専門分野博士課程単位取得後退学。2008年5月、東京大学より博士(文学)の学位授与。東京大学大学院COE特任研究員、北海道武蔵女子短期大学副学長などを経て、2023年4月より武蔵野大学通信教育部人間科学部教授。大学院では人間社会研究科長も務める。

人間学専攻修了生 鈴木 正人さん

社会福祉関連の仕事を定年後、武蔵野大学通信教育部の大学院人間社会研究科人間学専攻に入学。現在は同専攻の研究生として、鈴木健太先生のもと学修を続けている。

 

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