尚美学園大学(埼玉県川越市)が、様々な業界人にインタビューした「プロが語る仕事論」の記事をお届けします。「芸術」「社会科学」「スポーツ」というユニークな分野の組み合わせを持ち、これまで多方面に人材を輩出してきた同大学から、各分野のプ口が仕事について語る記事が、学生に向けて発信されました。仕事の多様性と可能性の広がりを体現された方々の話には、未知の未来を持つ学生にとって将来のヒントとなるメッセージが込められていました。そのメッセージは学生に限らず様々な人に意義があると思います。そこで、全6回にわたり本記事を配信します。今回お話しを伺ったのは、自然の造形美を伝えるプロダクトのクリエイティブディレクター、吉村紘一さんです。
【PROFILE】広告会社でマーケティングプランナーやコピーライターとして商品コンセプトの策定や広告制作に従事する傍ら、2006年に「植物の美しいかたち」をテーマとした「Sola cube」を開発し、オンライン販売を開始。2011年に退社し、2012年「自然の造形美を伝える」をコンセプトにウサギノネドコ京都店を開業し、様々なプロダクトを開発・販売。2014年に法人化。その後ニューヨーク、パリ、上海などの展示会に出展し、海外へも販路を拡大。2019年にウサギノネドコ東京店をオープン。
自然の造形美で心に深く刺さる商品をつくりたい。
「自然の造形美を伝える」をテーマにプロダクトを開発・販売しているウサギノネドコのクリエイティブディレクターであり、同時に経営者をしています。タンポポの綿毛など、植物の種子や花を透明なアクリルキューブに封入した「Sola cube(ソラキューブ)」というプロダクトや、色鮮やかな鉱物を食べられるお菓子で再現した「鉱物スイーツ」など、さまざまなアプローチで自然の造形美の魅力を伝えています。自分としては、100人のうち60人にぼんやりと気に入られる商品ではなく、100人のうちたった1人でもいいので、その人の心に深く刺さる商品、サービスをつくりたいと思って日々を過ごしています。ある時、接客したお客様に「世界で一番好きなお店です!」という愛の告白のように伝えてもらったことがあります。忘れられないエピソードです。「この仕事をやっていて、本当に良かった」と思えた体験でした。
自分にしかできないモノをつくりたい気持ちと、
自然の造形美を伝えたい想いが1つになって。
物心がついた頃から美術が好きで、高校では鍛金に、大学ではCGアニメーションに夢中になり、やがてテレビCMをつくりたいと考えるようになり広告会社に入社。最初はマーケティングプランナーとして働き、6年後に念願のクリエイティブ部門に異動できたのですが、広告は自己表現の場ではないことに気づくんですね。それでも「自分にしかできないモノづくりがしたい」という気持ちがあって。そんな時に出会ったのがモミジバフウの木の実でした。街路樹として植えられる木なので、どこにでも落ちている実なのですが、その放射状の造形の魅力に引き込まれて、「自然界には、こんなにも美しいものが当たり前のように存在するんだ」と驚きました。そんな植物の美しい形状を透明なアクリルに封入するアイデアを思いつき、様々な造形美を鑑賞できるアクリルキューブを開発。本業の傍らオンラインで販売し始めたことが、現在の仕事につながりました。

大学は「実験の場」。たくさん失敗をしよう。
単位度外視で、おもしろそうな先生の授業を。
私は、大学は社会に出る前の「実験の場」だと考えていました。多少失敗しても問題ない。だから、おもしろそうなことは全部やったし、たくさん失敗もしました。本気で何かに打ち込むことと、そして失敗もできるだけ多く体験しておくことがおすすめです。大学の授業は、単位にならなくても、少しでも興味がわいた授業は受けたほうが絶対にいいですね。お金と時間を投資するんだから、体験と吸収を貪欲に前のめりにやらないと、もったいないと思います。一見、人生とは無関係に見える学問が将来役に立つこともあります。私の場合は数学を学んだことが非常に役立っています。数学という学問は、問題解決の道筋をつくること。やりたいことや、目指したい目標にたどり着くためにはどうしたらいいかを論理的に考える力は数学を学んで鍛えられました。
オンリーワンの存在になるには、
複数の技能を身につけて掛け合わせるのが鍵。
僕はスポーツや広告会社での仕事を通じて、「世の中には才能あふれる人がいっぱいいるので同じ土俵で戦うべきじゃない」と考えるようになりました。じゃあどうすれば戦えるかと言ったら、複数の能力を掛け合わせて独自性をつくるしかなくて。いろんな技能を身につけて掛け合わせれば、自分にしかできないことができるかもしれない。私が人生を通してやりたいことは「美の探求と創造」ですが、美意識やアイデアを生み出す「アートスキル」だけで戦うのではなく、広告会社で身につけたマーケティングスキルや戦略思考などの「ビジネススキル」を掛け合わせることでオンリーワンな存在になれていると感じます。この世界でがんばりたいというものがあるなら、自分の能力やキャリアの掛け合わせで「自分だけの土俵をどうやったらつくれるだろうか」を深く考えることも大切だと思います。夢や目標を追っかける中で、心が折れることもたくさんあると思います。だけど突破口は絶対あるので、粘り強く探せば、自分の勝ち筋を見つけられます。あきらめずに、やりたいことを貫いてほしいと思います。
【仕事の相棒/アクリルキューブ】アクリルキューブの試作品が完成した時は「これならイケる!」とワクワクしましたね。サイズを同じ4cm角キューブに揃えることで、植物それぞれの個性が際立ちます。形状は様々なので封入するには、個々に工夫が必要です。だから、どのキューブにも思い入れがあります。
