城西国際大学観光学部の「ホテル奨学生制度」は、同学部と千葉県内の宿泊施設が協働して提供する人材育成プログラムだ。「観光ビジネス」「観光まちづくり」「観光メディア」の3領域を柱に実践教育を重ねてきた同学部が、2022年に立ち上げた。この5年間で計42名の学生がホテル奨学生として働き、大きく成長を遂げてきた。学部長の内山達也教授に、制度の全貌と、学生をはじめ大学やホテルにもたらす効果を詳しく伺った。

 

城西国際大学観光学部 内山達也 学部長

実習先ホテルの声から生まれた「1年間」の奨学生制度

 2006年設立の城西国際大学観光学部は、今年で21年目を迎える。観光産業の構造や現状を理解する「観光ビジネス」、地域ならではの魅力を活かして共感できるまちづくりに取り組む「観光まちづくり」、多種多様な情報発信で人の移動を促す「観光メディア」の3つの領域を教育の柱とし、いずれの領域も実践教育を重視している。

 「観光は実学であり、社会の動きと強く連動しています。座学で理論を学ぶだけでなく、現場に出て社会を知ることが大切です」と、学部長の内山達也教授。千葉県鴨川市の安房(あわ)キャンパスを拠点に、周辺の観光業や自治体と連携を図りながら多種多様な現場実習を実施してきたが、その方針は2022年、千葉東金キャンパスに移転して以降も変わらない。観光学部の学生たちは千葉県を学びのフィールドとし、地域や観光の現場に入りながら大学で学んだ理論を実践し、多くの気づきや学びを得ている。

 ホテル奨学生制度は、このような「実践重視」の考えから生まれた。

「キャンパスを移転する前、毎年夏に周辺のホテルで約2週間に渡る『ホテル実習』を実施していました。当時、受け入れ先のホテルにヒアリングを行ったところ、『長期間のプログラムの方が望ましいのでは』といった意見をいただいたのです」

 2週間ではホテル業務の一部しか教えられない。せっかくなら戦力として活躍してほしい。長く来てもらえれば、しっかり育てることができるし、学生本人も現場での学びを応用するだけの時間を持てるだろう――こうした意見を受け止め、長期のプログラムを検討。安房キャンパスから千葉東金キャンパスに移転するタイミングで、夏休みにホテルで仕事体験をする「インターンシッププログラム」と、1年間に渡ってホテルで働く「ホテル奨学生制度」を新たに設けた。

 ホテル奨学生制度は、主にホスピタリティ産業への就職を目指す学生を対象に、千葉県内の宿泊施設と城西国際大学観光学部が協働して提供する人材育成プログラムだ。選考の都合上、年内に城西国際大学観光学部への入学手続きを終えた人が応募でき、奨学生に選ばれた学生は、入学後の1年間にわたって「ホテル日航成田」もしくは「ホテルスプリングス幕張」の客室や社員寮に特別料金で暮らし、有償でホテル業務に従事する。勤務時間は月70時間以上としており、ホテルと大学側で協議しながらシフトを決めている。

「あくまでも授業が最優先ですし、学業に支障をきたさないことが大前提です。そのため、働く時間は主に平日の授業時間外や休日になります」と内山教授。

 つまり、ホテル奨学生制度は「大学1年目の学生」が「ホテルに住み込み」、「有償で働く」という点に最大の特徴がある。ホテルに住み込む費用は大変安価で負担が少ない点にも注目したい。経済面に魅力を感じて遠方から応募する受験生が多いが、なかには、「一人暮らしをしながらホテル業務を経験したい」と、千葉県内の受験生が応募するケースもあるという。
従事先となる、ホテル日航成田<左>とホテルスプリングス幕張<右>

5名の教職員が12名のホテル奨学生を手厚くフォロー

大学に通いながら、決められたシフトで働くホテル奨学生たち。アルバイトのように当日になって休むことは難しく、規則正しい生活が欠かせない。一人暮らしが初めての学生や、そもそも働くこと自体が初めてという学生も多い。

 そこで内山教授が注力しているのが、学生へのサポートだ。

「サポートは入学前に始まります。まず、ホテル奨学生制度に興味・関心のある受験生や保護者を対象に見学会を開き、ホテルを案内しながら制度の概要を説明しています。そして、事前のオリエンテーションで制度への理解をさらに深めてもらい、実施中は定期的に集まる機会を設けて悩みや疑問点を受け止めています」と内山教授。

 城西国際大学には、教員が新入生一人ひとりについて履修や進路などさまざまな悩みに応じる「アドバイザー制度」があるが、観光学部ではホテル奨学生をフォローする教員がアドバイザーを務めている。ホテル側ともこまめに連絡を取り合い、いつどんなときでも気軽に相談できる環境を用意している。

「2022年にホテル奨学生制度を立ち上げてから今年で5年目になりますが、当初は、学生が悩みを一人で抱え込んでしまうことがありました。そこでフォロー体制の改善を重ねていき、現在の体制に至りました」

 1期は3名、2期は8名、3期は10名、4期は9名、5期は12名と、徐々に参加者を増やしていき、これまでに42名の学生がホテル奨学生制度を利用している。今期は、ホテル奨学生担当の教員4名と職員1名が、12名のホテル奨学生一人ひとりを手厚くフォローしている。
ホテル奨学生のスケジュール例

さまざまな部署を経験し、自ら考えて行動する力を育む

 ホテル奨学生は、1年という長期にわたって有償でホテル業務を経験することで、多くのことを学び、自身の成長につなげている。

「短期のインターンシップでは、経験できる業務が限られます。一方、1年間のホテル奨学生制度は数か月単位で客室やレストラン、ロビーなどの各部署を経験し、1年間かけてホテル内の業務を体系的に学ぶことができます」

 加えて、働きながら大学の授業を履修する効果もある。ホテルやサービスに関する授業を受けながら、授業で学んだことを現場で実践するため、理論と実践を繰り返すことで多くの気づきを得る。

 特にホテル日航成田は成田空港に近いこともあり、海外からのお客さまが多く訪れる。

「学生は最初、英語がわからず、失敗を恐れて動くことができません。けれど日々、ホテル業務に携わる中で耳が慣れてきます。やがて、周りのスタッフの仕事を見ながら、どのように返答すればよいか、どのようなおもてなしをすればお客さまが喜んでくれるかがわかり、自ら対応するようになります」
ホテル日航成田で働く学生

 では、1年間に渡ってホテルでの業務を経験した後、ホテル奨学生たちはどのような学生生活を送り、卒業後、どのような進路を選んでいるのだろうか。

「共通して見られるのは、社会に出ることへの意識が高まり、責任感や自立して生活する力が一気に伸びていること。そして、ほかの学生より早く卒業後の進路を考え始める傾向も見られます」と、内山教授。

 ホテル奨学生ではないものの、実習先のホテルへの就職を希望し、内定を獲得した学生もいる。また、当初はエアライン業界を志望していたが、ホテル奨学生として働くなかで「ホテルでも自分がしたい『お客さまへのおもてなし』ができる」と気づき、志望業界を変更してホテルに就職した学生もいる。

 一方、観光業界以外の就職先を選んだ学生もいる。

「憧れだけではホテルでは働けないことに気づき、自問自答を重ねながらやりたいことを見つける学生もいます。現場を経験したからこそ、『本当にやりたいこと』にたどり着き、長く生き生きと働ける場所を選んでいるのです」と、内山教授。

学生・大学・ホテルの三者にメリットをもたらす

 ホテル奨学生制度は、学生だけでなく大学や提携先のホテルにもメリットをもたらす。

「先に述べた通り、ホテル奨学生はホテルでの業務を通じて意識が大きく変化します。自ずと授業への参加態度が積極的になり、周囲の学生も刺激を受けて意欲的に学ぶようになります」

「ホテル奨学生があったから城西国際大学の観光学部に進学した」と話す参加者も多く、内山教授は「受験生にとって、ホテル奨学生制度自体が城西国際大学観光学部に進学する目的になっています」と語る。ホテル奨学生制度をフックに、「観光の理論と実践を学びながら成長できる」という城西国際大学観光学部の特徴を受験生にアピールできる点を、内山教授は高く評価している。

 提携先のホテルにとって、ホテル奨学生の受け入れは「継続的に人材を確保できる」というメリットをもたらす。さらに、「観光業界の次世代を担う人材が育ち、業界全体にメリットをもたらす効果もあると感じているのでは」と、内山教授は分析する。

 では、今後、ホテル奨学生制度をどのように発展させていきたいのか。この点について、内山教授は以下のように語ってくれた。

「観光学部の定員は100名。その2割にあたる20名の受け入れを目指したい。20名の学生がこの制度を経験すれば、学部生により多くの『良い影響』をもたらすでしょう」
観光学部がある城西国際大学 千葉東金キャンパス

 今年、観光学部では1期生の卒業に合わせて『ホテル奨学生同窓会』を立ち上げた。今後は、卒業生が中心となって、ホテル奨学生やホテルへの就職をめざす後輩たちを支援する活動に広がっていくことを期待している。

 観光は、社会の変化とともに大きく姿を変えてきた。内山教授は、人口減少が進むこれからの社会で、観光の役割がさらに大きくなると考えている。

「地域の方々に話を聞くと、子どもも大人も目を輝かせて地域の魅力を語ってくれます。観光学という学問は、地域の経済を活性化するだけでなく、未来そのものを築いていく学びであることに気づかされます」

 その考えは、同学部が掲げているスローガン「観光を学ぶだけではなく、観光をつくる。」に如実に表れている。

 人と人、人と地域をつなぐハブとなり、地域社会そのものの発展に寄与する――大学進学後の早期に業務を経験するホテル奨学生制度は、「ホテルで働く」ことについて深く考えるだけでなく、就業観を育む最高の機会になることだろう。内山教授はこれからもホテル奨学生制度の内容拡充に注力していき、ホテル奨学生たちに「理論と実践を往復しながら深く考え、これからの社会を築いていける人材に育ってほしい」と強く願っている。

城西国際大学観光学部観光学科教授・学部長

内山 達也(うちやま・たつや)

城西国際大学大学院人文科学研究科比較文化専攻修了。専門分野は観光まちづくり、文化人類学、フィールド調査、地域資源活用。ゼミでは観光まちづくりの視点から、地域活性化に取り組む。著書に『地域発展の観光戦略』(創成社、2019年/共著)がある。

 

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