東京大学のサイモン・シュニーダー特任助教、京都大学、英国ウォーリック大学の研究者らの国際研究チームは、感染症の流行におけるソーシャルディスタンスの役割を、数学的手法を用いて明らかにした。

 感染症の流行時には、初期の研究では人々は感染リスクに関係なく同じ行動をとると仮定していたが、実際には、直面するリスクに基づいて自らの行動を選択する。多くの人が同じ状況下で自身の「効用」(目的関数)を最大化しようとすると、「ナッシュ均衡」という、他の人の戦略が変わらない限り、誰も自らの戦略を変えるだけでは利益を得られない状況が生じる。

 これまで、感染症流行でのナッシュ均衡、すなわち、感染による健康リスクを減らすために自発的にソーシャルディスタンスを取るようになる現象の解析的理解は極めて限られていた。

 研究グループは今回、感染症流行の過程における人々の行動変化と感染拡大への影響を理論的にモデル化し、人々がとるべき最適なソーシャルディスタンスに対する厳密解を解析的に導き出した。この結果、感染症流行の進行過程に関する深く直感的な洞察を得ることに成功した。例えば、「人々が取るソーシャルディスタンスの強度は、その時々の感染者数に比例するべきである」という分かりやすいルールを導出した。

 これにより、感染力や感染によるコストを考慮することで、人々が最小限のソーシャルディスタンスしか取らないのか(感染コストが低い場合)、大幅なソーシャルディスタンスを取るのか(感染コストが高い場合)が予測できる。政策立案者が活用すれば、人々が合理的に判断できる明快で効果的な方針の立案が可能になるとしている。

論文情報:【Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America】Understanding Nash epidemics

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