北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターの大森亮介准教授らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症における重症者及び死亡者が高齢者に偏る現象について、感染症流行の数理モデルを用いて検証。その結果、感染のしやすさ(感染に対する感受性)は年齢によらないことがわかった。
新型コロナウイルス感染症において、重症例及び死亡例は高齢者に多いことが全世界で共通して報告されている。原因としては、「高齢者が感染しやすいため、重症及び死亡が高齢者に偏る」、もしくは「感染のしやすさは年齢によらないが、感染成立後の重症化のしやすさが高齢者ほど高い」という2つの理由が考えられる。そこで、研究グループは、これらの説明のうちどちらがもっともらしいか検証した。
研究グループは、流行規模に依存しない死亡の年齢分布が観察されるには、どのような重症化及び死亡の年齢依存性が必要かを探るため、年齢別の新型コロナウイルスの流行の数理モデルを構築。この数理モデルでは、年齢による人との接触のしやすさの違い、新型コロナウイルス流行による家庭外での行動制限も考慮した。また、2020年5月時点で流行規模が大きく異なったイタリア、スペイン、日本の三カ国で比較しても死亡の年齢分布はほぼ変わらないという現象に注目し、この数理モデルをこの三カ国の死亡の年齢分布のデータにあてはめ、年齢別の感染のしやすさを推定。その推定値から新型コロナウイルスの重症化及び死亡のメカニズムの可能性について議論した。
その結果、「死亡率は年齢によらないが、感染のしやすさが高齢者ほど高い」という仮定では、重症化及び死亡の発生が高齢者に偏るという現象を起こし得る事を確認したものの、この条件では、死亡の年齢分布は流行規模に大きく左右され、イタリア、スペイン、日本で観察された流行規模に依存しない死亡の年齢分布と合致しなかった。
一方で、「感染のしやすさは年齢によらないが、死亡率は高齢者ほど高い」という仮定では、死亡の年齢分布は流行規模にほぼ影響を受けない結果となり、観察データと合致した。
また、「死亡率が年齢によらず一定」もしくは「症状が出る率が年齢によらず一定」という2つの仮定のもとで、3カ国の死亡の年齢分布のデータにあてはめ、感染の年齢別の感染のしやすさの推定を試みた。すると、どちらの仮定においても非現実的に大きく異なる推定値になり妥当でない事が示唆された。
これらの結果から、死亡率や症状が出る率といった病状の進行の進みやすさが年齢によって異なる事が、新型コロナウイルス感染症の重症及び死亡は高齢者に偏る傾向の原因であると考えられることがわかった。
今回の研究により、「感染のしやすさ」が年齢に依存しないことの示唆は重症化及び死亡のメカニズム解明に貢献したと考えられる。今後の病状進行の年齢依存性のメカニズムの解明により、治療法開発の発展が期待される。