龍谷大学生物多様性科学研究センターの鄭琬萱博士・三木健教授らの国際共同研究グループは、台湾・翡翠ダムの9年間におよぶ長期観測により、水域微生物群集の多様性が一貫して「生態系多機能性(EMF)」を高めることを明らかにした。
これまでの研究で、生物種が失われると生態系機能にも影響を及ぼすことが指摘されており、生物多様性は生態系を支える重要な役割を担っていると考えられている。しかし、自然界では異常気象や季節変化、さらには気候変動などさまざまな時間スケールで環境が変化している。こうした環境変動の中で、生物多様性はいかにして生態系を健全に保つのか。
これを明らかにするため、研究グループは、台湾北部に位置する翡翠ダムで2014年から2023年までに隔週で観測された長期かつ高頻度のデータセットを解析した。生態系の健全性やレジリエンスの評価には「生態系多機能性(ecosystem multifunctionality、EMF)」の概念を用い、環境要因およびダム湖の微生物群集の多様性との関係を構造方程式モデリングにより明らかにした。
その結果、降水量・水温・リン(リン酸塩)などの環境要因は特定の時間スケールでのみEMFに作用していた一方で、生物多様性はあらゆる時間スケールで一貫してEMFを高めることが示された。さらに、生物多様性は複数の環境要因の影響を仲介する“調整役”として機能し、EMFを安定的に支えていることもわかった。たとえば、長期的な水質改善によって湖のリン濃度が低下すると、栄養の過剰供給が抑えられる。すると、生物多様性が高まり、水質改善の効果がさらに強まることで、EMFが一層促進される。このように、生物多様性は環境変動の中でもEMFを維持する要となることが確認された。
本研究の知見は、生物多様性の保全が生態系の持続性を守る鍵であることを強く示唆するものである。また、環境変動に対する生態系の応答を理解する上で、翡翠ダムのような長期モニタリングの重要性を改めて示した。
