科学とともに進歩してきた食品添加物

 50万年前の原人は肉を煙でいぶすと日持ちすることを発見していた。肉が日持ちするのは煙の中の酢酸やプロピオン酸、フェノール類のはたらきによるものだ。化学の進歩につれて、このような有効成分が明らかになり、その成分の分離や合成が可能になると、食品添加物として、食品加工に利用されるようになった。

 食品衛生法では、「食品の製造過程で、または食品の加工や保存の目的で食品に添加、混和などの方法によって使用するもの」と食品添加物が定義されている。その種類は非常に多く、由来や使用法により指定添加物、既存添加物、天然香料、一般食品添加物に分類されている(表1)。

 「天然添加物なら安全」と考える人もいるかもしれないが、いまは添加物に天然と合成の区別はない。

 1995年に食品衛生法が改定されるまでは、クチナシ色素など天然物由来の食品添加物は厳しい規制がなかったが、これらの添加物は長く使われてきたものの安全性が確認されていなかっただけである。そこでいったん既存添加物として分類し、安全性を見直している。発がん性が見つかりアカネ色素が削除されるなど、これまでに100品目以上の既存添加物がリストから削除された。

 安全性とその有効性を科学的に評価して、厚生労働大臣が認めたものだけが食品添加物として使用できるように決められている。これまで大きな食品事故が起こるたびに、食品添加物の安全性に対する取り組みも変化してきた。

 2003年には国民の健康の保護を目的とした食品安全基本法が制定され、リスク分析により食品添加物の安全性を判断するようになった。リスク分析は、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションからなり、ヒトに悪影響が出ない量を科学的に判断し、管理する体制をとっている(図1)。

 使用基準は、それぞれ食品添加物について行った動物実験の結果から求めた1日許容摂取量を超えないように定められている。科学技術の進歩にともない、すでに指定されている食品添加物でも現時点の科学水準に合わせて再評価されている。食品添加物を製造しているメーカーももちろん独自に安全性の確保に取り組んでいる。

 
どんな食品にもリスクがあるという前提で、リスクを 科学的に評価し、適切な管理をすべきとの考え方(リスク分析)にもとづく。
 

砂糖の代用品からダイエット甘味料へ

 甘味料は、糖質由来甘味料と非糖質由来甘味料に分類され(表2)、非糖質系のものは、代謝されにくいのでダイエット食品によく使われている。

 甘味料が頻繁に使われるようになったのは第二次世界大戦中や戦後の砂糖不足を補うためだった。その頃よく使われた、ズルチンやチクロ(サイクロ酸ナトリウム)、サッカリンは、のちに発がん性がみつかったため、食品添加物から削除された。甘味料に悪いイメージがあるのはそのせいだろう。

 ただ、その後、サッカリンの発がん性は、サッカリンを合成するときにできる不純物によることがわかり、再び使われている。また、チクロは安全性の評価が分かれ、米国やカナダ、日本で使用が禁止されたが、EUや中国など50か国以上で使われている。

 砂糖は理想的な甘さの甘味料であるが、糖尿病の人には不適当で、虫歯や肥満の原因にもなる。そのため、現在では砂糖の代用品というよりは、ダイエット食品や糖尿病患者の甘味料として使われることが多い。それぞれ甘さに特徴があり、また量が多いと苦みを感じたり、加熱に対する安定性が異なったりするなどの性質がある。そこで、用途に応じて使い分けられている。

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大学ジャーナルオンライン編集部

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