伝統の「実学教育」を時代の要請に合わせ改革し続けてきた帝塚山大学(「塚」は点のある旧字体)。近年、その軸となるのが、全学で地域等との連携により展開する「プロジェクト型学習」。さらに2023年には全学対象のデータサイエンス教育を開始し、AI活用教育にも取り組む。奥村学長に、今春から始まったリブランディング戦略もあわせ、教育改革への意気込みを聞いた。

新しいキャッチフレーズ「ことこと学び、わくわく挑め。」を紹介します
開学から60年余りがたち、今までの歩みをふまえこれからの本学のあり方を今一度見つめ直そうと、全教職員でリブランディングに取り組み、新たにキャッチフレーズが完成しました。
《ことこと》の《こと》が、本学がこれまでお世話になってきた《古都、奈良》に因んだものであることはすぐにおわかりになると思いますが、他にも教職員の強い思いがいくつもこめられています。
例えば、《こと》は2つ並べて《ことこと》とすることで、その音の柔らかさが、本学の学生のペースに応じた学び方を支える温かみや、学生たちの学問への粘り強い向き合い方を象徴します。また、《こと》を「事に当たる」に掛け、プロジェクト型学習のアピールにつなげ、「実学の帝塚山大学」というスローガンと共振させたいという思いも表しています。獲得した専門知識を「プロジェクト型学習」(ことを学ぶ)に活用することで、社会に通用する活きた力を身につけることができます。そして、その学びの楽しさは、さらに次の実践への《わくわく》とした挑戦意欲をかきたてていくと読むこともできるでしょう。
新しいキャッチフレーズ「ことこと学び、わくわく挑め。」のキービジュアルも完成した。今後、学内外で展開していく。
「プロジェクト型学習」がさらに充実
近年、力を入れてきたプロジェクト型学習は、2024年の開学60周年を機に加速度的に充実しました。その数は、昨年度には90を数え、おそらく今年度には100に近づくのではないかと予想しています 。
その多くは自治体や企業、あるいは他大学と連携したものですが、プロジェクト型学習の展開は描きにくいと言われる文学部でも、古都奈良らしくお寺を舞台にした課題に取り組んでいます。多様な他者と協働しながら正解のない課題に挑む経験は、学生たちに企画力やコミュニケーション力、さらには確かな自信を与えてくれています。また年に二度、多摩大学、大阪電気通信大学との合同発表祭も開催され、参加学生の実践力は大いに高まっています。
「データサイエンス(DS)・AI教育」で実践との相乗効果を
本学では、DX時代の社会を生き抜くデータサイエンスの基礎的リテラシーを全学生に習熟してもらうために、文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」の認定を受けて作成した、全学部共通の「データサイエンス・リテラシープログラム」を用意しています。さらに経済経営学部では、専門性を深めることに対応すべくアップグレードした「DSBコース(Data Science Basic course for Business)」を設置、また他学部でもそれぞれの専門分野に応じたデータサイエンス教育に取り組んでおり、学びの重層化をはかっています。
加えて、学生のキャリア形成や学びの質のさらなる向上に資するよう、「AIを活用した教育」も全学部で展開します。

AI活用能力を高めることは、これからの社会では基礎的リテラシーとされるだけでなく、例えば、地域課題解決を目的としたプロジェクト型学習、フィールドワークなどで「強力な武器」になります。調査・準備段階でAIを駆使し、これまで以上に課題をあぶりだすことができれば、地域との対話も飛躍的に深まるからです。また、より多様な実践の場で、その活用能力を一層高めることができるという相乗効果も期待できます。
「育てのシャワー」でレジリエンスを育む
本学が重視する現場での実践では、学生たちは時に壁にぶつかったり失敗したりする経験を味わいます。もちろん社会に出てからも、思い通りにいかないことが彼らには多々待ち受けていることでしょう。重要なのは、そこで折れてしまうのではなく、失敗から学び、しなやかに立ち直り適応していく力を身につけることです。私が専門とする心理学では、これを「レジリエンス(精神的回復力)」と呼んでいますが、AI時代に向けて、これまで以上に求められる力であることは間違いないと思います。
本学では長年、「アドバイザー制度」をおいています。専任教員が各学生の担当となり、職員と一緒に学生の日々の悩みから進路にかかわることまで、いわば「育てのシャワー」のように一人ひとりに寄り添い丁寧に伴走します。このような教職員の姿勢があるからこそ、学生は大学を温かく安心できる「安全基地」だと信頼し、失敗を恐れずに新しい課題に挑戦していけるのだと確信しています。卒業時アンケートでの95・7%という極めて高い満足度が生まれる背景にも、このことが大いにかかわっているのではないでしょうか。
AI時代に問われる倫理観と、品格を育む人間教育のDNA
デジタル技術やAIがどれほど進化しても、最後に判断し行動するのは「人」です。DSやAIについての知識・活用スキルを身につけた上で、これらをいかに正しく、倫理観を持って使っていくのか。AI時代へ向けて、物事の善悪を判断する力や他者を思いやる心、人としての倫理観を身につけることがこれまで以上に求められている中、あらためて大学教育とは「人間教育」でもあるということに、大人たちの多くが気付き始めているのではないでしょうか。
帝塚山大学は教養学部だけの女子単科大学としてスタートしました(1987年に共学化)。以来、「品格」を「実学」とともに大切にしてきたのは、この人間教育への熱い思いが、教職員の間で脈々と受け継がれてきたからです。
大阪や京都から30〜40分という近距離に位置する本学ですが、キャンパスは大都市の喧騒を他所に、古都奈良の穏やかな空気に包まれています。おとなしい中にも「品格」を備え、挑戦意欲に満ちた学生たちが、恵まれた環境と実践の場で、力強くそしてしなやかに成長していく姿を、これからも全力で支え続けていきたいと考えています。

帝塚山大学
奥村 由美子学長
1966年生まれ。
関西学院大学文学部教育学科卒業。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程病態制御医学専攻修了、博士(医学)。
2012年帝塚山大学着任。以降、心理学部教授、心理学部長、副学長(学生生活・国際交流・キャリア担当)を経て、2023年4月より現職。
専門は老年心理学、臨床心理学。
