新課程入試の2年目に当たる2026年度入試もほぼ終盤となっています。昨年が高校の学習指導要領改訂後の入試、いわゆる新課程入試の初年度でしたので、これから徐々に出題傾向なども安定していく時期です。そうした新課程入試の初期段階なのですが、もうすでに次の新課程入試につながる学習指導要領改訂の議論が始まっています。

 

検討状況の情報がオープンに

 次期学習指導要領の改訂については、すでに昨年から検討が始まっています。まだ新課程入試が始まったばかりの時期ですので、大学も高校も当分先のことだと考えていると思います。新課程入試での大学の入試科目は入試年度の2年前に公表することになっていますが(いわゆる2年前ルール)、毎回のように大学の入試担当者が間際になって慌てて情報を集める姿が見られます。大学入試で課す科目は設定を誤ると、志願者数の増減に直接影響しますので、高校の教育課程はかなり重要な事項なのですが、教育学分野の研究者以外のほとんどの大学人は入試の時を除いて、高校以下の教育課程にあまり関心がないように見えます。

 ところで、今回の次期学習指導要領の改訂に関する情報はすでにかなりの量が発信されています。文部科学省のサイトでは、議事録や配布資料がまめに更新されて公開されています。検討状況がとてもオープンになっている印象を受けますし、非常に有難い状況だと思います。サイトでは各教科等のワーキンググループ別に資料が掲載されていますので、各教科の改訂の方向性を知ることができます。全教科をチェックするのは大変ですので、部会の中の教育課程企画特別部会や総則・評価特別部会のサイトを見ると、各ワーキンググループの検討状況のまとめを見ることができますのでとても参考になります。

【文部科学省】教育課程部会
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/index.html

大学入試では毎回、数学の範囲が話題に

 大学の入試担当者は、自大学で主要となる教科の資料だけでも見ておくと、しかるべき時期に慌てることはないと思います。この新課程入試の科目に関しては、毎回のことながら数学の範囲をどこまで課すのかが話題となります。普通に考えれば、自大学で出題したい範囲で決めれば良いのですが、併願者が多い他の大学よりも、出題範囲が広くなるとそれだけで志願者数が減少してしまうので、担当者としては悩みどころではあります。そうかといって範囲を狭くし過ぎると、自大学の作問者が作問に困ることになります。

 そこで、算数・数学ワーキンググループのサイトで検討状況を見てみると、高校数学は大きな変更がありそうなことが分かります。2月19日の総則・評価特別部会(第6回)配付資料に、各ワーキンググループの検討状況のまとめがあります。それを見ると、数学Ⅰに「高校卒業時に身に付けるべき数学的素養の基礎を学ぶ内容を新設」するとあります。また、「現行の数学A、数学B、数学Cを(中略)新科目として整理」するともあります。そのイメージ図も掲載されていますので、それを現行課程とさらにその1つ前の課程と並べて図にしてみました<図>

 こうして図示してみるとよくわかるのですが、次期指導要領案で「数学ガイダンス(仮)」、「社会を読み解く数学(仮)」が新設される方向で検討が進められています。数学Ⅰですので、大学は当然出題科目にすると思いますが、出題範囲として、新設された単元を指定するかどうかは、まだ学習内容が分からないので悩むこところだと思います。また、現行の数学A、数学B、数学Cの区分けがなくなりますので、まだ仮称も付いていない新科目をどう扱うかは、これまた悩むところだと思います。さらに、図を見ると現行課程にはあって次期指導要領案にはない単元もあります。現行の数学A「図形の性質」、「数学と人間の活動」、数学C「数学的な表現の工夫」がそれに該当します。現行課程の入試では「図形の性質」を出題範囲としている大学はかなり多くあり、また、「数学と人間の活動」を出題範囲としている大学も理系で多く見られます。こうした大学は出題をどうするかを考えなくてはならないでしょう。

【文部科学省】総則・評価特別部会(第6回) 配付資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/101/siryo/mext_00045.html

数学ABCの区分けをなくした科目とは?

 数学Ⅰの変更案もさることながら、数学ABCの区分けがなくなることはかなり大きな変更です。その理由として、公開された資料では「生徒が必要な学習内容を選択履修しやすく各学校が柔軟にカリキュラムを編成・実施」できるようにするためとしています。なかなか大胆な案だと思いますが、この新科目の中のどの単元を出題範囲にするかを各大学は決めなくてはなりません。理系学部は全単元が出題範囲になると思われますが、文系学部の場合、現行課程を読み替えるとすれば、「数列」、「行列」、「統計的な推測」、「場合の数と確率」を出題範囲として指定することになるのでしょうか。

 さらに気になるのは、大学入学共通テストでの出題の仕方です。現行では、数学Aは「図形の性質」と「場合の数と確率」から出題されています。また、数学B、Cは「数列」、「統計的な推測」、「ベクトル」、「平面上の曲線と複素数平面」の4項目に対応した問題が4問出題されて、その中から3問を選択回答することになっています。これと同じ対応になると想定すると、この新科目は各単元に対応した問題が6問出題されることになり、その中から5問を選択回答することになるのでしょうか。数学Ⅰも単元が増えていますので、その結果として問題のボリュームが増えた場合、果たして試験時間が今の数学①70分+数学②70分のままで十分なのか心配になります。ただ、前述の「社会を読み解く数学(仮)」は新科目の中のいくつかの単元から、基礎的な素養を抽出すると記されていますので、重なる部分があることを考えれば、問題の全体ボリュームは調整できるものと思われます。

 なお、数学Ⅰは単元が増えていますので、普通に考えれば単位数が増えると思います。そうなると高校が教育課程を編成する時、他の教科との授業時間数の調整が必要になります。今回、数学Ⅰに新設される内容は、「高校卒業時に身に付けるべき数学的素養の基礎を学ぶ内容」ですので、高校によっては十分な授業時間を取りたいのではないでしょうか。ただ、授業時間の総枠は決まっていますので、現在でも高校の教育課程はかなり柔軟に編成ができるようになっているとは言いますが、数学だけに多くの時間を割くことも難しいと思います。

 学習指導要領の改訂は大学、高校のどちらにとっても、解決すべき多くの課題が発生します。予定では次の新課程入試まで残りあと10年を切っています。まだ先のこととは言え、改訂の情報が得られる機会が十分に提供されている今、準備を進めておくことが得策だと思います。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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