2025年、追手門学院大学(大阪府茨木市)に初の理系学部となる理工学部が誕生した。文系総合大学として歩んできた同大学にとって、大きな挑戦となる学部新設だ。理工学部は、数理・データサイエンス学科、機械工学科、電気電子工学科、情報工学科の4学科を擁し、専門教育を土台としながら学科横断型PBL(課題解決型学習)を展開。専門性と協働力を兼ね備えた理工系人材の育成に取り組んでいる。
AIやデジタル技術の進展によって社会が大きく変化するなか、理工系人材に求められる役割も変化している。追手門学院大学理工学部は、どのような教育を通じて次代を担う人材を育てようとしているのか。その教育設計と狙いについて、学部長の佐藤宏介教授と駒谷昇一教授に話を聞いた。
左:佐藤宏介教授、右:駒谷昇一教授
専門性を土台とする理工系教育 — あえて王道の4学科を選んだ理由
追手門学院大学理工学部の特徴を語るうえでまず注目したいのが、学科構成である。近年はAIやロボティクスなどを冠した学科が増えているが、追手門学院大学理工学部は、数理・データサイエンス学科、機械工学科、電気電子工学科、情報工学科というオーソドックスな名称を採用した。背景にあるのは、流行する技術の習得よりも、まずは学問の基礎となる専門性を身につけてほしいという考えだ。
「理工系の学問は長い歴史の中で積み上げられてきた学問です。まずは基礎をしっかり学び、自分の専門分野を持ってほしい。その上で他分野と連携できる人材になってほしいと考えています」
そう語る佐藤学部長は、理工学部の教育を「専門性と分野横断性の両立」と表現する。1年次は学科混在の授業で基礎的な知識・技能を中心に学び、2年次から専門分野を深める。そして3年次以降は学科横断型のPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)や研究活動へと進む。専門教育を軸に据えながら、多様な分野とつながる力を育てるカリキュラムが構築されている。
こうした教育を支えているのが少人数教育である。教員と学生の距離が近く、一人ひとりの理解度や興味関心に応じた指導を行いやすい環境が整っている。
このことは専門知識の習得だけでなく、自ら考え、主体的に学ぶ姿勢を育むことにもつながっている。

4学科横断PBLで育む、協働力と主体性
理工学部の教育の核となるのが、4学科横断型PBLである。社会に出れば、一つの専門分野だけで課題を解決できる場面は少ない。製品開発ひとつをとっても、データサイエンス、機械、電気電子、情報など、異なる専門家がチームを組みながらプロジェクトを進める。そうした実社会に近い環境を大学教育のなかで再現しようと考えた。
「学科ごとのPBLは珍しくありませんが、4学科の学生が専門を越えて協働する点は理工学部の大きな特色です。異なる専門性を持つ学生どうしが協働することで、視野が広がり、自分の専門分野とは異なる視点で比較検討できるようになります」と駒谷教授は説明する。
4学科横断型PBLで扱うテーマは企業や自治体から提供される課題だけではない。学生自身が課題を発見し、企画を立案するケースもある。地域課題の解決や新たな製品・サービスの提案など、実社会と接点を持つテーマに取り組みながら、課題設定から解決策の提案までを主体的に進めていく。
必要に応じて企業経営者や自治体関係者へのヒアリングを行うこともあり、そこで養われるのは専門知識だけではない。コミュニケーション力や調整力、チームで成果を生み出す力など、社会で求められる実践的な能力である。教育理念である「社会有為」の考え方にも通じるこの取り組みは、理工学部が目指す人材育成の象徴といえる。
対話と協働を支える学習環境
理工学部生が利用する教室・研究施設には、教育方針を反映した学習環境が整備されている。その一つが、グループワークを前提として設計されたアクティブラーニング向けの教室だ。教室には可動式の大型ディスプレイが数多く配置され、各グループが議論や情報共有を行いながら学習を進められるようになっている。

この環境整備を主導した駒谷教授は、「PBLやアクティブラーニングを本格的に行うには、教室そのものも変える必要がある」と考えたという。従来の教室は教員が前に立ち、学生が一方向に授業を受けることを前提として設計されている。一方で、理工学部が重視するのは学生どうしが対話し、考えを共有しながら学ぶプロセスだ。
大型ディスプレイは単なる映像機器ではない。各装置にコンピュータが内蔵され、グループごとの議論を可視化し、情報を共有しながら課題解決を進めるためのコミュニケーションツールとして活用されている。
こうした環境づくりは、ICT教室だけにとどまらない。学生は1年次に茨木総持寺キャンパスで理工系の基礎を学び、2年次以降は理工学部専用棟を備えた茨木安威キャンパスへと学びの場を移す。専用棟には電子顕微鏡や3Dプリンター、各種設計ソフトウェアなど、専門教育を支える設備が導入されており、講義で学んだ知識を実際のものづくりや研究活動につなげられる環境が用意されている。
また、実験施設や研究スペースには、学生が日常的に研究活動に触れられるような工夫も施されている。教育手法の変化に合わせて学習空間そのものを設計する。さらに、専門教育を支える研究環境を充実させる。追手門学院大学理工学部では、学生の学びと成長を支える環境づくりにも力を注いでいる。
専門性と協働力で、産業界をリードする人材へ
追手門学院大学理工学部が目指しているのは、専門知識を持つ技術者の育成にとどまらない。専門分野を深く学びながら、多様な人と協働し、社会課題の解決に挑戦できる人材の育成である。AIの進展によって技術や知識へのアクセスは容易になった。一方で、異なる専門性を持つ人々と協働し、新たな価値を創造する力の重要性はますます高まっている。
「専門性を持ちながら、他分野と協働できる人材を育てたい。それがこれからの社会で必要とされる理工系人材だと考えています」
その先に見据えるのは、産業界や地域社会をリードする存在として活躍する卒業生の姿だ。専門性と分野横断性を両立させる教育を通じて、追手門学院大学理工学部は新たな理工系教育のモデルづくりに挑戦している。

追手門学院大学 理工学部 学部長
情報工学科 教授
佐藤宏介 教授
専門分野/複合現実感、三次元画像計測、ヒューマンインタフェース、情報考古学

追手門学院大学 理工学部 情報工学科 教授
駒谷昇一 教授
専門分野/情報教育、プログラミング教育、ソフトウェア工学、情報システム工学
