2027年4月、青山学院大学に統計データサイエンス学環(開設予定)が誕生する。生成AIの活用が飛躍的に進んだ今だからこそ、統計学を核にしたデータサイエンスが社会に必要だという考えに基づいて、データを読み解くために欠かせない考え方の基礎を統計学から学ぶ。データサイエンスで問題を解決するための実践的な力を身につけられる、学部に相当する「学環」という新たな組織だ。開設にあたり、新学環で教鞭を執る保科架風准教授(以下、保科)と、同准教授の後輩で、長年にわたり親交のある株式会社帝国データバンク/本社AI・DX推進委員会 課長補佐の大里隆也氏(以下、大里)を招き、新学環やデータサイエンスについて、語り合っていただいた。
(左)帝国データバンク 本社AI・DX推進委員会 課長補佐 大里隆也氏/(右)青山学院大学 統計データサイエンス学環(2027年4月就任予定) 保科架風准教授
保科:本日は、青山学院大学の新学環開設にあたり、AI(人工知能)・DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一線で活躍されている大里さんに、是非、データサイエンス人材や、新学環に対するご意見や期待などを率直にお聞かせいただければと思ってお越しいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
大里:こちらこそ、よろしくお願いいたします。
統計学をデータサイエンスの礎に
保科:来年新設される、統計データサイエンス学環の「学環」という仕組みは、大学によっても内容が異なりますが、本学では、既存5学部(教育人間科学部、経済学部、法学部、経営学部、理工学部)がそれぞれ有している知見を提供し、それらを集約して体系化し、ひとつの組織としてまとめるというかたちをとりますので、この学環で学ぶ学生にとっては歴史ある学部の様々な知見を効率的に吸収できるというメリットがあります。
新設する「統計データサイエンス学環」は、既存5学部(教育人間科学部、経済学部、法学部、経営学部、理工学部)がそれぞれ有している知見を集約して体系化
大里:データサイエンスという領域は、学ばなければいけないことが多いので、効率的に学習できる環境は重要ですね。新しい学環には、「統計」という名前が入っていますが、これはどのような意味があるのでしょうか。
保科:海外の大学において、「統計」はデータサイエンスの礎として広く認知されている学問です。日本では2025年11月時点で「統計」を冠する学部(学環)がまだありませんでした。名前の通り、軸足を統計学に置き、4年間でデータサイエンスのスキルを「基礎から応用、そして実践へ」磨き上げていきます。
大里:私も数学を専攻し、大学院の修士課程では統計学の研究室で、データをもとに不確実な事象を推定・予測するベイズモデリングを研究していました。高校まで野球を続けていたこともあり、日本プロ野球(NPB)を研究対象に選びました。NPBのデータを用いて、打率や打点だけでは見えにくい「各選手がどれだけチームの勝利に貢献したか」を定量的に評価するセイバーメトリクス(※)の考えに基づき、新たな選手評価指標の算出に取り組みました。
その経験を通じて、現実の社会から得られたデータを分析し、そこから新たな価値を見出いだすことに自分の関心があると実感しました。そこで、企業データを保有する帝国データバンクへの就職を決めました。現在は、企業の倒産を予測する統計モデルの開発に加え、帝国データバンクが保有する企業データを効果的に分析できるサービス『HELFECLOUD』に搭載するデータの開発にも携わっています。
(※)野球においてデータを統計学見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法
帝国データバンク 大里氏:大学院時代、実際の日本プロ野球(NPB)のデータを用いて、新たな選手評価指標(貢献度指標)の算出に取り組んだ
問題解決の最終形をイメージしてデータを導き出す力を養う
保科:新設する「統計データサイエンス学環」が育成したいのは、単に高度な分析スキルを持つデータサイエンティストではなく、統計学やデータサイエンスの知識・技術を学び、それを実際の課題解決の場で使いながら、自分にできることと足りないことを認識し、さらに学び続けることのできるデータサイエンス人材です。
そのような学びを支えるため、統計データサイエンス研究教育センターの新設も計画しています。企業や自治体、地域社会などと連携し、学生が学んだ知識を社会の中で試し、さらに成長していく教育・研究の場を広げていきたいと考えています。
また、データサイエンスは、社会や組織、人々が抱える課題を発見し、より良い意思決定や行動につなげる力です。そうした力を社会のため、目の前の誰かのために生かしていくことは、本学が掲げるサーバントリーダーシップ(※)の考え方とも重なります。
(※)青山学院が育成する人物像で、「自由で自立した存在として、他者に仕えるとともに、互いの価値を見出し、それを他の価値とつなぐことによって新しい時代を創造する者」
大里:新学環では、どのようなことを学べるのでしょうか。
保科:データサイエンスの力をつけるにあたっては様々なアプローチがありますが、特にデータを前処理してデータ分析によって価値を引き出せるようにする「データ研磨」については力を入れていきたいと考えています。
大里さんもご存じの通り、取得したデータをデータ分析で問題解決につながるような形にするには、「データ研磨」という前処理が必要です。根気のいる作業ですが、データ分析を行う上では欠かせないとても重要なプロセスですよね。
通常のデータは、何でも使えるかなり汎用性の高い状態で手に入ります。そこからデータ上のギャップを具体的に一つ一つ正確に埋めて、問題解決につながる価値あるデータへと磨きあげていかなければなりません。
しかし、そのためには、事前にどのような結果が得られれば問題解決につながるのかという部分までイメージして設計していく必要があります。「データ研磨」のプロセスは、あらゆる問題解決につながる考え方なので、そのスキルを本学環でしっかり身につけてほしいと考えています。
青山学院大学 保科准教授:「統計データサイエンス学環」の学びのポイントのひとつに「データ研磨」がある
大里:保科先生がおっしゃるように、「データ研磨」という工程はとても大切です。私も帝国データバンクの仕事と並行して大学でも教えていますが、学生を見ていると、「データ研磨」を通じてデータへの理解を深め、分析結果を最終的な意思決定にどう結び付けるかまで具体的に描ける学生ほど、データ分析の力が伸びているように感じます。
保科:問題の根源的な部分にフォーカスし、問題を解決した状態をイメージし、そこへと導くためにどのようなアクションが必要かということまで考えられる。そういう人材を育てる上でも、「データ研磨」は学ぶべき重要な手法の一つだと考えています。
「統計データサイエンス学環」が設置される青山キャンパスは、表参道駅から徒歩約5分の好立地
IT企業が集まる渋谷・青山という地の利
保科:現在、来年の開設に向けて、多くの企業と連携を深め、データサイエンス人材としての実践力を養っていく場を構築しているところです。帝国データバンクさんでも、インターンシップを導入していると伺っていますが、どのようなものなのでしょうか。
大里:帝国データバンクは、従業員3,300人のうち、1,700人が調査取材部門に所属しています。当社のコアコンピタンスである企業信用調査がどのようなものかを知っていただくために、インターンシップではその業務を体感できるワークに挑戦していただいています。
保科:インターンシップで、大里さんの取り組み方やどのようにデータ処理を前に進めているのかなど、間近で見せていただける機会があれば、データサイエンスを学ぶ学生にとっては、「タフなデータサイエンス人材」になる良いきっかけになりそうですね。
大里:ありがとうございます。
新学環は青山キャンパスに設置されると伺いました。帝国データバンクの本社も南青山に所在していますが、渋谷や青山近辺にはIT系の企業もたくさんありますし、交通も便利ですよね。企業内のデータは機密性が高く、厳格な情報管理が求められます。そのため、大学と提携する企業が実際に行き来し、対面でやり取りしやすい立地であることは、大きなアドバンテージだと思います。
保科:帝国データバンクさんとは地下鉄でひと駅と近いですし、ぜひ何か一緒に研究に取り組みたいですね。
「統計データサイエンス学環」は、どのような企業とPBL型(プロジェクト型)授業や共同研究を行うか
新設予定の青山学院大学「統計データサイエンス学環」は、1学年60名の少人数制で、実践的な演習やPBL型授業を重視している点が特徴となっている。新学環が設置される青山キャンパスは、日本のIT企業が集中するエリアに位置しており、様々な企業と連携を行いやすい立地でもある。また就職先は、情報・通信分野やWebサービス・プラットフォーム企業、AI/機械学習エンジニアにとどまらず、コンサルティング・マーケティング分野、金融・証券分野、製造・建設分野、法務・知財分野、教育・公共分野など幅広い業界・業種で需要があるだろう。2027年4月の開設後、どのような企業とPBL型授業や共同研究を展開していくのか、今から楽しみだ。

青山学院大学 統計データサイエンス学環(2027年4月就任予定)
保科 架風 准教授

株式会社 帝国データバンク
大里 隆也氏
