クラッシックをはじめジャズ、ポップ、ロックなど、多様なコースを設置する昭和音楽大学。音楽教育を通じて社会に貢献できる人材の育成を目指す昭和音楽大学では、新たに「芸術工学部」※の設立を構想中だ。なぜ、音楽大学が工学系の学部を新設するのか。その経緯や目的などについて、下八川公祐副理事長に話を聞いた。
※2027年4月設置認可申請中

 

音楽技術を学ぶとともに 社会で活躍できる力を育む

 昭和音楽大学は1984年に設立された。ルーツは声楽家・下八川圭祐氏が1930年に創立した声楽研究所にある。声楽は心に近い芸術であり、同学では創立から現在に至るまで、「音楽」教育を大切にしてきた。副理事長である下八川公祐氏はこう語る。

「本学では『礼・節・技の人間教育』を建学の精神として掲げています。面白いと考えているのは、『技』という言葉が入っていることです。音楽は、しっかりとした技術が土台にあってこそ、その表現が自由になります。そのため、本学では基礎となる実技における教育をしっかりと行える環境を整備することに力を注いできました」

 こうした考えに基づき、昭和音楽大学は他の音楽大学がクラシック音楽を重視していた時代から、学びの領域を広げてきた。

「創立者がジャズ歌手を講師に招くなど、ジャンルにとらわれない柔軟な発想が伝統的にあり、それが大学に22、短大に14という多彩なコースの設置につながっています」

 幅広いジャンルの音楽や芸術が学べることにより、同学は演奏家や指導者といった分野に加え、プロデューサーや音楽イベント・舞台運営スタッフなど、幅広い領域に多様な人材を輩出している。

 昭和音楽大学のもう一つの大きな特徴は、学生たちに実践的な演奏の「場」 を提供していることだ。例えば、同学では8つの「昭和音楽大学附属音楽・バレエ教室」を設けており、学生は低価格でサロンホールが利用できる。

「このホールを利用して、数千円のチケットの価格設定でコンサートを開いた学生もいます。当初は『集客できるのかな?』と心配しましたが、盛況で見事に成功しました。学生たちはこうした体験を通じて、どのようにして観客の集め方や入場料をいくらに設定すべきかなど、音楽表現だけでなく、マーケティングマインドやマネジメントの能力を養っていくのです」

 基礎となる音楽技術を育みつつ、音楽を社会に提供する実感を養う。それが昭和音楽大学の基本的な考えなのだ。

日本の経済社会を支える新学部設置

 「本学は「大学高専機能強化支援事業」の支援を受けて芸術工学部の設置構想を進めています。西洋音楽は音を音階として構成しており、数理的な特性を持っています。芸術工学部ではデジタルコンテンツの制作やビジネスにおける社会実装を行う人材を育成したいと考えています」と下八川氏はいう。

「国内のデジタルコンテンツ市場はすでに12兆円を超えており日本の経済を牽引する重要な産業です。一時期赤字が続いていた貿易収支も黒字になりました。経常収支の黒字はかつてない規模となっていますが、この状況を維持していくためにコンテンツ産業は基幹的な役割を担っています。将来にわたってこの分野を支える人材が必要であり、本学の構想への期待が大きいことを実感しています」

 さらに、「芸術活動の取組の中ですでにフィジカルとデジタルの融合は自然な活動であり、我々にとっては日常そのものです。芸術工学部の構想では音楽(作曲)、美術、プログラミングを学ぶことによりコンテンツの素材とデジタル技術を利用したアウトプットを結び付けることが出来る履修モデルを想定しています」と語る。新たなコンセプトでの人材育成が我々の社会を支える日が来るのが楽しみである。

 「高等教育の将来像について、各大学が特色を生かす『大学の機能別分化』という考えが示されたことがあります。それによれば、本学は『特定の専門的分野(音楽)』に分類されますが、社会が変化し、大学に求められる役割も変化しており、幅広い分野での貢献が必要となっています。さまざまな目的で音楽を学ぶ学生に対して、彼らの将来の居場所となる多様な進路を社会に構築し、人材を輩出することが私たちに課せられた使命だと考えています」と下八川氏は話す。

そして新たに構想されているのが、「芸術工学部」の設立である。2027年4月の開設に向けて、現在着々と準備中で、同年3月にはその中核となる新棟(通称D棟)が完成する。Dはデザイン、デマンド、デジタルの頭文字をも意味し、まさに同学部の象徴ともいえる建物だ。
 
 構想中である芸術工学部の2つのコースでは、次世代のデジタルコンテンツを生み出すクリエイターの養成をめざす。受験生に向けて、下八川氏はこうメッセージを送る。

「どのような大学に進学するか選ぶ際には、先生やカリキュラム、施設といった要素も重要ですが、雰囲気やカルチャーが自分に合っているか?自分を支えてくれるか?といった観点も必要であると思います。大学では学生や教職員が具体的な教育研究活動を行い成果を出していくことが必要ですが、それぞれの想いを持ち、互いに支える場でもあります。実際の社会に出られるときに学生時代に培ったものが必ず役にたつと考えています。我々は常にその取り組みに注力して皆さんの時間と営みが将来のためになる様に努力して参ります」

未来のデジタルコンテンツを創造する芸術工学部の設立へ(設置認可申請中)
 昭和音楽大学が構想している芸術工学部は2027年4月に開設が予定されており、2つのコースが設置される。「デジタルエンタテインメントコース」では、ゲームやロボティクス、生体情報学などに芸術分野の知見を活かし、デジタルコンテンツの制作・設計・構築に不可欠な技術を習得する。一方、「デジタルコンテンツ構想コース」では、経営学や情報リスクマネジメントなど、多様なデジタルコンテンツの社会実装を進めるための技術や経営に関わる知見を養う。
 両コースともに、国際水準の情報系技術者教育プログラムに対応したカリキュラムで情報系の認定取得をめざすほか、情報工学の学修に最適な新棟を核に、既存のスタジオやホールなど音響空間も活用できる。情報工学をメインに学びつつ、音楽大学ならではの芸術科目と音楽実技の選択履修もできる点が特徴だ。
 情報技術やAIの発展に伴い、デジタルコンテンツ関連の人材に対する社会的なニーズは高まる一方だ。高度なカリキュラムと充実した学習環境の下、工学的思考と芸術的感性を兼ね備えた学生は多様な分野で活躍できることだろう。

 

南校舎のキャンパスに芸術工学部の新棟(D棟)が2027年3月に完成予定。コンセプトは「SINKA の架け橋」。既存の棟とつながり、異分野専攻の学生との交流も期待される

昭和音楽大学

下八川 公祐 副理事長

専修大学経済学部卒業。1999年東成学園に入職し企画広報部門を中心にキャリアを重ねる。
これまで同大学にサウンドプロデュース、ポピュラー音楽、音楽と社会等の新コースを設置したほか、ピアノアートアカデミー等の附属機関を設置、運営する。
2018年評議員、2020年常務理事に就任。
2022年より副理事長に就任し現在に至る。

 

昭和音楽大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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