青山学院大学は、2026年度よりアントレプレナーシップセンターを設立した。2026年7月1日には、SAKURA DEEPTECH SHIBUYAにて設立記念イベントを開催。設立経緯や特長を紹介したほか、パネルディスカッションや教員による実践事例の発表など、今後への期待を抱かせる内容となった。本稿では、イベント当日の様子をお届けする。

 

学生はもちろん、教員の活動も支援。今後の大学の大きな柱に

 イベントに先駆けて行われたメディア向け取材には、学長の稲積宏誠教授と中里宗敬教授(副学長(総務担当・産官学連携担当)、アントレプレナーシップセンター長)が出席。本イベントの趣旨や同センター設立の経緯等を語った。

 同センターの設立検討は、2023年度にスタート。他大学の事例を調査したあと、2024年から本格的に計画に着手した。

 同センター設立以前も、青山学院大学在学中に起業する学生はゼロではなかった。しかし大学側がすべてを把握していたわけではないため、「大学発ベンチャー」として公式に発表していた事例は少ない。同センターではこれまで個々で進めていた活動を大学として支援し、「点を線に、線を面に変える」ことをめざすという。

「社会にイノベーションを起こすには、個の力をきちんと引っ張り上げてまとめ、点を線に、線を面に変えていく必要があります。それが今後の本学の大きな役割だと思い、既に他大学では設置が進んでいるアントレプレナーシップセンターの検討を始めました。低迷している社会に対するイノベイティブな発想を学ぶ場が、学生には必要です。また、卒業生を含めて学内外のネットワークをきちんと作り上げることで、青山学院大学の社会的な役割をきちんと果たしていこうと考えています。同センターは今後の大きな柱のひとつにしていく予定です」(稲積学長)
稲積 宏誠学長 

 支援対象は学生だけではない。教員の研究を社会に実装する手段としてアントレプレナーシップにも関心も持ってほしいと、中里副学長は設立イベントの狙いを口にした。

「教員の研究に根ざしたスタートアップ支援も行っていきます。つまりセンター設立イベントは、学内の教員にも関心を抱かせ、あとに続いてもらうことも目的にしています」(中里副学長)

 同センターは、教員主導で設立されたのも特徴的だ。そのため授業への反映が早く、教員への影響力も大きい。また、卒業生に授業の一部を担当してもらったり、イベントにメンターとして参加してもらったりと、学外にも人脈を広げている。

「アントレプレナーシップ教育として、現在は4つの科目を開講しています。今後さらに4科目が追加される予定です。起業以外にも生かせるノウハウなど、授業内容の幅を広げられればと思います。たとえば大企業で社内ベンチャーを始めるなど、キーパーソンになれる人材を育てたいと思います」(中里副学長)
中里宗敬教授(副学長(総務担当・産官学連携担当)、アントレプレナーシップセンター長) 

アントレプレナーシップセンターの取り組みとは?

 同センター設立記念イベントは稲積学長の挨拶でスタート。「青山学院大学にはシャイな学生や教員が多いものの、興味深い取り組みを行っている。しかし社会への発信力は強くない。活動を適切に大学で把握して社会貢献していくためにも、アントレプレナーシップセンターを立ち上げた」と、設立の狙いを語った。

 続いて中里副学長が、初公開となるロゴとともにセンターの活動を紹介。同センターでは、主に3つの活動をピラミッドのように積み上げていくと語った。

 1段目の土台は全学生を対象にしたアントレプレナーシップ教育。全学共通教育システムの「青山スタンダード」にアントレプレナーシップの基礎を学べる科目を設置することで、多くの学生に機会を提供する。2段目は正課外で行われるイベントやワークショップ。起業に挑戦したいと思った学生の背中を押すために、ビジネスプランコンテストや壁打ちイベントなどを行っている。そして3段目は起業支援だ。法人設立や資金調達のサポート、専門家とのマッチングなどを行う。取り組みはセンター設立に先駆けて昨年度から徐々に実施。学部や学年を問わず200人以上の学生が関心を持ち、授業やイベント等に参加しているそうだ。

大学はアントレプレナーシップに力を入れるべき?教員たちの率直な声

 第一部として行われたパネルディスカッションには、松永エリック・匡史教授(地球社会共生学部 学部長)、古橋大地教授(地球社会共生学部 地球社会共生学科)、そして青山学院大学大学院国際マネジメント研究科卒業生でもある加藤由紀子氏(SBIインベストメント株式会社 取締役 執行役員 CVC事業部長)が登壇。「アカデミアは、なぜアントレプレナーシップを担うのか ―知を社会実装し、未来の価値を生み出す大学へ―」をテーマに、松永エリック教授の進行で議論が展開された。

 「アントレプレナーシップ入門」の授業を担当している松永エリック教授は、学生のなかに具体的なアイデアがある人は1割ほどで、その他の学生は「やってみたい」という理由で参加していると紹介。こうした気持ちを持つ人は才能の種を持つと評価し、アントレプレナーシップを教えて能力を引き上げるのが大学の役割だと語った。

 古橋教授も「授業内なら臆せず取り組めるし、学生をサポートできる。先生が近くにいるときにたくさん失敗したほうが効率が良い」と、学生時代に起業に挑戦する利点を挙げた。

 加藤氏は大学ではアカデミアの研究も大切だという前提に立ったうえで、成果を社会実装する手段のひとつとして起業も視野に入れてはどうかと提案。学生のみならず、教員にもアントレプレナーシップは重要だと考えていた。さらに松永エリック教授が、教員自身が起業をするだけでなく、ビジネスパートナーを見つけて経営面を協力していただくという方法もあると、選択肢を広げる手法を紹介する場面も見られた。

 起業経験者である両教授の体験談やゼミでの実践事例、多くの起業家を支えてきた加藤氏の知見を交え、熱のある討論が繰り広げられたパネルディスカッション。最後は「アカデミアはアントレプレナーシップを担うべき。今後は青山学院大学独自のアントレプレナーシップを作って発信したい」と松永エリック教授が展望を語り、幕を閉じた。

 第二部では伊藤雄一教授(理工学部 情報テクノロジー学科)と川又啓子教授(総合文化政策学部 総合文化政策学科)が、研究で社会に貢献した事例をそれぞれ紹介。伊藤教授は大学の研究と企業の研究では評価の観点が異なることを述べ、「大学での発見を社会の誰かが使うことで価値が生まれる」と研究を社会実装する意義を説明した。また、他大学の教員とともに立ち上げたスタートアップ事例も紹介。大学では企業では実施が難しい研究にも取り組めること、学生は課題発見から社会実装までを一気通貫で経験できることなど、大学におけるアントレプレナーシップの利点を説明した。

 川又教授は、人文・社会科学分野における研究成果の社会実装について、企業や自治体との共同研究の事例や、人材育成に向けた研究に着手していることを紹介した。また、日本のポップカルチャーに着目し、社会から否定的なイメージ(スティグマ)を向けられやすいコンテンツについて、受容の促進要因や阻害要因を研究してきた。こうした視点から、アントレプレナーシップについても一部では誤解や否定的なイメージをもたれる可能性があるため、そうした見方を自覚しながら社会との対話を重ねていくことが重要だと述べた。

 アントレプレナーシップについて、多角的な視点で考えを深めたあとは、第3部として懇親会を実施。教員や学生、卒業生など学内外の人材が交流する機会となった。

今後は青山学院大学発のベンチャーを発信していく

 青山学院大学では「大学発ベンチャー」として発信してきた事例はまだ少ないものの、学生や教員が個別に起業したケースは多い。アントレプレナーシップセンターの設立を機に、青山学院大学発のベンチャーや、研究成果の社会実装が増えていくかもしれない。学生や教員、そして大学の今後の挑戦に期待しよう。

青山学院大学

すべての人と社会のために未来を拓くサーバント・リーダーを育成

青山学院は、キリスト教信仰に基づく教育と、リベラルアーツ教育を柱に、すべての人と社会に貢献する人材、「サーバント・リーダー」の育成をめざしています。教養と技能を身につける、独自の全学共通教育システム「青山スタンダード教育」を展開。主体的に学び、自己を確立し、社[…]

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