東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は、2015年以降、同一の親子(小学1年生から高校3年生)約2万組を対象に、10年間にわたって「子どもの生活と学びに関する親子調査」を継続的に実施し、親子の意識や行動の変化を明らかにしてきた。

 この調査では、子どもがなりたい職業の変化や進路探索行動を分析した。その結果、進路について深く考える経験をした子どもは、小学4~6年生で66.4%、中学生で44.4%、高校生で40.9%が「勉強が好き」と回答しており、経験がない子どもより12.1~17.5ポイント高いことが分かった。また、社会のニュースや出来事に関心を持ったり、自分が興味を持つことを自主的に調べたりする割合も、進路について深く考える経験がある子どもの方が高く、学習時間も長い傾向が見られた。

 進路を深く考える経験には、学校と家庭の両方が大きく影響している。学校要因としては、「尊敬できる先生がいる」ことや「探究的な学び」に取り組んでいる子どもほど、進路について深く考える経験を持つ割合が高い。家庭要因としては、父母との会話が多い子どもほど、そのような経験を持つことが明らかになった。

 さらに、なりたい職業の変化を追跡したところ、約3人に1人(35.0%)が小学5年生の時点で希望した職業と同種の職業を高校2年生まで持ち続けていた。一方で、職業希望が一貫している子どもは、「自分の進路について深く考える」「疑問に思ったことを自分で深く調べる」といった機会が少ない傾向も見られた。早期に職業希望が固まることは、夢を持ち続ける点で意義がある一方、他の選択肢を探る機会が減少する可能性も指摘されている。

 2024年時点の「なりたい職業」ランキングでは、小学4~6年生では「プロスポーツ選手」がトップであり、中学生では「プロスポーツ選手」と「教員」、高校生では「教員」が最も多かった。男女別では、小学生男子は「プロスポーツ選手」、女子は「店員(花屋・パン屋など)」が人気であった。中高生のなりたい職業No.1が「教員」である傾向は、この10年間変化していない。最も身近な職業で男女ともに偏りなく人気があり、学年が上がるにつれて、夢を追う職業から資格を要する現実的な職業への志向が強まる傾向が見られる。

 2015年の調査と比較すると、子どもたちのなりたい職業にも新たな傾向が現れている。小学生では「YouTuber・VTuber」がランク外から4位に、高校生では「SE・プログラマー」が13位から6位に上昇しており、デジタル社会の進展を背景にIT関連職への関心が高まっていることがうかがえる。

 今回の調査は、子どもたちが進路を深く考える経験が学習意欲や行動に良い影響を与えることを示しており、主体的な学びを促すうえで進路意識の醸成が有効であることを示唆している。社会のデジタル化やグローバル化、働き方の多様化が進む中で、子どもたちの進路選択も型にはめるのではなく、考えるきっかけや選択肢を広げ、ともに悩み、応援することが大人に求められているとしている。

参考:【東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所】「子どもの生活と学びに関する親子調査」2015-24子どもたちのなりたい職業-2万人の調査モニターの10年間の軌跡-(PDF)

大学ジャーナルオンライン編集部

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