埼玉工業大学工学部生命環境化学科環境物質化学研究室、兼クリーンエネルギー技術開発センター長の本郷照久教授の研究チームが、陶器製の弁当容器から内装用タイル材を作製する技術を開発した。この環境に優しい技術により、食後に残る「峠の釜めし」の釜を資源として再利用することが可能となる。

 JR信越線横川駅(群馬県)の「峠の釜めし」は、創業明治18年の株式会社荻野屋が1958年2月1日に発売を開始し、これまでに約1億8000万個を販売している駅弁を代表する人気商品である。峠の釜めし容器は益子焼の土釜で、長い列車の旅で疲れた客が「温かい弁当を食べたい」という声から、陶器の器が採用された。

 近年、陶器の器(釜)の回収が進められているものの、年間の回収率は30%程度にとどまり、使用経路不明の釜は回収後に粉砕処分されている。このため、使用済みの釜の新たな活用方法が求められていた。タイルは建築材料として古くから利用されているが、日本国内では良質な粘土資源が枯渇しつつあり、すでに閉山した鉱山も存在しているのが現状である。また、一般的なセラミックタイルは焼成に900〜1300℃の高温処理が必要であり、製造過程におけるエネルギー消費による環境負荷が問題視されている。このような背景のもと、本郷教授の研究室では、釜めしの釜の再利用と環境負荷の低減を両立する技術の開発に取り組むこととなった。

 釜は成分分析により、石英(SiO2)とムライト(3Al2O3 · 2SiO2)の結晶粒子が焼き固まってできていることが分かっている。この釜を環境に優しいタイルとして再利用するために、メカノケミカル処理とジオポリマー化反応の技術を適用した。メカノケミカル処理では、粉末状にした釜に機械的エネルギーを加え、結晶の一部を非晶質化した。ジオポリマー化反応(geopolymerization)では、非晶質化した粉末にアルカリ活性剤を加え、60℃で反応を進めることで、内装用として十分な強度を持つタイル状の硬化体を作製した。この方法により、高温焼成を必要とせず、環境に優しいタイル製造が可能となった。

 開発した技術は、高温の熱処理や特殊な化学薬品などを使用する複雑な処理工程を必要とせず、環境に優しい技術を活用して、サーキュラー・エコノミー(循環経済)の時代に対応した環境負荷の低減に貢献するものである。

 今回開発した技術は、シリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)を含むさまざまな材料に応用可能であり、例えば、廃棄される陶器類、耐火レンガ、瓦などにも広く適用できる可能性がある。また、この技術はさまざまな形態に固化できるため、タイルだけでなく、レンガ状の建材、ブロック、パネルなど多様な製品の製造にも応用が期待される。本郷教授の研究室では、今後、これらの廃棄物の再利用技術の開発と製品バリエーションの開発を目指し、さらなる研究を推進していく。

 本研究成果は、「使用済み陶器製弁当容器からのジオポリマータイルの作製」というタイトルで、環境資源工学会が発行する学術雑誌「環境資源工学」(2025年第72巻第1号)に掲載された。

 本郷教授の研究室は、「廃棄物問題」などに着目し、物質化学をベースとした研究・開発により、廃棄物の有効活用を目指した問題解決に取り組んでいる。廃棄物をゴミとして処分するのではなく、未利用の資源として活用する新規リサイクルシステムの開発により、SDGs時代に対応するサーキュラー・エコノミーに役立つ研究を推進している。

参考:【埼玉工業大学】循環経済社会に対応し陶器製弁当容器の再利用技術を開発

埼玉工業大学

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