慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、耳鼻咽喉科学教室の小川郁教授の研究チームは、難聴の発現を引き起こすとされる複数の遺伝子について、コモンマーモセットを疾患モデルとして用いることで「霊長類に特異的な」遺伝子発現パターンがあることを発表しました。これまで疾患モデルを作れず難航していた遺伝性難聴の病態研究を進めるものと期待されます。

 先天性難聴は非常に頻度の高い先天性疾患であり、その約半数は末梢聴覚器である内耳の発達や正常な状態を保つ機能に障害が起こることが原因といわれています。これまでに、マウスを疾患モデルとして研究を行うことで、難聴発症のメカニズムの解明が試みられてきていますが、一部のヒトの難聴遺伝子、とくに進行性難聴を起こすものについては、マウスでは再現できない例が多く、原因解明や治療法開発の妨げになっていました。

 研究チームでは、小型霊長類であるコモンマーモセットの内耳を詳細に調べ、その組織学的構造や遺伝子発現がヒトに非常に近いことを発見しました。続いて、強く難聴の発現を引き起こすとされる20の遺伝子をコモンマーモセットの内耳で検討した結果、マウスでは難聴が再現できない5つの遺伝子でマウスとマーモセットの発現パターンに大きな違いが見られることが分かりました。今回の研究で「霊長類にしか見られない遺伝子の発現」がヒトの内耳で起こっていることが解明され、これがマウスで動物モデルが作れない原因である可能性も併せて示唆されました。

 今回の研究から、霊長類に特異的な遺伝子の働き方については、齧歯類のみならずヒトを含む霊長類における個体レベル、細胞レベル双方の研究からの多角的アプローチが必要であるという方向性が確認されました。また疾患モデル作成に難航していた遺伝性難聴遺伝子の研究が、コモンマーモセットを用いた研究により飛躍的に発展することが期待されます。

慶應義塾大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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