国際政治と聞くと、遠い国の話に思えるかもしれない。しかし国内の身近な場所でも、海外と無関係ではいられない時代になった。たとえば保育の現場だ。社会人向け共学大学院の東洋英和女学院大学大学院で学ぶ修士2年の麦島菜津子さんは、保育とDX、そしてフランスという多様な視点を組み合わせて研究に臨んでいる。麦島さんが所属している国際協力研究科国際協力専攻国際政治経済・地域研究コースの特色や、働きながら学び続ける理由などを伺った。

 

国際政治、SE、子育て……すべての経験が大学院につながった

 学生時代は国際政治を学び、フランスへの留学も経験した麦島さん。卒業後はシステムエンジニア(SE)として働いていたが、出産を機に保育士に転職した。

「私は効率的なことが好きで、私生活と相乗効果がない分野で働き続けていても意味がないと思ったんです。育児をしながらSEを続けても、純粋にSEだけをしている人よりも業務時間がどうしても少なくなってしまいます。使える時間を最大限投じても、社会の構造上お荷物扱いになってしまうのが嫌だったんです。子育てがマイナスにならない仕事に就きたいと思い、国家資格を取って保育士に転職しました」

 その後麦島さんは、SEとしての経験を活かし、保育士の労働環境改善を支援するDXにも取り組み始めた。さまざまな園と関わるうちに、とある課題に気づいたという。

「現場では外国をルーツにしたお子さんが増えていて、たとえ業務効率を上げたとしても保育士のみなさんが余裕を感じられないことに課題を感じました。これはお子さんが悪いわけでも、保育士のみなさんが悪いわけでもありません。時代の変化に対応するための考え方がそもそも存在していないことが原因のひとつです。この視点に気づけたのは、大学時代にお世話になった小久保康之教授とお話ししたから。移民大国であるフランス研究をすることで、日本での外国をルーツとするお子さんの受け入れ方を考えるヒントが得られるのではないか、と提案してくださいました。まさか自分の仕事と国際政治が結びつくなんて、驚きでしたね」

 小久保教授は東洋英和女学院大学大学院国際協力研究科の客員教授。麦島さんは小久保教授のもとで学びたいと、大学院入学を決意した。「外国にルーツがある未就学児の受け入れ政策」をテーマに、フランスの事例を調べながら修士論文執筆の準備を進めている。授業には教育現場で働いている人もおり、外国にルーツを持つ子どもたちと接した実体験も、麦島さんの糧となった。

「国際関係学などを専門にしてきた方だけではない、というのが非常に新鮮で。普段はなかなか話を伺えない他業種の事情が知れていいな、と思います。幅広い方に門戸を開いている東洋英和女学院大学大学院ならではです」

 また、同大学院の人間科学研究科への興味も、入学の後押しになった。

「私は保育士資格を国家試験で取得したので、養成校に通ったことがありません。保育について体系的に学ぶチャンスがあるのは、東洋英和女学院大学大学院の魅力だと思います。実際に人間科学研究科の『保育内容特論』も履修できました。私の人生でバラバラに見えていた経験が、大学院でつながった感覚があります」

わからないことに挑戦する機会をもらえる。大学院の学びの魅力

 麦島さんが感じている大学院の授業のおもしろさは、わからない内容に挑戦できること。とくに田中極子教授が担当している「国際法特論」からは、大きな刺激を受けたと語った。

「非常に難解で、学業として大きな試練をいただきました。まったくわからないことに、ハイレベルな本を読みながらイチからチャレンジしていくんです。内容もひとつひとつ田中先生が『これはどういうことでしょうか』と問い直してくださるので、無意識のうちにわかったつもりになっていた自分に気づき、衝撃が走りました。
普段の仕事では知らないことや得意ではないことをやるチャンスはほぼありません。ほかの人に任せたほうが効率がいいですから。無駄を排除しすぎて社会では切り捨てられてしまった機会を、大学院では得られるのだと思います」

 国際法は学部時代に一度学んだものの、大学院ではまた違った観点で向き合っている。

「国際法とは、有効性の有無は一旦横に置いて内容を学ぶ学問だと思っていました。しかし田中先生の授業で扱った本は、有効ではない国際法が存在する意義とは何か、を前提に書かれていました。国際法はなぜあるのか、なくても問題ないのか、という問いに真摯に向き合っている。その視点が、『国際法とはそういうものだから』と思考停止に陥っていた私を刺激してくれました」

延長制度やオンライン授業に助けられた。仕事と学修の両立

 数年前に起業したばかりの会社を経営し、子育てもしながら大学院に通っている麦島さん。通常の修士課程は2年間だが、長期履修制度を利用することで4年までの在学が可能になった。

「修士課程を4年で修了する場合、半期で履修しなければならないコマ数をかなり減らせます。さらに家族も協力してくれるおかげで育児にしわ寄せをせず、仕事と学業を両立できてとてもありがたいです。ただ、当初は2年で修了しなければいけないと思っていたので、入学時に長期履修制度を知ったときには驚きました」

ほかにもオンラインと対面どちらでも授業に参加できる全講義科目ハイブリッド授業や、通いやすい立地も仕事との両立を支える助けとなっている。働きながら学べる環境は、多くの社会人の後押しになるのではと、麦島さんは感じていた。

「もちろん仕事を辞めて学ぶのもひとつの選択だと思います。ただ、多くの方は、キャリアが止まることに匹敵するだけの価値が大学院にあるかどうかなんてわかりません。また、2年間働かなくても生きていける、という人もなかなかいないと思います。だからこそ、働き続けながら学べる環境は魅力的です。キャリアや生活へのリスクを減らしつつ、深い教養を持つ人材になれると思います」

 国際政治や保育など大学院で多くのインプットを得て、仕事のアイデアにつなげている麦島さん。修了後も学びを仕事に活かしたいと意欲を見せている。

「まずは修士論文で、日本の保育園に関する制度の改善策を導き出したいです。ただ、そのアイデアをどう社会に適応するかが次の問題です。実現に向けて道を切り拓いていく活動に、修了後は取り組みたいです。保育士や園独自の努力だけに頼らずとも、国内外問わずさまざまなルーツの子を受け入れられる。そして保育士の労働環境を圧迫しない。そんな豊かな保育や安心して子育てができる社会を実現したいです」

 大学時代の専攻や現在の職業を問わず、多様な社会人を受け入れている東洋英和女学院大学大学院。だからこそ多くの方に興味を持ってもらいたいと、麦島さんは感じていた。

「東洋英和女学院大学大学院の先生は、今まで何をやってきたかよりも、これから何を研究したいかを大事にしてくださいます。だから国際協力研究科には、政治学や社会学を学んだことのない方もたくさんいます。ひとりひとりが深く学べるよう熱心に取り組んでくださる先生ばかりなので、社会人が学ぶ場としてもおすすめです」

麦島菜津子さん

株式会社保助輪 代表取締役社長。保育業界のDXを推進する業務コンサルとして活動している。2025年4月に東洋英和女学院大学大学院国際協力研究科国際協力専攻国際政治経済・地域研究コースに入学した。

 

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