電気通信大学と東京大学の研究グループは、虫のぜん動運動を再現するソフトロボットの開発に成功した。

 動物は長い進化の過程で、複雑な物理環境に適応するしなやかな動きを獲得してきた。一方で、こうした動物の運動特性については、その巧妙なしくみを再現できる実験系の開発が進んでいないことから、あまり明らかとなっていない。

 中でも、動物の示す典型的な運動の一つであるぜん動運動に注目したのが本研究である。これまでも、シリコーン樹脂を用いて幼虫を模したソフトロボットは開発されてきたものの、ぜん動運動によって移動することはできなかった。本研究では、ショウジョウバエの幼虫をモデルに、二点の改良を加えたソフトロボットを開発した。

 改良点の一点目は、真空ポンプを用いて実際の幼虫と同様に個々の体節を収縮させた(※従来は体節を膨張させていた)ことである。二点目は、幼虫の腹部には靴のスパイクのような構造があり、その摩擦が前進運動に関わっていると考えられていることから、ソフトロボットにも前後非対称な摩擦が生じるようなしくみを取り入れたことである。

 この結果、開発したソフトロボットに対し適切な強度とタイミングで体節内の圧力をコントロールすることによって、ショウジョウバエ幼虫のぜん動運動のような動きを再現することができた。また、幼虫は前進運動より後進運動の方が遅いことが知られているが、開発したソフトロボットでも同様にこの特徴が観察された。

 さらに、このロボットを用いることによって、幼虫の収縮力が運動速度に関係することを示すことに成功した。収縮力の強さが運動に与える影響は、従来は解析が難しかったが、真空ポンプとロボットの間のバルブの開閉時間を制御することで、収縮力を変えながら運動速度を調べたところ、収縮力が強いほど運動速度が上がることがわかったとしている。

 このように、ソフトロボットを使うことで柔らかい動物が巧みに動く物理機構の理解に貢献することが期待される。

論文情報:【PLOS ONE】A vacuum-actuated soft robot inspired by Drosophila larvae to study kinetics of crawling behaviour

東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

電気通信大学

人類の持続的発展に貢献する知と技の創造と実践を目指し、総合的実践力のある高度な技術者、研究者を養成する

電気通信大学は1918(大正7)年に無線通信技術者の養成機関として創設された社団法人電信協会管理無線電信講習所がその起源です。理工系の分野において科学技術イノベーションを先導し知識基盤社会を支える高度人材の育成と輩出を目指します。[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。