横浜市立大学の研究グループは、脳卒中後の失語症でみられる日本語の「仮名」と「漢字」の書字障害に、それぞれ異なる神経ネットワークの損傷が関わっていることを明らかにした。
脳卒中などによって脳の特定の部位が損傷すると、「仮名だけ」あるいは「漢字だけ」が書けなくなったり読めなくなったりすることがある。このことから、脳内には読み書きに関わる2つの異なる経路が存在し、文字の音韻情報を処理する「音韻経路」が仮名に、文字の意味や語彙情報を処理する「形態経路」が漢字の読み書きに重要であるとする「読み書きの二重経路仮説」が提唱されてきた。しかし、これまでの研究は少数例での検討に限られており、この仮説が脳卒中後の失語症全般に当てはまるかは十分に検証されていなかった。
そこで本研究では、横浜市立脳卒中・神経脊椎センター、横浜新都市脳神経外科病院、横浜南共済病院の3施設と共同で、脳卒中後の失語症患者315人の脳MRIと言語検査データを大規模に解析し、書字障害と脳損傷部位との関連を調べた。また、損傷した部位だけでなく、損傷によってどの神経線維(白質ネットワーク)のつながりが断たれたかを推定する「Disconnectome解析」を用い、それぞれの書字障害に関わる神経ネットワークを推定した。
その結果、仮名の書字障害は音韻処理に関わる脳の背側経路、漢字の書字障害は意味・語彙処理に関わる脳の腹側経路の損傷と関連することが示された。年齢・病巣体積・罹病期間・脳卒中の原因(脳梗塞/脳出血)などの影響を調整した解析や、仮名・漢字相互の影響を調整した解析でも、一貫して「仮名:背側/漢字:腹側」という対応関係が確認されたという。
本研究により、仮名と漢字の書字障害に関わる神経基盤が異なることが、大規模な脳卒中後失語症患者のデータによって裏付けられた。この成果は、失語症の病態理解を深めるとともに、今後、患者ごとの症状に応じたリハビリテーションの個別化に役立つことが期待される。
論文情報:【Brain】Two scripts, two pathways: dorsal–ventral biases in post-stroke kana–kanji agraphia
